吉田理宏『黄色いバスの奇跡』



 昨日は、私用で群馬県桐生市へ――。

 行き帰りの電車で、吉田理宏著『黄色いバスの奇跡――十勝バスの再生物語』(総合法令出版/1296円)を読了。仕事の資料として。

 利用客数減少などで倒産の危機にあった、北海道帯広市の老舗バス会社「十勝バス」が、若き四代目経営者の改革によって蘇生していく道筋を描いたビジネス・ノンフィクション。ミュージカル化もされたという。

 よくまとまっている本だとは思うが、やたらと改行・行アケが多いスッカスカの体裁に違和感。ノンフィクションというより、ラジオドラマの台本を読んでいるような印象だ。

 読書慣れしていない読者にとっては、これくらいスカスカのほうが読みやすいのかもしれないが。

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蛇蔵・鈴木ツタ・たら子『天地創造デザイン部』



 予約注文しておいた、蛇蔵&鈴木ツタ原作、たら子作画の『天地創造デザイン部』第1巻(モーニングKC)Kindle電子書籍版が届いたので、さっそく読む。本日発売。

 「大人が読める学習マンガ」の傑作『決してマネしないでください。』で、私はすっかり蛇蔵のファンになってしまった。

 今作では蛇蔵は鈴木ツタ(マンガ家)とともに原作に回り、作画は「たら子」という別のマンガ家にまかせている。私は蛇蔵のすっきりした絵柄も好きだけどなァ。

 それにしても、蛇蔵・鈴木ツタ・たら子と3人の名が並ぶと、「ホントに人の名前か、これ?」って感じで、字面がスゴイ。

 神様が忙しいので、一部の動物のデザインと製造はアウトソーシングしている、という設定(笑)。その外注先が「天地創造社のデザイン部」で、天使たちが神様とデザイン部の連絡役を務める。

 「クライアント」である神様の“無茶ぶりなオーダー”に振り回されつつ、天地創造デザイン部は新しい動物を創造する仕事に大わらわ。それぞれキャラの立った数人の「デザイナー」たちが、自分の作りたい生き物を作ろうとする。

 そのデザインが神様のお眼鏡にかなった場合(=生物としてのクオリティが高く、地球で生き残っていける条件をきちんと備えていた場合)、天使たちに「天啓!」がビビッと下って「採用」となり、実在する生物となる。

 つまりこれは、地球上に生息する生き物たちが、なぜそのような形状と生態を持っているのかを、動物学・生物学などの知見をふまえ、笑いにくるんで解き明かしていくマンガなのだ。→ 版元サイトによる第1話試し読み

 科学史や科学の基礎知識をコメディ仕立てにして読者に提示した快作――『決してマネしないでください。』を生んだ蛇蔵らしい作品といえる。
 「理系のコメディ」という、ほとんど例のない(電子工作コメディの傑作『ハルロック』などを除けば)ジャンルを切り拓いている作家さんなのだ。
 
 ちなみに、『決してマネしないでください。』がファンの間で「決マネ」と略されていたのに対し、本作は「天デ部」と略すそうだ。

 独創的コメディを楽しむうち、生物に関するさまざまな知識がおのずと身につくマンガである。
 もっとも、このマンガで得た知識は、話のネタになるくらいが関の山で、およそ実用的ではないけれど……。

 
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ボニー・レイット『ギヴ・イット・アップ』



 ボニー・レイットの1972年のセカンド・アルバム『ギヴ・イット・アップ』を、中古で購入してヘビロ中。

 少し前に『コレクション』という彼女のベスト盤を買ってこれも愛聴していたのだが、そうするうちにオリジナル・アルバムを買い揃えたくなってきた。
 で、とりあえず、ボニーの最高傑作との呼び声も高いこのアルバムを買ってみたしだい。

 いやー、これはたしかに名盤だ。捨て曲なし。約37分のトータルプレイングタイムはいまの感覚では短いが、中身が濃いから短く感じない。
 極上のヴォーカル・アルバムにして、グレイトなギター・アルバム。ブルース、ジャズ、ゴスペル、カントリーなど、アメリカン・ルーツ・ミュージックの諸要素を絶妙にブレンドし、渋いアメリカン・ロックにまとめ上げている。

 当時まだ22歳だったボニー・レイットが、ヴォーカリストとしてもギタリストとしても円熟の境地を見せているのがすごい。すでにして風格すら漂っている。

 オープニングの「ギヴ・イット・アップ・オア・レット・ミー・ゴー」などで聴かせるスライド・ギターも絶品だが、私がいちばん気に入ったのはもろブルースの「ラヴ・ミー・ライク・ア・マン」。この曲の生ギターの音色の、なんと心地よいこと。





