大貫妙子『TAEKO ONUKI WORKS 1983-2011 CM / TV Music Collection』


TAEKO ONUKI WORKS 1983-2011  CM / TV Music CollectionTAEKO ONUKI WORKS 1983-2011 CM / TV Music Collection
(2011/12/07)
大貫妙子

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 大貫妙子の『TAEKO ONUKI WORKS 1983-2011 CM / TV Music Collection』(commmons/2800円)を聴いた。

 タイトルどおり、大貫妙子が手がけたCMソング/TVテーマを集めたもの。全曲リマスタリングがなされており、収録は1980年代からの年代順になっている。
 トータルタイムは35分ほどで、全43曲。つまり、1曲といってもほんの断片程度のものも多い。「タンタンの冒険」のようにオリジナル・アルバムに改めて収録された曲もあるものの、多くは初CD化である。

 意外だったのは、大貫がナレーターとしても参加したCMが少なくないこと。声自体に得難い個性と魅力がある人だという証だろう。

 前に当ブログで取り上げた井上鑑の『CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ』は、CM音楽集でも独立したアルバムとして十分楽しめるものだった。
 しかしこのアルバムは、熱烈な大貫ファン以外にとってはさほど聴いて面白いものではないと思う。まさに「コレクターズ・アイテム」。「大貫作品はコンプリートしたい!」という熱烈ファンのみが買うべきもので、そういう人なら楽しめるはず。美空ひばりの「川の流れのように」を大貫が歌っていたりして、なかなか珍品も入っているし。

 私はといえば、大貫作品ですごく好きなものはいくつかあるが、熱烈なファンというわけではない。なので、このアルバムは一度聴けばもういいかな、という感じ(レンタルで済ませました)。

 ちなみに、私がいちばん好きな大貫作品は、1980年の『ROMANTIQUE(ロマンティーク)』。これは、発表以来30年以上の時を経ても輝きを失わない不滅の名盤である。私はアナログ盤を聴きつぶしてCDに買い替え、いまだに時々引っぱり出して聴く。

 全10曲中6曲を担当している坂本龍一のアレンジが、まことに素晴らしい。私はこのアルバムこそ、坂本のアレンジャーとしてのベストワークの一つだと思う。

 なお、ウィキペディアの『ROMANTIQUE』の項が、異様なまでに充実した内容になっている。私同様、このアルバムを強く偏愛している人が編集したのだろう。


↑『ROMANTIQUE』の1曲「Carnaval」。私がいちばん好きな「ディケイド・ナイト」はYouTubeに上がっていなかったが、これも名曲。

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水木しげる『水木しげるの古代出雲』


水木しげるの古代出雲 (怪BOOKS)水木しげるの古代出雲 (怪BOOKS)
(2012/03/24)
水木 しげる

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 今日は横浜で取材。ゴーストの仕事なので、中身はナイショ。

 帰りの電車で、水木しげる著『水木しげるの古代出雲』(角川書店/1575円)を読んだ。

 島根との境に位置する鳥取県境港市の出身で、出雲とも縁深い水木は、30年ほど前から、夢に出てくる古代出雲の青年にこう言われつづけてきたという。

「水木よ、我々出雲族の物語りを描くのだ。我々滅ぼされた出雲族のことを皆に知らしめるのだ」



 本作は、その声にようやく応えたものなのである。

 国産み・神産み、アマテラスとスサノオの話、ヤマタノオロチや因幡の白兎の話など、日本神話・出雲神話の代表的エピソードが、紀記の記述に忠実にひととおり描かれる。
 飄々としたユーモアをたたえた味わい深い絵で表現される神話は、それ自体十分魅力的だ。
 たとえば、アメノウズメが天岩戸の前で踊り、胸をボイーンとはだけると、まわりの男神たちが「うわーッ!! スゲーッ!!」と大喜びする場面など、もう爆笑ものである(言葉で説明しても面白さが伝わらないだろうが)。

