岩波明『発達障害』



 岩波明著『発達障害』(文春新書/880円)を、Kindle電子書籍版で読了。
 昭和大学医学部教授で、臨床経験も豊富な著者による発達障害の概説書。仕事の資料として読んだ。

 発達障害の研究史を手際よく辿り、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠如多動性障害)の共通点と相違点を一章を割いて説明し……と、概説書として過不足ない内容である。

 一般読者を引き込むための工夫も、随所に凝らされている。
 たとえば、開巻劈頭、「シャーロック・ホームズはアスペルガー症候群だったのか?」という問いから文章が始まっていたり、アンデルセンやルイス・キャロル、大村益次郎などが発達障害であった可能性を考えたり……。

 過度の論文臭がないのはよいことだが、読者の下世話な興味に迎合しすぎている面もある。
 たとえば、第6章「アスペルガー症候群への誤解はなぜ広がったか」や第7章「発達障害と犯罪」で、著者は犯人の発達障害が関係しているとみなされた著名犯罪を取り上げている。豊川主婦殺人事件や佐世保小6女児同級生殺害事件、深川通り魔殺人事件などである。

 そのうち、豊川の事件については、加害少年が精神鑑定でアスペルガーだと診断されたのは「まったくの誤診であった」と、著者は言う。また、佐世保の事件でも加害少女がアスペルガーだと喧伝されたが、著者はそのことに疑問を投げかける。
 いっぽう、深川通り魔殺人事件については、犯人の子ども時代の行動は「ADHDの診断基準を満たして」おり、そのころに適切な医療介入が行われていれば事件は起こらなかったかもしれない、と述べる。

 そうした主張自体は傾聴に値するのだが、それらの事件内容について、必要以上に詳述しすぎだと思った。煽情的な犯罪読み物みたいな記述が延々と続き、ウンザリ。

 私が編集者なら、そのへんの記述は全部カットして、終章の「発達障害とどう向き合うか」をもっとふくらませる。

■関連エントリ→ 梅永雄二『大人のアスペルガーがわかる』

滝川一廣『子どものための精神医学』



 滝川一廣著『子どものための精神医学』(医学書院/2700円)読了。書評用読書。

 ベテラン児童精神科医が、自らの豊富な臨床経験をふまえて書き下ろした、児童精神医学の概説書である。
 中井久夫・山口直彦の名著『看護のための精神医学』の「児童精神医学版」を企図した書であり、中井久夫自らが「あの本には子どものことが書いてない。そこを君に」と、弟子筋である滝川を指名したという。

 500ページ近い浩瀚な書であり、内容も非常に濃い。隅々にまで価値ある情報が詰まっている。2700円という価格は一般書としては高いと思うかもしれないが、情報量からいえばむしろ割安だ。

 入門書と呼ぶにはいささか高度な内容だが、精神医学に携わる者はもちろん、教育者、保育士、そしてもちろん親など、子どもに深く関わる立場の人間なら一読の価値はある労作。
   

宮子あずさ『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』



 昨日は、取材で京都へ(日帰り)――。

 行き帰りの新幹線で、2冊本が読めた。
 そのうちの1冊が、宮子あずさ著『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』(海竜社/1404円)。取材の資料として読んだもの。

 著者は、たくさんの著書をものしているベテラン看護師。現在は精神科の訪問看護師として働いているそうで、本書はその経験から生まれたエピソードを綴ったもの。

 訪問看護という仕事のイメージが、よい意味で一変する内容だ。
 病棟勤務の看護師とは違う苦労とやりがいを赤裸々に明かして、読者の目を釘付けにする迫力がある。

 高齢化による医療費の増大を抑えるため、入院患者をなるべく減らしていこうとする世の趨勢によって、増加傾向にある訪問看護師という職業――。その内実を伝えて、社会的意義も高い本だ。 

山田悟『糖質制限の真実』



 山田悟著『糖質制限の真実――日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて』(幻冬舎新書)を読了。
 例によって、Kindle日替わりセールで安かった(299円)ので買ってみたもの。

 糖質制限ダイエットは、ストリクトにやりすぎると健康を損なって危険だと言われる(参考→「糖質制限ダイエット」の第一人者急逝)。糖質も生きていくために必須の栄養素なのだから、当然だ。

 その点、この著者が奨めているのは「ロカボ=緩やかな糖質制限」(1日の糖質摂取量を130g以下に抑えよう、というもの)であり、健康に問題が起こりにくい。

■参考サイト→ Locabo(ロカボ) | ロカボ(糖質制限)ダイエットをもっと楽しく

 本書は、冷静で落ちついた記述に好感が持てる。この手の本にありがちな、派手な言葉で読者を煽るところが皆無なのだ。
 また、エビデンス重視の姿勢もよい。ロカボの正当性が、最新の栄養学などの知見で裏付けられていることが、かなりの紙数を割いて説明されているのだ。

 むしろ、エビデンスの説明のほうがメインになっており、具体的なロカボのやり方については少ししか触れられていない。
 したがって、本書の説明で納得のいった人は、著者が書いた(監修した)別のロカボ・レシピ本などを購入せざるを得なくなる(笑)。

 なかなか商売上手だが、「ロカボをやってみようかな」と思う人がいちばん最初に読む本として、とてもよくできている。良書である。

野村進『救急精神病棟』



 昨日は冷たい雨のなか、私用で巣鴨へ――。
 行き帰りの電車で、野村進著『救急精神病棟』(講談社文庫/905円)を読了。

 日本初の精神科救急医療機関となった「千葉県精神科救急センター(現・千葉県精神科医療センター)」に取材したノンフィクション。仕事の資料として読んだのだが、面白くて一気読み。

 野村進は優れたノンフィクション作家であり、その取材作法を明かした『調べる技術・書く技術』は、取材記事を書く者のバイブルといってもよい名著だ。本書は、その野村が3年越しの密着取材を行って書いたものだけに、内容が非常に濃い。

 精神科救急という過酷な現場で働く医師・看護師たちの息遣いが、ヴィヴィッドに伝わってくる。そして、背後にある日本の精神科医療の歴史や問題点にまで迫る奥深さを具えている。

 野村は近年、石井光太のノンフィクションに厳しい批判を投げかけてきたことでも知られる。“石井のノンフィクションには作り話が含まれているのではないか”という主旨の批判だが、その当否は私には判断しかねる。
 ただ、本書を読んで、背景には両者のノンフィクション作法の根本的な相違があるのだと感じた。

 石井光太のノンフィクションには、センセーショナリズムすれすれの危うさがつねにある。人目を引くドギツイ場面をことさら強調して描く「癖」があるのだ。
 対照的に、野村進はそういう危うさから遠い。本書もしかり。精神科救急という、いくらでもドギツイ場面を連ねられそうな舞台を選びながら、筆致はむしろ静謐で落ち着いているのだ。

■関連エントリ→ 野村進『千年、働いてきました』


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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