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石川明人『私たち、戦争人間について』



 今日は、私用で都内某所へ――。

 行き帰りの電車で、石川明人著『私たち、戦争人間について――愛と平和主義の限界に関する考察』(創元社/1620円)を読了。書評用読書。

 この著者が昨年出した『キリスト教と戦争』はとてもよい本で、私は昨年のベストテンにも選んだのだが、それにつづくこの新著もじつに素晴らしい。

 前著は、1人のキリスト教徒としての立場から、「愛と平和を説くキリスト教を信仰しながら、人々はなぜ戦えるのか?」を問い、キリスト教と戦争の関係をその歴史から鋭く考察した好著であった。

 本書は、前著から一気に間口が広がり、人類史における戦争そのものを俎上に載せている。“我々はなぜ、平和を求めながら戦争を重ねてきたのか?”、“なぜ戦争がなくならないのか?”などという、人類と戦争をめぐる根源的な問いに真正面から迫ったものなのだ。

 著者は、戦争について考察した古今東西の膨大な文献を渉猟し、そのエッセンスを手際よく本書の中に取り込んでいく。つまりこれは、戦争をめぐる学説史・言論史の概説書でもあるのだ。

 それらのエッセンスを紡ぎ合わせた上に、著者は自分なりの戦争観・平和観をまとめ上げていく。それは、いわゆる「お花畑」的な理想論に陥ることなく、人間の悪や弱さを鋭く見つめた冷徹なものだ。

 本書は学術論文ではなく、アカデミックな装いをこらした「戦争論エッセイ」である。が、なまなかな論文などよりもずっと、読者を深い思索に誘う。

 戦争と平和について深く考えようとする者にとって、最良の素材になり得る書。

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八木澤高明『日本殺人巡礼』



 八木澤高明著『日本殺人巡礼』(亜紀書房/1836円)読了。

 著者は元『FRIDAY』の専属カメラマンで、現在は写真家・ノンフィクション作家。
 前に、この人の『娼婦たちから見た日本』という著書を読んだことがある。これはとてもよい本だった。

 本書は、亜紀書房のウェブマガジン「あき地」に連載された「殺人風土記 」に、加筆・改稿を加えたもの。元のウェブ連載はいまも読むことができる。

 過去の有名殺人事件の現場や犯人の故郷などを著者が旅して、当時を知る人、犯人の幼馴染みなどの話を聞いていく内容だ。
 つまり、犯罪ルポというよりも、“ルポ色も加味された事件紀行”という趣。

 部分的には面白いのだが、“犯人が生まれ育ったこの地域の風土が、犯罪の背景にある”みたいな決めつけが多くて、その点に違和感を感じた。

 たとえば第2章「北関東犯罪黙示録」では、埼玉愛犬家連続殺人事件や本庄保険金殺人事件などを、北関東で起きた事件として一括りにしている。写真週刊誌のカメラマン時代、現場に通った事件のうち、「記憶に残る事件の多くが、どういうわけか北関東に集中していた」のだそうである。

 そして、各章では犯人が生まれ育った地域の歴史が前近代まで遡って辿られ、その部分は歴史随筆のよう。
 犯罪と犯人が生まれ育った風土は、もちろん、まったく無関係ではないだろう。が、著者は両者を恣意的に結びつけすぎだと思う。中沢新一のオカルト本『アースダイバー』のような胡散臭さを感じてしまう。

 そのへんは感心しなかったが、本書にはよい点もある。
 たとえば、古いものでは80年前の事件(「津山三十二人殺し」)もあるなど、昔の事件が多いのに、犯人を知る人を探し当てて取材する著者の根気と勘のよさには感服した。

 また、著者は『娼婦たちから見た日本』においても、娼婦たちを「上から目線」で見ることなく寄り添う描き方をしていたが、そうした姿勢は本書にも通底している。

 私は殺人者を上から断罪するつもりで旅をはじめたわけではなく、もとよりその資格もない。
 なんで彼らが人を殺めたのか、その理由が知りたかった。(「はじめに」)



 それと、第4章「北海道に渡ったネパール人」だけは、他の章とは異質な本格的犯罪ルポになっている。
 日本人と結婚したネパール人男性が妻と幼子を殺した2008年の事件を扱ったもので、衝撃的な内容だ。この犯人のネパール人については、他の章に出てくる永山則夫や小原保などとは違って、一片の同情の余地もない。

 著者はネパール人女性と結婚していた時期があり、ネパールにも長く暮らした人物。被害女性の親友とも個人的に親しいことから、この事件を深く取材したのだという。
 そのような著者にしか書き得ない厚みのあるルポで、本書の中でこの4章のみは独立した価値を持っている。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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