コンラート・パウル・リースマン『反教養の理論』



 昨日は雨の中、羽田空港まで赴き、ソーシャルワーカーの藤田孝典さん(NPO法人「ほっとプラス」代表理事)を取材。ご多忙のなか、飛行機に乗るまでの時間を割いていただいたのである。
 
 行き帰りの電車で、コンラート・パウル・リースマン著、斎藤成夫、齋藤直樹訳『反教養の理論――大学改革の錯誤』(法政大学出版局/3024円)を読了。書評用読書。

 ウィーン大学哲学科教授の著者が、ヨーロッパの大学改革を痛烈に批判した書。

 原書は2006年に出たもの。11年後のいまになって邦訳が刊行されたのは、日本でいままさに文科省が進めている大学改革への批判の嵐が巻き起こっているからであろう。
 本書が出た7月に、『反「大学改革」論――若手からの問題提起』、『「大学改革」という病――学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する』という類書も刊行された。

 要は、欧米でも日本でも、資本主義の爛熟が大学までも侵し、「すぐ役に立つこと」「すぐお金になること」を目指した経済効率一辺倒のありようになってきたということであろう。
 教養なんて、そもそも実用性とは無縁のものなのだから、大学が実用性偏重になれば「反教養」の場と化していくのは当然だろう。

 “教養とは何か?”を突きつめて考察した書としても、読み応えがある。ヨーロッパの話ではあるが、日本の大学改革にもあてはまる話ばかりだ。

石田淳『一〇〇歳時代の人生マネジメント』ほか



 石田淳著『一〇〇歳時代の人生マネジメント――長生きのリスクに備える』(祥伝社新書/842円)、小島貴子著『女50歳からの100歳人生の生き方』(さくら舎/1512円)を読了。仕事の資料として。

 リンダ・グラットンほかの『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』が日本でも18万部突破のベストセラーになったこともあり、「人生100年時代の生き方」をテーマとした書籍が続々と刊行されている。この2冊もその一部である。

 『女50歳からの100歳人生の生き方』は、書名のとおり、女性読者に対象を絞ったもの。著者は東洋大学准教授で、ライフカウンセラー。
 一方の『一〇〇歳時代の人生マネジメント』は、男性のみが対象というわけではないが、どちらかといえば男性向け。取り上げられたエピソード等も男性のものが多い。著者は、「行動科学マネジメント研究所」の所長。

 内容もまったく対照的だ。
 『女50歳から~』が終始ポジティブで「女性のみなさん、100年人生を楽しみましょうね!」という感じなのに対し、『一○○歳時代の人生マネジメント』は、「人生100年時代」の暗い側面、リスク面にもっぱら目を向けている。

 いまや100歳人生が現実に! どう楽しく生きるか! 50歳で生き方をリセット、自分が主役の人生を!(『女50歳からの100歳人生の生き方』の帯の惹句)



 あなたは、自分が長生きするという喜ばしい理由によって、想像を絶する苦しみを味わうことになるかもしれない。すなわち、命は長らえているのに、そこにお金も健康も心のやすらぎもないという、あまりにもつらい日々が待っているのである。(『一〇〇歳時代の人生マネジメント』の帯に引用された「はじめに」の一節)



 同じテーマを扱いながら、これほど対照的な内容になるのも面白い。
 「妻に先立たれた中高年男性は総じて意気消沈し、平均余命5年程度であるのに対し、夫に先立たれた中高年女性はむしろ元気になる」という話を思い出してしまった(笑)。
 2冊併読すると、バランス的にちょうどよいかも。

稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル入門』



 稲葉陽二著『ソーシャル・キャピタル入門――孤立から絆へ』 (中公新書/821円)読了。
 
 ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)についての良質な入門書。
 仕事の資料として読んだものだが、とてもためになったし、読み物としても面白かった。

 ソーシャル・キャピタルは社会学・政治学・経済学・予防医学・社会疫学など多くの分野にまたがる学際的概念だが、著者は経済学者(日大法学部教授)であるため、本書は経済学的側面のウェートが高い。
 ただし、ほかの分野にも十分目配りがされている。ソーシャル・キャピタルをめぐる学説史、おもな論点などが手際よく紹介され、バランスの取れた概説書になっているのだ。