 しかし本作の魅力は、日本神話のよくできたマンガ化というだけにとどまらない。随所に水木本人が登場し、神話の背後にある古代日本史について独自の解釈をくり広げるところが、もう一つの大きな魅力になっているのだ。

 たとえば、オオクニヌシによる「国譲り」の神話について、作中の水木は言う。

「実際にはこんなキレイ事じゃなかったんだろう。容易には渡せないと思うな。自分が苦労して造った国をはいどうぞ……とそんな簡単に引き渡すわけにはいかないだろう」(句読点は引用者補足)



 そして水木は、大和に滅ぼされた出雲王朝(※)の悲しい終焉とオオクニヌシの深い無念を、力を込めて描く。
 それを見届けた夢の中の出雲青年は、「水木よ、私の思いをわかってくれてありがとう。私はもう二度と現れることはないだろう」と告げて消えていくのだ。

※もっとも、出雲神話の史実性については、邪馬台国同様論争が絶えないようだが。

 水木の古代史への深い造詣が土台となった、かつてない面白さの「マンガによる日本神話」である。

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Kokoo『スーパー・ノヴァ』


スーパー・ノヴァスーパー・ノヴァ
(2000/04/26)
Kokoo

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 Kokoo(コクー=虚空)の『スーパー・ノヴァ』(キングレコード)を聴いた。

 Kokooは、尺八奏者の中村明一(あきかず)が、2人の箏奏者と組んでいたバンド。和楽器のみを用いてロックを演奏するという、じつに面白い試みをやっている。

 私は数年前に中村明一が著した『「密息」で身体が変わる』という本を読んで、その際にKokooについても初めて知った。同書のレビューをこのブログで書いた際、次のように書いた。

 なお、著者は「Kokoo(虚空)」というバンドを組んでもいる。
 尺八と箏という邦楽器のみの編成なのに、プログレッシヴ・ロックの名曲などをレパートリーにしているとか。不覚にも私はこのバンドを知らなかったのだが、ぜひ聴いてみたい。



 それから数年も経ってしまったが、やっと聴くことができた。

 この『スーパー・ノヴァ』は2000年に発表されたKokooのセカンド・アルバムで、ラストの「ゴジラのテーマ」以外はすべて1960~70年代のロックのカヴァー集になっている。
 ジミヘン、ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、ツェッペリン、ピンク・フロイド、フランク・ザッパ、ELPなど、ロック黄金期の作品が選ばれ、井上鑑、上野耕路など、10人の優秀なアレンジャー/作曲家が1曲ずつアレンジを担当している。

 いやー、これはすごくいい。和楽器のみの演奏なのに強烈なビート感があり、原曲のロック・スピリットが少しも損なわれていない。
 むしろ、聴く者の「ロック心」と日本人としての「和心」が、ふたつながら刺激される演奏なのである。プログレなど、本作で取り上げられているロックを好んで聴いてきたロック・ファンなら、抵抗なく受け入れられるサウンドだと思う。

 収録曲10曲は、玉石混交。
 井上鑑がアレンジした「レッド・ツェッペリン変奏曲」(「移民の歌」「ブラック・ドッグ」などのメドレー)は、換骨奪胎しすぎていてイマイチ。言われなければツェッペリンの曲だとわからないし……。井上のオリジナル曲として聴くなら悪くないのだが。

 ELPの「タルカス」をアレンジした「タルカス変奏曲」(アレンジ:内橋和久)は、原曲のカッコよさを損なわないまま緊密な“邦楽ロック”に昇華されていて、まことに素晴らしい。私にとってはこれが本作のベスト・トラック。
 ピーター・ハミルの「ドロッピング・ザ・トーチ」(アレンジ:AYUO=高橋鮎生)は、原曲以上の哀しい美しさに満ちた演奏。
 ビートルズの「シーズ・リーヴィング・ホーム」(アレンジ:菅谷昌弘)では、幽玄なる侘び寂びの世界が展開されている。最初から日本の曲だったような錯覚を覚えるほどの変貌ぶりなのに、原曲の素晴らしさを損なっていない。

