『T2 トレインスポッティング』



 『T2 トレインスポッティング』をDVDで観た。



 1990年代を代表する青春映画『トレインスポッティング』(1996年)の続編。
 『トレインスポッティング』は封切り当時に一度観たきりで、内容をほとんど覚えていなかったので、まずそちらを再見(アマゾンのプライムビデオに入っている)。

 正編は、仲間たちとヤクの取り引きで手に入れた大金を主人公マーク・レントン(ユアン・マクレガー)が1人で持ち逃げするところで終わった。この続編は、マークが20年ぶりに街に舞い戻るところから始まる。

 正編の主要キャラたちの20年後を同じキャストで描くという、ある意味でとても残酷な続編だ。
 日本の代表的な青春映画――たとえば『祭りの準備』や『サード』の20年後を描く作品が、同じキャストでもし作られていたとしたら? 青春の無残な残骸を見せつけられるような、ひたすら暗く哀しい映画になったに違いない(※)。

※『トレインスポッティング』と同年に作られた青春映画である『キッズ・リターン』を例に挙げようと思ったのだが、『キッズ・リターン』は主人公たちの10年後を描く続編(『キッズ・リターン 再会の時』)が作られていた。私は未見だし、こちらは「同じキャスト」ではないけど。

 が、本作は意外に楽しめた。
 『トレインスポッティング』は、ヘロインに耽溺する無軌道な若者たちのデスペレートな青春を、ポップかつスタイリッシュに描いたところが新鮮だった。悲しい歌詞を楽しいメロディーに乗せたねじれた歌のような味わいがあったのだ。

 同様に、この続編に描かれる主要キャラたちの20年後は悲惨なのだが(ベグビーは刑務所に服役中だし、シック・ボーイは売春と恐喝をなりわいにしているし)、その悲惨な中年ぶりが、ポップかつスタイリッシュに描かれているのだ。

『未来を花束にして』



 『未来を花束にして』をDVDで観た。
 およそ100年前の英国を舞台に、女性参政権を求めて闘った女性たちの姿を、実話に基いて描いた映画。



 甘ったるい邦題とは裏腹に、けっこうヘビーな作品である。描かれる女性たちの運動はテロも辞さない過激なもの(人こそ殺さないが、大臣の別荘を爆破したりする)だし、ヒロインたちが働く洗濯工場の労働環境は過酷だし。

 警官隊は、デモ中の女性活動家を手加減なしで警棒でぶちのめす。獄中でハンガーストライキをすれば、数人で押さえつけて無理やりミルクを流し込む……。いやはや、すごいものだ。邦題から連想されるような、「みんなで言論闘争をがんばりましょうね」的な甘さは絶無なのである(※)。

※邦題に見られる“甘々補正”は、予告編の作り方にも表れている。英語版のオフィシャル・トレーラー(↓)にちりばめられている暴力的シーンが、日本版予告編からは巧妙に削除されているのだ。



 この時代、女性は参政権も親権も認められず、職場の上司からのパワハラ、セクハラもあたりまえ、夫は妻を所有物扱い……。
 たった100年前(日本でいうと大正時代)には英国ですらこんなありさまだったのだ、と改めて驚かされる。また、「いまはいい時代なんだなァ」ともしみじみ思う。

 メリル・ストリープが演じるエメリン・パンクハースト(女性参政権を求める「WSPU――女性社会政治連合」の創設者・指導者)ら、実在の人物も登場するが、ヒロインのモード・ワッツは架空の人物である。

 モード役のキャリー・マリガンが、「女性活動家」っぽくない清楚なたたずまいであることが、よい方向に働いている。無思想・無教養で平凡な工場労働者が、偶然からしだいに政治意識に目覚め、運動にのめり込んでいく物語に自然な説得力を与えているのだ。
 キャリー・マリガンは、とても日本人好みのルックスをしていると思う。小動物系というか。私も好きだ。『ドライヴ』の人妻役もよかった。

 地味だが、とてもよい映画であった。
 
 なお、この映画に描かれている「サフラジェット(Suffragette/本作の原題)」=闘争的な女性参政権活動家の歴史については、このページを読むと大枠がわかる。
 
 