 「3・11」の約半年後に刊行された本であるため、当時注目された日本社会のソーシャル・キャピタルの再評価(被災地でも略奪のたぐいが起こらず、被災者たちが高い秩序を保って助け合ったことなど)に、ある程度の紙数が割かれている。

 たとえば、当時「絆」が称揚された一方、「『絆』という言葉の濫用は気持ちが悪い」などという反発もあったわけだが、研究者の間では、ソーシャル・キャピタルにそのような正負両面があることは常識になっているという。束縛につながるなどの負の側面は「ダークサイド」と呼ばれるとか。

 とはいえ、刊行から6年を経たいま読んでも、十分示唆に富んでいる。ソーシャル・キャピタルを毀損する最大要因は格差拡大であり、その点ではいまの日本社会にこそ、ソーシャル・キャピタル重視の視座が必要であるからだ。

河合雅司『未来の年表』



 河合雅司著『未来の年表――人口減少日本でこれから起きること』 (講談社現代新書/821円)読了。

 『産経新聞』論説委員による、「人口減少が進んでいくとどんな社会になっていくのかを、カレンダーの如く一覧できる新書」。すでに12万部突破のベストセラーになっているという。

 著者は人口減少を「静かなる有事」と表現する。その視点は、「人口減少は日本にとってチャンスだ」などという楽観論とは対照的である。もっぱら人口減少のマイナス面に光が当てられ、読んでいるとだんだん暗澹たる思いになってくる。

 今年から2115年にわたる向こう1世紀の未来を見据え、「年代順に何が起こるのかを示した」第1部は、すごい迫力だ。幅広い問題を丹念に調べてあって、資料的価値も高い。

 ただ、「第2部 日本を救う10の処方箋 ――次世代のために、いま取り組むこと」は、著者がドヤ顔で書く(そういう感じの文章なのだ)「処方箋」に、絵空事や小手先の弥縫策と思えるものが多く、全体にパッとしない。

 少子化対策として第3子には一律1000万円を国が支給するだとか、高齢者の定義(いまは65歳以上)を「75歳以上」に変えることで高齢者を「削減」するだとか、「ホントにそんなことが抜本的対策になると思ってるの?」と問いつめたくなるような提言が目立つのだ。

 とはいえ、第1部だけでも十分に読む価値がある新書ではある。

橘玲『言ってはいけない』



 一昨日の新幹線で読んだ本の2冊目は、橘玲著『言ってはいけない――残酷すぎる真実』(新潮新書/842円)。

 帯には「遺伝、見た目、教育に関わる『不愉快な現実』」とある。
 進化論、遺伝学、脳科学、行動経済学など、さまざまな分野の研究・統計調査の結果から、一切のキレイゴトを排して「残酷すぎる真実」を浮き彫りにしていく本。

 「残酷すぎる真実」とは、たとえば次のようなこと。

 美貌を5段階で評価し、平均を3点とした場合、平均より上(4点または5点)と評価された女性は平凡な容姿の女性より8%収入が多かった。それに対して平均より下(2点または1点)と評価された女性は4%収入が少なかった。(中略)
 経済学ではこれを、美人は8%のプレミアムを享受し、不美人は4%のペナルティを支払っていると考える。


 
 ……このような、「それを言っちゃあオシマイよ」な話が、次から次へと登場する本なのだ。

 本書は、当ブログでも取り上げた同じ著者の『「読まなくてもいい本」の読書案内』の、スピンオフ本として生まれたものだという。

 『「読まなくてもいい本」~』は、複雑系科学・進化論・ゲーム理論・脳科学・功利主義の5分野の概要と最前線を、手際よく紹介した概説書であった。それに対し、本書はさまざまな分野の最新研究から、身もふたもない話を選り抜いて紹介した本なのだ。

 著者は研究者ではないから、本書はさまざまな分野の研究をパッチワークした、いわば「受け売り本」である。しかし、著者の受け売りは洗練された見事なものであるため、「他人のフンドシで相撲を取るお手軽本」という印象を与えない。
 たかが受け売りも、ここまで巧みなら立派な「芸」になるのだ。

 本書は読み物としては大変面白いし、たんに「話のネタ」とする分には有益な雑学本といえる。
 ただ、内容を鵜呑みにするのは危険だ。ベースになっているのが科学者の研究であっても、その研究が正しいとは限らないのだし……。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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