 玉石混交ではあるけれど、全体としては、日本人にしか作れない先鋭的な「和のロック」として、もっと高く評価されてしかるべきアルバムだ。入手困難になっているのは惜しいかぎり。


↑本作にも収録されている、ジミヘンの「パープル・ヘイズ」のKokoo版。何かのテレビ番組出演時の演奏かな。


↑本作のラストを飾る「ゴジラのテーマ」Kokoo版。

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ピアーズ・スティール『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』


ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのかヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか
(2012/06/28)
ピアーズ・スティール

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 ピアーズ・スティール著、池村千秋訳『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(阪急コミュニケーションズ/1890円)読了。

 著者はカナダ・カルガリー大学の教授で、先延ばしとモチベーションの研究をライフワークにしてきた人。先延ばしをテーマに博士号をとり、その後も10年以上にわたって先延ばしの研究をつづけてきた斯界の第一人者である。

 本書は、そんな著者がこれまでの研究成果を一般向けにまとめたもの。先延ばしの歴史、先延ばしの原因と類型の分析、先延ばしが経済に与えている負の影響の分析など、興味深い“先延ばし学”が次々と開陳される。

 そのうえで、後半では先延ばしを克服するための13のプランが紹介されている。つまり、本書は先延ばしをテーマにしたサイエンス・ノンフィクションであると同時に、先延ばし克服に役立つ実用書でもあるのだ。

 先延ばし克服に役立つと称する類書はこれまでにも少なくなかったが、本書はそれらとは格と信憑性が違う。心理学や脳科学、行動経済学などの最新成果を駆使した、「データによって科学的に実証された」アドバイスばかりが並んでいるのだから。

 本書には、次のような一節がある。

 先延ばし癖と無縁の職種は考えづらいが、この悪癖がことのほかひどいのは物書き業かもしれない。



 この言葉どおり、本書は物書きのため、なかんずく私のためにあるような本といえよう(笑)。
 四半世紀にわたるこれまでのライター生活で、まったく先延ばしをせず原稿を書きつづけてこられたとしたら、少なく見積もっても現状の10倍以上の仕事ができたにちがいない(私だけではなく、多くのフリー物書きがそんなふうに思うはず)。
 先延ばし癖克服は物書きの永遠の課題であり、ゆえに私もこれまで何冊もの類書に手を伸ばしてきた。その中で、本書は内容の充実度がダントツだと思う。

 どこかで聞いたようなアドバイス(つまり類書に書いてあったこと)もないではないが、多くは納得のいくものであり、しかも実行がたやすいものだ。
 それらのアドバイスにどの程度実効性があるかは、今後私が人体実験をして確かめてみるとしよう。

 最近、日本では本書のような「先延ばし克服術」本の翻訳刊行が相次いでいる。その理由も、本書を読めばわかる。人々の先延ばし傾向は、近年とみに強まっているのだ。
 「誘惑が近くにあると、先延ばしが非常に助長されやすい」ものだが、現代はネットやオンラインゲーム、SNSなど、仕事の先延ばしを助長する誘惑に満ちた時代だ。ゆえに、デスクワークに就いている人にとっては、ネット時代以前よりもはるかに先延ばし癖が重症化しやすいのである。

 その他、肝に銘じようと思った一節を引用する。

 仕事を先延ばしにする人が最もよく口にする言い訳は、「追い込まれたほうがいいアイデアが浮かぶんですよ」というものだ。そう感じる理由は、非常にはっきりしている。締め切り直前にならないと仕事に手をつけないとすれば、もっぱら締め切り直前にアイデアが生まれるのも当たり前のことだ。
 しかし、土壇場で生まれるアイデアは、早い段階から取りかかる場合より質も量も劣る。



