夾竹桃ジン『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』



 昨日は、都内某所で脳科学者の中野信子さんを取材。

 これで今月は、池谷裕二さん、篠原菊紀さん、中野さんと、人気脳科学者3人を取材したことになる(後日、お三方への取材を一本の長い記事にまとめる)。

 同じ脳科学者であっても、それぞれ語り口・視点に個性があって、大変面白かった。


 夾竹桃ジン作(シナリオ:水野光博、取材・企画協力:小宮純一)『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』の全6巻と、続編『新・ちいさいひと』の既刊1巻をまとめ読み。

 仕事上の必要があって読んだのだが、とてもよいマンガである。
 アマゾンのカスタマーレビューではなぜか酷評が多いが(まあ、アマレビュなんかあてにはならないが)、私はウェルメイドな力作だと思った。

 たしかに、「人物造形がステレオタイプにすぎるかな」という粗は感じなくもない。
 主人公のありがちな熱血キャラとか、児童相談所の所長が保身ばかり考えて「私の管理責任が問われます」と決まり文句のように言う点とか、キャラが単純すぎるのだ。
 しかし、それは作品全体から見れば小瑕で、読んでいるうちに気にならなくなる。

 「描かれている児相の現場対応にリアリティがない」という批判的レビューもあったが、私はむしろ、よく取材されていて、児相の現場の雰囲気がわかるマンガだと思った。
 フィクションである以上、ドラマを盛り上げるために現実をデフォルメしてある部分も、当然あるだろう。が、それも許容範囲内だと思う。

 児童虐待を描いたマンガといえば、ささやななえの『凍りついた瞳』という傑作がすでにある。これは、いまのように児童虐待が一大社会問題になる以前の先駆的・問題提起的作品であった。

■関連エントリ→ ささやななえ『凍りついた瞳』

 対して、『ちいさいひと』は、誰もが児童虐待の深刻さを知っている「いま」にふさわしい切り口で作られている。このような啓蒙的作品が少年マンガ誌に連載されているのは、なかなかすごいことではないか。

 

神坂智子『T・E・ロレンス』



 仕事上の必要があって、神坂智子の『T・E・ロレンス』を全巻再読。それから、映画『アラビアのロレンス』も映像配信で再見した。

 それにしても、たいていの名作映画が家ですぐに観られるのは、思えばすごいことだ。私が10代のころは、名画座にかかるのを待つしかなかったのだから。

 『T・E・ロレンス』は、「アラビアのロレンス」ことトーマス・エドワード・ロレンスの生涯を描いた大作である。
 『アラビアのロレンス』が、映画史上に輝く名作であることはいうまでもない。だが、この『T・E・ロレンス』には、『アラビアのロレンス』が描けなかったロレンス像までが活写されており、日本のマンガの底力を改めて思い知らされる。

 たとえば、『アラビアのロレンス』がほのめかす形でしか描けなかったロレンスの性指向――ホモセクシュアリティとマゾヒズムも、『T・E・ロレンス』は思いっきり踏み込んで描いている。
 それは、竹宮惠子が『風と木の詩』で切り拓き、山岸凉子の『日出処の天子』などに開花した「BL」の伝統が、日本のマンガにあればこそだろう。

 また、ロレンスの複雑きわまる内面についての描写も、『アラビアのロレンス』より重層的で深い。マンガという表現形式そのものが持つ力のなせる技であろう。

 もっと高く評価されてしかるべき、マンガ史に残る傑作。

雁屋哲・由起賢二『野望の王国』



 金曜日は、上野の「国立西洋美術館」の馬渕明子館長を取材。テーマは、同館の世界文化遺産登録について。

 ル・コルビュジエの建築作品の特徴から始まり、美術館の役割、ひいては「文化の力」というところまで話が広がる。私は建築も美術も門外漢なので、一方的にご教示いただく形だが、とても面白い話がうかがえた。

 で、今日も明日も、それぞれ別件の取材。


 ……と、そのようにバタバタしているのだが、「Kindle Unlimited」で雁屋哲・由起賢二の『野望の王国』 全27巻が読み放題になっているので、思わず一気読みしてしまった。

 伝説の「馬鹿(バロック)マンガ」(=呉智英のネーミング)だが、私は初めて読んだ。
 竹熊健太郎・相原コージの傑作『サルでも描けるまんが教室』の主人公2人のキャラ造形は、『野望の王国』のパロディであることが知られている。私も、『サルまん』を読んで『野望の王国』を知ったクチだ。