『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』



 『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』をDVDで観た。



 ドローンの遠隔操作によって、数万キロ離れた会議室から指揮される、テロ集団との息詰まる戦い――。21世紀の最先端の戦争を描いて、ド迫力の軍事サスペンスだ。

 平常心で観ていられるのは、序盤の状況説明のみ。そこからラストまではビリビリとした緊張感がずっと持続し、目が釘付けになる。

 ターゲットのテロリストをミサイルで爆殺しなければ、自爆テロで大勢の人が死ぬ。だが、テロ集団のアジトの真ん前には、パンを売るナイロビの少女が……。
 予想される80人のテロ被害者を救うため、罪のない1人の少女を殺してもよいのか? いわゆる「トロッコ問題」的な倫理学の思考実験を、現実に起こり得るシチュエーションに置き換えて、ものすごいサスペンスがそこに生まれた。

 「戦争の正義」を問う社会派作品でありながら、極上のエンタメにもなっている逸品。

 

『エクス・マキナ』



 『エクス・マキナ』をDVDで観た。
 映画館で観たいと思っていたのだが、上映館数も少なく、公開もすぐに終わってしまって観損ねた作品。



 期待通りの面白さだった。

 マッド・サイエンティストがひそかに創り上げた人間そっくりのロボットが、やがて人間のコントロールを振り払って暴走し……という骨子は、それこそ『メトロポリス』(1927年)まで遡れるほど使い古されたものだ。

 しかし、その手垢にまみれたアイデアを、本作は2010年代後半ならではのリアリティで巧みにアップデートしている。古い革袋に入れた新鮮な葡萄酒のように。

 『エクス・マキナ』でマッド・サイエンティストの役割を果たすのは、世界的検索エンジン企業「ブルーブック」を一代で築き上げた、天才プログラマー兼CEO。

 「ブルーブック」がグーグルを意識させずにおかないため、アメリカ映画のような気がしてしまうが、イギリス映画だ。
 そして、観終わってみれば、「ああ、このヒネリ具合はやっぱりイギリス映画ならではだなァ」と思わせる。

 「チューリング・テスト」や「シンギュラリティ」といった、AIを語るには欠かせないネタを盛り込んだ、すこぶる知的な大人のエンタテインメント。かなりエロティックでもあるから、お子ちゃまには理解不能だろう。

 「AIが長足の進歩を遂げていった果てに、意識や感情はそこに生まれるのか?」という問いに、この映画は一つの答えを提示する。
 AIについて何冊か本を読むなど、ある程度の知識があってこそ楽しめる作品。SFサスペンスとしても上出来で、映像もスタイリッシュだ。

 美しき女性型ロボット「エヴァ」を演じるアリシア・ヴィキャンデルが、強烈な印象を残す。
 SF映画におけるロボットのイメージが、この映画によって革新された。比較的低予算でありながら、アカデミー賞視覚効果賞を得たのもうなずける。

『JIMI:栄光への軌跡』



 『JIMI:栄光への軌跡』をDVDで観た。
 史上最高のロック・ギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの伝記映画である。

 ただし、描かれるのは伝説の「モンタレー・ポップ・フェスティバル」出演の手前まで。
 つまり、ジミヘンが本格的にブレイクする前夜までの物語なので、イマイチ盛り上がりに欠ける。

 中心となるのは、ジミがチャス・チャンドラーに見出されて渡英し、2年間にわたってイギリスで活動した時代。
 イギリス映画だからイギリス時代を描いたということなのかもしれないが、この2年間だけではジミの全体像が見えにくい。彼のことをあまり知らない人が観たら、どういう人物だったのか、よくわからないままだろう。

 楽曲使用許可がおりなかったとのことで、肝心のジミ本人の演奏は一つも使われておらず、その点でも画竜点睛を欠く。
 コピーによる演奏場面も、カバー曲オンリー。ジミの自作曲は皆無で、「パープル・ヘイズ」すら登場しないのだ。

 ただし、ジミを演じたアンドレ・ベンジャミン(=アウトキャストのアンドレ・3000)は素晴らしい。ルックスがそっくりな上に声やしゃべり方まで完コピで、ジミが乗り移ったかのような迫真の演技を見せる。
 エリック・クラプトンやポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、キース・リチャーズなども登場し、60年代後半のロンドンのロックシーンを描いた映画としても楽しめる。

 しかし、脚本がよくない。雑然としていて的が絞られておらず、何が描きたかったのか、よくわからない。
 とくに、尻切れトンボで“決着感ゼロ”の終わり方がひどい。

 わずか27年の劇的な生涯を駆け抜けたジミを主人公にしながら、よくまあここまで盛り上がらない映画にできたものだ。
 細部の作り込みはけっこうていねいなので、ジミヘン好きなら細部は楽しめる映画なのだが……。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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