 先延ばし人間は、そうでない人たちより貧しく、不健康なだけでなく、不幸せに感じている。その一因は、先延ばし行為に付随するストレスと後ろめたさにある。



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Ali『十五』


十五十五
(2008/09/02)
Ali

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 昨日は愛知県岡崎市で、株式会社「DDR」社長でブランディング・プロデューサーの安藤竜二さんを取材。

 安藤さんは話が抜群にうまく、インタビューというよりまるで講演を聴いているような感じだった。ときどき相槌を打つだけでオーケイ、みたいな。
 取材の途中で、安藤さんと私の誕生日が同じ(3月16日)であることがわかり、ビックリ。まあ、まれにはこういうこともある。

 
 Ali著『十五』(講談社)読了。

 作家・女優の前川麻子が別名義で書いた「ケータイ小説」である。
 故・松田優作との不倫関係を軸に、小説の形で自らの少女時代を明かした、いわば「仮面の告白」小説。ただし、優作とおぼしき人物は本作では「岸田多喜雄」になっており、自分のことは「中川有(アリ)」としている。

 ケータイ小説サイトに発表されたものであり、本書もケータイ小説のセオリーどおり横書き表記になっている。
 ゆえに便宜上「ケータイ小説」と呼ぶが、凡百のケータイ小説など比較にならないくらい、「ちゃんとした小説」である。
 ケータイ小説なんて、小説以前、文章以前のものが多いわけだから、作家デビューして10年以上になる前川麻子の文章と雲泥の差なのも、当然といえば当然だ。

 ゴシップ的興味から読んだのだが、読んでみたら私小説として優れた作品であった。
 15歳の少女と中年にさしかかった人気俳優のひそやかな関係、という特異な題材から、マルグリット・デュラスの『愛人/ラマン』を彷彿とさせる部分もある。『愛人』に「十八歳でわたしは年老いた」という名高い一節があるが、本作もそんなフレーズが似合いそうな、15歳にして何もかも知ってしまった少女の物語だ。

 前川麻子は松田優作が主演した『家族ゲーム』に端役で出演していたから、実際にはあのへんから関係が始まったのかな、などと想像する。

 前川さんとは、20年くらい前に一度取材でお会いしたことがある。彼女が主演したにっかつロマンポルノ『母娘監禁 牝<めす>』を観てすぐのころだったから、ドキドキしたものだ(笑)。
 『母娘監禁 牝<めす>』は、タイトルはスゴイが中身は優れた青春映画であり(脚本は荒井晴彦)、前川さんの演技も素晴らしい。女優としても作家としても豊かな天稟に恵まれた人だと思う。

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テデスキ・トラックス・バンド『エヴリバディズ・トーキン』


エヴリバディズ・トーキンエヴリバディズ・トーキン
(2012/05/16)
テデスキ・トラックス・バンド

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 テデスキ・トラックス・バンドの2枚組ライヴ・アルバム『エヴリバディズ・トーキン』(ソニー・ミュージックジャパン)を聴いた。

 テデスキ・トラックス・バンドは、「新世代の3大ギタリスト」の1人と目されるデレク・トラックスが、妻でヴォーカリスト/ギタリストのスーザン・テデスキと組んだバンド。総勢11人の大所帯である。

 「新世代の3大ギタリスト」とは、デレクとジョン・メイヤー、ジョン・フルシアンテ(元レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)の3人のことだそうだ。米『ローリング・ストーン』誌が2007年にこの3人を「The New Guitar Gods」に選定したことに由来するという。
 デレク・トラックスについては、ピーター・バラカンがことあるごとに絶賛して大プッシュしていたことから、私も注目していた。豪快かつ繊細にうねりまくるスライド・ギターがじつにカッコいいギタリストである。

