『アシュラ』



 DVDで『アシュラ』を観た。



 話題の韓国産フィルム・ノワール。サイコパスの極悪市長に翻弄されて道を誤った、中途半端な悪人たちの悲劇という趣だ。
 
 「韓国ノワール最高傑作」とも評される作品だけに、暴力描写はたしかにすさまじい。
 「スタイリッシュ・ヴァイオレンス」とでも言おうか、最初から最後まで暴力描写に力が込められていて、しかもアイデアと創意工夫に満ちている。

 たとえば、序盤に刑事が金網をぶち破って転落死する場面があるのだが、それが本当に俳優が転落したとしか思えない映像なのだ。いったいどうやって撮影したのだろう?

 また、主人公の悪徳刑事(チョン・ウソン)を椅子にしばりつけ、毛布を頭からかぶせて殴りまくるシーンがあるのだが、その毛布にジワ~ッと血のシミが広がる描写が、なんともエグい。素顔のまま殴る描写よりも、視覚的にはるかに「痛い」。

 ある登場人物が獄中で、他の囚人によってたかって刺殺されるシーンもすごい。そのシーンでは、歯ブラシを削って先端を尖らせたものが凶器として用いられる。それがなんとも痛そうでむごたらしいのだ。

 ほかにも、カタルシスよりもむしろ狂気を感じさせるイカれたカーチェイス・シーンなど、ド迫力の暴力描写、アクションが目白押しだ。

 ただ、ストーリーは凡庸かつ一本調子で、なんのヒネリもない。

 一般にフィルム・ノワールといえば、裏社会に生きる男の友情とか、破滅へと向かう男が醸し出す詩情が主調音になるわけだが、この映画には男の友情も詩情もまったくない。
 主要キャラは全員悪人だし、彼らがラストの破滅へと向かうプロセスも、「ま、こんなムチャクチャなことしてたら、そりゃそうなるわなァ」というもの。

 詩情も男の友情もゴッソリ削ぎ落とし、ラストには全員死んで何も残らない、荒涼無比の韓国ノワールである。

 

『お嬢さん』



 『お嬢さん』をDVDで観た。



 サラ・ウォーターズがヴィクトリア朝の英国を舞台に書いた歴史犯罪小説『荊の城』を、『オールド・ボーイ』などで知られる韓国の鬼才パク・チャヌクが映画化した作品。舞台を日本統治下の韓国に置き換えている。

 二転三転する展開の騙し合いサスペンスなのだが、ミステリーとしての面白さはこの映画では二次的な要素で、全編に満ちた薫り高いエロスのほうが強烈な印象を残す。

 多くの国で成人映画指定を受けたほど濃厚な性描写がちりばめられているが、その性描写が堂々としていて、しかもゴージャス。
 カンヌ映画祭グランプリ監督であるパク・チャヌクが、己が才気とセンスを存分に注ぎ込み、たっぷりとお金もかけて作り上げた、極上のエロティック・スリラーなのである。

 全員韓国人の俳優陣が、ところどころたどたどしい日本語のセリフを駆使する。そのアヤシゲな感じすら安っぽさにならず、ユーモラスな味わいになっている。

 エロスとヴァイオレンス、復讐、歪な笑い――パク・チャヌクらしい要素がてんこ盛りで、3時間近い長尺を少しも飽きずに観通すことができた。

『サマリア』

サマリアサマリア
(2005/09/23)
クァク・チミン; ハン・ヨルム; イ・オル

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 『サマリア』をDVDで観た。
 「三大国際映画祭制覇に最も近い男」と呼ばれる韓国のキム・ギドクが、2004年に撮った作品。ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞作。

 日本の援助交際のニュースにインスパイアされた物語だと聞いていたので、もっと下世話な映画だと思っていた。いい意味で予想を裏切られた。

 2人で援交をくり返す女子高生の親友同士とか、娘の援交を知って苦悩する父親とか、基本設定だけ取り出してみると陳腐なのだが、その展開のさせ方がすごい。少しも紋切り型に陥っていない。

 1970年代のATG映画みたいな暗い情念の迸りがあるのだが、それでいてジメジメしていない。全編に硬質な透明感があふれているのだ。
 インセストの匂いも漂う父と娘の関係など、一歩間違えば俗な事件読み物みたいな映画になりかねない題材。にもかかわらず、三面記事的な俗っぽさは皆無。むしろ神話的な深みを感じさせる。
 くり返し登場する水のイメージなど、映像の詩的な美しさはタルコフスキーを彷彿とさせる。

 つまり、「ATG映画meetsタルコフスキー」みたいな作品。キム・ギドクは「映画作家」と呼ぶにふさわしい。

『私のちいさなピアニスト』

私のちいさなピアニスト [DVD]私のちいさなピアニスト [DVD]
(2008/02/22)
オム・ジョンファシン・ウィジェ

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 京橋の映画美学校試写室で『私のちいさなピアニスト』の試写を観た。8月下旬公開の韓国映画。

 公式サイト→ http://www.mylittlepianist.com/

 国際的なピアニストになるという夢に挫折したヒロインのジスは、ソウル郊外に小さなピアノ教室を開く。
 教室への引っ越しの日、1人の少年が、彼女の荷物の中からメトロノームを奪い去って逃げる。少年は、7歳のキョンミン。両親はおらず、虐待癖のある祖母と2人で貧しい暮らしをしていた。
 情緒不安定で近所の住民とのトラブルが絶えないキョンミンだったが、ジスは彼が「絶対音感」の持ち主で、ピアニストとしても才能に恵まれていることを見抜く。

 ジスは、キョンミンをピアノ・コンクールに優勝させることで、ピアノ教師としての名声を得ようと考える。そしてその日から、厳しいレッスンが始まるのだった。
 みるみるピアノの腕を上げていくキョンミン。彼はジスに、4歳のころに事故で亡くした母の面影を見ていた。ジスも、打算からレッスンを始めたものの、やがてキョンミンに母性愛を感じ始めるのだった。

 不思議な絆で結ばれた孤独な師弟。その夢への道程を描いて、感動的な作品。コミカルな部分と「泣かせ」の部分の配合が絶妙で、気持ちよく観られる。

『とかげの可愛い嘘』

とかげの可愛い嘘 特別版 [DVD]とかげの可愛い嘘 特別版 [DVD]
(2007/05/04)
チョ・スンウカン・ヘジョン

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 東銀座のシネマート試写室で、『とかげの可愛い嘘』の試写を観た。12月16日公開の韓国映画。

 公式サイト→ http://www.cinemart.co.jp/tokage/

 ファンタジー仕立てのラブストーリーである。主人公の前に現れては消える謎のヒロイン、アリ。小学生時代から現在までの20年間に、わずか数日しかともに過ごさなかった2人の愛を、童話のように描き出している。

 アリは、主人公の前に現れるたび荒唐無稽な嘘をつく。そして、3度の別れのあとの4度目の出会いで、その嘘の意味と彼女が姿を消す悲しい理由が明らかになる。

 終盤で明かされる「アリの秘密」がありきたりだし、ファンタジー映画としてはB級という印象。ただし、アリ役のカン・ヘジョンがカワイイので、多少の瑕疵は大目に見たくなる。これは、彼女のためにある映画だ。

 カン・ヘジョンは、傑作『オールド・ボーイ』でヒロインのミドを演じていた女優である。黒目がちのつぶらな瞳が小動物のよう。手の届かない美女というより、「ガール・ネクスト・ドア」「学校でいちばんカワイイ子」タイプ。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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