 呉智英は、厳選の「馬鹿<バロック>漫画24冊」 というウェブページでも『野望の王国』をセレクトしており、同作について次のようにコメントしている。

 二人の青年が日本を制覇しようと覚悟するところから話がはじまるが、その方法がものすごく遠い! 普通なら政治家、官僚を目指すのが確実だと思うが、彼らはヤクザを目指した! 何人殺しても進まない日本制覇。このペースでは日本制覇するのに300年はかかるだろう。まさにバロック。



 このコメントの通り、噂に違わぬ怪作であった。
 荒唐無稽な展開の連続で、「クダラナイなあ」と思いつつ、異様な迫力に引きこまれてページを繰る手が止まらず、最後まで読まずにいられない。「面白いか、つまらないか?」と問われれば、「クダラナイけど面白い」と答えざるを得ない。名作とは言いがたいが、けっして駄作ではないのだ。

 で、「Kindle Unlimited」には青木雄二の『ナニワ金融道』も全巻入っているので、これまた全19巻一気読み(こちらは再読)してしまった。なかなか「時間食い虫」なサービスである。

梶原一騎・原田久仁信『男の星座』


 
 梶原一騎・原田久仁信(くにちか)の『男の星座』が、Kindle電子書籍で全9巻630円という破格値でセールされていたので、ポチった。

 暴力事件と大病でマンガ界から消えていた梶原一騎が、復活作にして「引退記念作品」として、『漫画ゴラク』に連載した作品。連載中に梶原は50歳の若さで世を去り、未完に終わった。

 私は『漫画ゴラク』の連載をリアルタイムで読んでいたが、コミックスでまとめて読んだのは今回が初めて。
 じつに面白いマンガだと、改めて思った。読み始めると最後まで一気読みせずにいられない。

 『男の星座』は、「一騎人生劇場」と銘打たれた自伝マンガである。無頼の青春と、物書きとしての駆け出し時代の思い出が、赤裸々に描かれている。
 力道山、大山倍達、ルー・テーズ、岸恵子、柳川次郎(柳川組組長)ら、綺羅星のごとき面々との出会いから生まれた秘話が、次から次へと登場する。

 主人公・梶一太(梶原の分身)のあけすけな上昇志向など、全体に昭和の香りが濃厚な泥臭い作品。しかし、その泥臭ささえも、むしろ本作の強烈な魅力になっている。

 “25年に及んだ劇画原作者人生を、秘話も含めてすべて描き尽くす”と宣言して始まった作品だが、原作者としてスタートラインについたところまでを描いて中断してしまった。絶筆となった最後の回は、『少年マガジン』の編集長が「プロレスマンガの原作」を依頼にくる場面で終わっているのだ。

 ああ、これから『巨人の星』や『あしたのジョー』の舞台裏が、梶原自身の手で明かされるところだったのに……。また、晩年の梶原が見舞われたスキャンダルの真相も、やがては自らの手で明かされるはずだったのに……。あまりにも惜しい未完作品である。

カレー沢薫『アンモラル・カスタマイズZ』



 前から気になっていたカレー沢薫の『アンモラル・カスタマイズZ』が、kindleで60%引きセールになっていたので、購入。さっそく読み倒す。

 これまで風俗情報誌や牛丼専門誌(!)などを出してきた零細出版社が、社長の思いつきで突然女性ファッション誌『カスタマイズ』を創刊。そこから生まれる騒動の数々を、下ネタ満載、アイロニーの毒満載で描くギャグマンガである。

 女性が女性を「批評」することで笑いを取るマンガやコラムが、近年一つのジャンルを形成しつつあるように思う。峰なゆか、犬山紙子、瀧波ユカリ、ジェーン・スーあたりの著作のことだ。「同性批評」とでも言おうか。
 カレー沢薫のこのマンガも、その「同性批評」のバリエーションだと感じた。

 ただし、峰なゆかや犬山紙子の作品のベースに“美人ならではの勝ち組目線”があるのに対し、カレー沢薫の場合は負け組の目線から(※)他の女性たちを鋭く批評する。その批評が的を射ており痛快であることから、笑いが生まれるのだ。

※いや、ご本人のお顔は知らないが、コラム等での自己申告による。サイン会に行った人が書いたブログによれば、意外にも「ふんわり美人」だったそうだが……。

 この『アンモラル・カスタマイズZ』は、女性誌編集部が舞台だから、その批評眼が随所で思いっきり炸裂している。ギャグの密度が濃いので、わずか130ページ程度の本なのに読み応えがある。

 カレー沢薫はコラムニストとしても活躍しており、文章も面白い。現時点で刊行されている唯一のコラム集『負ける技術』(講談社文庫)も、買うことにする。
 「マイナビニュース」で連載されているコラム「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃 」も、すでに1冊分くらいになっているが、これも全部読んだ。

 作風がやや下品なので万人向けではないが、下品耐性のある人なら楽しめるはずだ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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