 妻のスーザンは、ボニー・レイットを彷彿とさせるハスキーでソウルフルなヴォーカルを聴かせる。ギタリストとしての腕前もなかなかで、「世界でいちばんギターのうまい夫婦」と呼ばれているそうだ。
 なかなかの美熟女でもあり、ライヴ映像を観ると、夫ともども一挙一動がいちいち絵になる。「世界でいちばんカッコいいミュージシャン夫婦」でもあると思う。


↑このライヴ盤にも入っている「Learn How To Love」。スーザンがじつにオトコ前。

 TTBとしての初のアルバムとなった前作『レヴェレイター』はグラミー賞で「ベスト・ブルース・アルバム」に輝いたし、スーザンはブルース・シンガーとして、デレクはブルース・ギタリストとしての評価が高い。
 ただし、TTBのサウンドは、本作のライナーで細川真平も言うとおり、ブルースの枠に収まりきるほど単純ではない。ブルースを土台にしつつも、ロック、ファンク、カントリー、ジャズ、70年代ポップスなどの要素も広く織り込んだ、「アメリカが生んだポピュラー・ミュージックの歴史が詰め込まれていると言っても過言ではない」ものなのだ。

 全13曲中、じつに7曲までが10分超の長尺。そのことが示すとおり、途中でジャムセッション的な展開を見せる曲が多く、ライヴならではのケミストリーが堪能できる。

 要所要所でデレクのキラリと光るソロが聴けるものの、彼だけが突出している印象はなく、バンド・アンサンブル重視の内容となっている。聴き手に緊張を強いるようなバカテク大会ではなく、心なごんで楽しめるお祭り的ライヴ盤である。

 オープニング曲はニルソンの「うわさの男」(Everybody's Talkin)のカヴァーで、アルバム・タイトルはこれに由来する。ニルソン版のようなカントリー色はなく、ファンキーでブルージーな熱い演奏である。



 日本盤はボーナス・トラックを2曲収録しており、その合計が20分近くになる。
 それはいいのだが、輸入盤より2500円以上も高い価格設定(日本盤は定価3780円で、輸入盤なら1200円程度で買える)は、いくらなんでもどうかと思う。
 こんな殿様商売をしていたら、ただでさえ売れないCDがますます売れなくなるだろう。
 ま、私はレンタルで済ませてしまったので、文句言うのも気が引けるけど(笑)。

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高橋一清『編集者魂』


編集者魂 私が出会った芥川賞・直木賞作家たち (集英社文庫)編集者魂 私が出会った芥川賞・直木賞作家たち (集英社文庫)
(2012/07/20)
高橋 一清

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 高橋一清著『編集者魂――私が出会った芥川賞・直木賞作家たち』(集英社文庫/630円)読了。

 文藝春秋で長年文芸編集者を務め、多くの作家を育て上げた著者が、とくにかかわりの深かった14人の物故作家の思い出を綴ったエッセイ集。
 取り上げられているのは、司馬遼太郎・松本清張・有吉佐和子・中上健次・遠藤周作・辻邦生・中野孝次・大岡昇平・立原正秋・江藤淳・中里恒子・芝木好子など……。

 江藤淳は評論家だし、ほかの何人かも芥川賞・直木賞をとっていないから、この副題はどうかと思う(これは文庫化に際してつけられたもの)。

 副題はともかく、中身は非常に素晴らしい。名著である。
 私は当初図書館で単行本を借りて読んだのだが、半分ほど読み進めたところで「この本は手元に置いておきたい」と思い、アマゾンに注文。折よく文庫化されたばかりであった。

 薫り高い名文で綴られた、14人の作家たちの極上のポルトレ(人物素描エッセイ)である。深くつきあった編集者しか知り得ない作家の素顔を明かした文学史の貴重な証言であり、エッセイの形をとった秀逸な作家論集でもある。

 14編それぞれがよい。
 私がいちばん感動したのは中上健次の章。中上の芥川賞受賞作「岬」が産み出されるいきさつを中心に据えたもので、エッセイの域を超え、見事な人間ドラマになっている。
 高山文彦の『エレクトラ』と並んで、中上を描いた文章の白眉だと思う。

