島田裕巳『オウム/なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』

オウム-なぜ宗教はテロリズムを生んだのか-オウム-なぜ宗教はテロリズムを生んだのか-
(2001/07/30)
島田 裕巳

商品詳細を見る


 島田裕巳著『オウム/なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』(トランスビュー)読了。

 書下ろし1300枚、平均的単行本4冊分のボリューム。読了するのに丸一日費やしたが、それだけの価値のある本だった。

 島田氏といえば、周知のとおり、オウム・バッシングに巻きこまれ、事実を歪曲したマスコミ報道が原因で、大学教授の職を追われた宗教学者。いわばオウム問題の当事者の1人であり、信者やサリン事件等の被害者を除けば、オウム真理教について最も真剣に思索せざるを得なかった人物といえる。

 その島田氏がオウムについて真正面から取り組み、3年を費やして書き上げたという本書は、さすがに読みごたえがある。今後、オウム問題を考えるにあたっての基本文献となる1冊だろう。

 島田氏は、宗教学者としての豊富な学識を駆使してオウムの教義を分析し直し、オウム関連の膨大な文献を渉猟して、「なぜオウムがテロに走ったのか?」を改めて考察していく。

 一連のオウム裁判で、検察側は「オウムが無差別大量殺人を犯したのは、麻原の社会に対する憎悪が、衆院選惨敗によって決定的なものになったからだ」としている。法廷では動機を単純化する必要があるのだろうが、これはいかにもずさんな飛躍した解釈で、「なぜオウムがテロに走ったのか?」の答えとしては不十分だろう。

 島田氏はそうした従来の解釈をしりぞけ、オウムがテロに走るまでの道筋を丹念に解明していく。

 オウムの教義に、「救済のための殺人(ポア)」を肯定する「ヴァジラヤーナ」の思想があることはよく知られているが、島田氏はこの思想と同時に、オウムの修行法の1つ「マハー・ムドラー」に注目する。

 「マハー・ムドラー」とは、グル(導師)が弟子に「最も耐えがたい苦」を耐えさせることにより、一気に解脱に向かわしめるというもの。
 島田氏は、“オウムの犯した殺人は、一種のマハー・ムドラーだったのではないか”との仮説を立てる。オウムの信徒にとって、仏教の五戒(破ったら解脱できない、とされる5つの禁)のうちひときわ重要な「殺生戒」を破ることこそ「最も耐えがたい苦」であり、だからこそ、グルの命令に従って殺人を犯すことはマハー・ムドラーになり得た、というのである。

 ヴァジラヤーナの教義とマハー・ムドラーの修行法が結びついたとき、オウムがテロに走る教義上の必要十分条件が満たされたのだ。
 そして、実際にテロに走るトリガーとなったのが、教団内で起きた信徒の事故死という事件。麻原は事件の隠蔽のため、事件を知る別の信徒が脱会しようとしたとき、その信徒の殺害を命じてしまう。そしてそこから、その殺人を正当化するために教義の逸脱が始まり、大量殺人に向け、教団は暴走を始めるのだった。 

 事件後に多数出版された「オウム批判本」の大半は、オウム及び麻原を絶対的悪として糾弾することに忙しく、「なぜ事件が起こったか?」の十分な分析がなされていなかった。
 しかし本書は、「極悪人麻原と、利用された従順な信徒たち」といった安易な図式化に陥ることなく、少なくとも初期においてはまじめな宗教団体であったオウムが、テロ集団に変質していくプロセスを追っていく。

 オウムがテロに走るまでの過程は、連合赤軍の「総括」までの過程に酷似している。オウムの悪はけっして麻原1人に還元できるものではなく、まさに「集団の悪」であり、きわめて日本的な「組織犯罪」であったことがよくわかる。私は、本書を読んでようやく、オウム事件の本質をつかめた気がした。

 もう遠い昔のような気もするオウム事件だが、島田氏は、過去の問題としてではなく、“いまの日本社会の問題”としてとらえている。
 たとえば、オウムの若者たちを「引きこもり」と同根の病理を抱えた存在として論じ、オウム事件と「神戸連続児童殺傷 事件」の間に、“性的抑圧の果ての暴力性の暴発”という共通項を見出し……という具合である。

 いわく――。
「オウムは日本の社会そのものであり、社会の矛盾が集約した世界である。日本の社会は、その矛盾を体現したオウムという存在を克服していかないかぎり、先へは進めないのではないか」

 オウム事件を“一部の狂った人たちが起こした、自分に関係のない事件”ととらえることには、私も反対だ。
 宗教について、日本社会の病理について考えるためのヒントに満ちた一書。
関連記事

Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
21位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
17位
アクセスランキングを見る>>