■関連エントリ→ 高山文彦『エレクトラ』レビュー

 文芸編集者の仕事の内実を明かした本としても、第一級の読み物になっている。

 巻末の「『芥川賞・直木賞』物語」はオマケみたいなものだが、両賞の選考の内幕を文藝春秋の元編集者が明かしたエッセイとして、これはこれで面白く読める。

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小倉純二『サッカーの国際政治学』


サッカーの国際政治学 (講談社現代新書)サッカーの国際政治学 (講談社現代新書)
(2004/07/21)
小倉 純二

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 昨日は、日本サッカー協会名誉会長の小倉純二さんを取材。文京区の日本サッカー協会にて。

 小倉さんは同協会の前会長にして、世界に24人しかいないFIFA(国際サッカー連盟)の理事に、日本人として3人目になられた方。

 小倉さんの著書『サッカーの国際政治学』(講談社現代新書)を読んで取材に臨む。
 タイトルに「国際政治学」とあるが、堅苦しい本ではなく、ワールドカップの開催地決定までのいきさつや、日韓共催で行われた2002年のワールドカップの舞台裏などが、体験をふまえて紹介された本だ。

 小倉さんの人を惹きつける明るさのパワーに圧倒されるような、楽しい取材であった。

 世界209ものサッカー協会(英国が4つのサッカー協会に分かれているなどの例外があるため、209ヶ国ではない)を傘下に収めるFIFAは、IOC(国際オリンピック委員会)をしのぐ世界最大のスポーツ団体であり、国連加盟国(現在193か国)以上の国が参加した一大ワールド・ネットワークでもある。
 ゆえにFIFAは、サッカー振興とワールドカップ開催を通じて、世界平和にも重要な役割を果たしている……というお話に目からウロコ。

 今年のノーベル平和賞はEUに贈られたわけだが、次はFIFAが受賞してもよいのではないかと思った。

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リターン・トゥ・フォーエヴァー『ザ・マザーシップ・リターンズ』


ザ・マザーシップ・リターンズ【初回限定盤2CD+DVD/日本語字幕付】ザ・マザーシップ・リターンズ【初回限定盤2CD+DVD/日本語字幕付】
(2012/06/06)
リターン・トゥ・フォーエヴァー、チック・コリア 他



 リターン・トゥ・フォーエヴァーの『ザ・マザーシップ・リターンズ』(ワードレコーズ/3980円)を聴いた。
 マハヴィシュヌ・オーケストラと並ぶジャズ・ロック界のスーパー・グループが、昨年行った再結成ツアーから選りすぐった2枚組ライヴ・アルバム。

 RTF黄金期のメンバー4人のうち、3人(チック・コリア、スタンリー・クラーク、レニー・ホワイト)までが参加。ギターのアル・ディ・メオラだけが不参加である。
 本作のギターは、チック・コリア・エレクトリック・バンドにも参加していたフランク・ギャンバレ。また、オリジナルのRTFには参加していなかったヴァイオリニストのジャン=リュック・ポンティが全面参加して、サウンドに彩りを添えている。

 「アル・ディ・メオラ抜きのRTF」といえば、彼らは一昨年にも「コリア、クラーク&ホワイト」名義で『フォーエヴァー』というアルバムを出している(→当ブログのレビュー)。そして、あのアルバムにもポンティはゲスト参加していた(ギターはビル・コナーズ)。
 つまり、この『ザ・マザーシップ・リターンズ』は、「コリア、クラーク&ホワイト」で行った実験の発展形ともいうべきものなのである。

 RTFは2008年にも再結成してワールド・ツアーを行なっており(リターンしすぎ)、そのツアーも『リターンズ~リユニオン・ライヴ』というアルバムになっている。そして、同ツアーにはディ・メオラも参加していた。そのツアー中にチック・コリアとケンカでもしたんかな(笑)。
 ま、そのへんの舞台裏はさておき、本作はたいへん素晴らしいライヴ・アルバムに仕上がっている。

 「浪漫の騎士」「アフター・ザ・コズミック・レイン」などのRTFの代表曲に、スタンリー・クラークのソロ・アルバムの人気曲「スクール・デイズ」と、ポンティの曲「ルネッサンス」(この曲は一昨年の『フォーエヴァー』でも演っていた)を加えた構成。新曲は一つもない。にもかかわらず、構成やアレンジに手を加えることで、スタジオ版とは別物として楽しめる内容になっている。

 超一流の腕利き、ベテラン揃いだから、演奏の素晴らしさはいうまでもない。とくに、チック・コリアのピアノの澄明な美しさは、聴いていて陶然となるほど。

 各曲のオリジナル版には入っていないポンティのヴァイオリンが、絶妙の効果を上げている。リズム隊は重戦車のようにヘビーでファンキーで、ギターはロック色が濃いのに、コリアのピアノとポンティのヴァイオリンが醸し出す知的でリリカルな印象のおかげで、すこぶる上品な演奏になっているのだ。
 また、リズム隊とギターが「動」、ピアノとヴァイオリンが「静」の面をそれぞれ保つことによって、1曲の中に静と動が織りなすダイナミズムが生まれている。

 RTFのスタジオ・アルバムをすべて持っているような人でも、買って損のないライヴ盤だと思う。
 次はこのメンバーで、新曲ばかりのRTFのニューアルバムをぜひ作ってほしいところ。


↑ツアーではアンコールで演奏されたRTF版「スクール・デイズ」。ノリノリである。

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土井香苗『巻き込む力』


巻き込む力巻き込む力
(2011/01/20)
土井 香苗

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 土井香苗著『巻き込む力――すべての人の尊厳が守られる世界に向けて』(小学館/1260円)読了。仕事の資料として読んだ。

 東大出の美人弁護士にして、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の日本代表である著者の自伝的エッセイ。といっても、本人の談話をライターがまとめたものであり、そのことは本にも明記されている。

 全4章のうち、少女時代のことが語られる第1章は退屈。いまなお絶縁状態だという母親との確執など、ドラマティックな要素も少しはあるものの、基本的には普通の子ども時代だし。

 が、第2章で司法ボランティアとしてアフリカ・エリトリアに渡るあたりから、俄然面白くなる。
 とくに、「9・11」テロ後に東京で起きたアフガニスタン難民一斉収容事件で、難民たちを守るための弁護団に加わって当局と闘う経緯の描写は、広げれば優に一冊の本になり得るほど感動的だ。

 最後の第4章では、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表になるまでのいきさつと、その後の活動が綴られる。
 「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が、ボランティアに近い一般のNGOとは違うスケールの大きな団体であることを初めて知った。寄付などで集めた巨額の予算を動かし、世界各国の人権問題を解決しようとするプロ集団なのだ。

 著者もいうとおり、日本における「人権活動家」のイメージはけっしてよくない。「目が据わった偏狭な左翼」とか、「犯罪加害者の人権ばかりを過度に守ろうとする困った人たち」といった印象があるせいだろう。
 本書は本物の人権活動家たちの奮闘を伝えることで、そうしたマイナスイメージを覆す好著だ。

 ただ、タイトルはよくない。内容に合っていないし、本書と著者の魅力がまるで伝わらないと思う。

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又吉直樹『第2図書係補佐』


第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
(2011/11/23)
又吉 直樹

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 今週は、月曜から金曜まで毎日取材。あわただしい週であった。

 月曜は横浜でゴースト仕事の取材。
 火曜日は福島に一泊し、吉村作治さん(エジプト考古学者)、富田孝志さん(元福島県教育長)、若松かねしげさん(元公明党衆議院議員)のてい談取材。
 水、木は都内某所で、来日中のサーラ・ワイダーさん(米コルゲート大教授/エマソン協会元会長)を取材。

 で、昨日の金曜は、「日本一の自治会」として知られる立川大山団地の佐藤良子自治会長を取材。
 このブログで書いた、佐藤さんの著書『命を守る東京都立川市の自治会』のレビューに目をとめた編集者氏が、私に振ってくれた仕事である。
 当ブログには営業的意味合いはほとんどないが(ただし、読書メモとして仕事に役立ってはいる)、まれにはブログから仕事が発生する場合もあるのだ。
 『命を守る東京都立川市の自治会』を再読したほか、同じく大山自治会のことを取り上げた本『助け助けられるコミュニティ』を読んで取材に臨む。


 又吉直樹著『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫/520円)読了。

 「ピース」の片割れで、お笑い界きっての読書家・文学好きとして知られる著者のエッセイ集。
 読書エッセイの体裁をとっており、一回につき一冊の本が紹介される。ただし、本について触れられるのはだいたい最後の数行だけ。あとは又吉自身の少年期~青春期の思い出をおもな題材とした、普通のエッセイである。

 特段の期待もせず手にとった本だが、けっこう面白かった。自虐的ユーモアとペーソスに満ちた、「面白うてやがて哀しき」好エッセイだ。

 又吉は文章がうまいし、読書の趣味も渋い。たとえば、花村萬月の作品を取り上げるにあたって、初期の埋もれた佳編『渋谷ルシファー』をセレクトするあたり、「おっ、なかなかの目利きだな」という感じ。
 ただし、「人気お笑い芸人が書いたエッセイ」という付加価値を取っ払った場合、商品として成立するかどうかは微妙なところだ。

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岩本沙弓『最後のバブルがやってくる』


最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章
(2012/04/26)
岩本 沙弓

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 岩本沙弓著『最後のバブルがやってくる――それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章』(集英社/1680円)読了。

 金融コンサルタント・経済評論家の著者が、今年あたりから2016~17年にかけて“資本主義最後にして最大のバブル”がやってくると予測した一般向けの経済書。読者を煽り立てる感じのタイトルはトンデモ本風だが、読んでみたらまっとうな内容だった。

 金融の専門用語も頻出するのだが、そのわりには私のような経済オンチにもわかりやすい本だ。基本的には個人投資家向けの本だが、たんに世界経済・日本経済の先行きを概観した書として読んでもためになる。

 目からウロコの指摘がけっこうあった。
 たとえば、イラク戦争が起きた直接のきっかけは、じつは「原油決済のユーロ転換」にあったという指摘。

 「原油輸出の決済通貨を米ドルからユーロへという、イラクのかねてからの要求が国連で承認されたのが(2000年)10月30日」であり、それは「米ドルの信頼を貶め、世界経済における米国の覇権を根本から揺るがしかねない」出来事だった。
 だからこそ、米国はありもしない大量破壊兵器を根拠にイラクに戦争を仕掛けた。そして、2003年のイラク戦争終結直後、「イラクの原油代金の決済は、ユーロから戦勝国である米国のドルへと戻され」たという。

 ううむ、面白い(もっとも、著者以外にもこうした見立てをする人は少なくないようだが)。
 著者はこのような大胆な見立てを連打して、世界経済の未来を展望していく。
 たとえば、米国が近い将来金本位制を復活させ、そのことによってドルの基軸通貨としての地位を保とうとする、と予測している。

 そして著者は、数年以内に世界に「最後のバブル」が訪れるが、それはその後の世界恐慌の序章である、とする。

 私が3年ほど前に読んで感心した類書に、徳川家広の『バブルの興亡』がある(→当ブログのレビュー)。
 コワイのは、徳川家広と著者の予測が、「もうすぐバブルがきて、その後に大恐慌がくる」という点でピタリと一致しているところ。

 著者は、「最後のバブル」とその後の大恐慌の対策として、“2016年までの上昇気運の間に積極的投資を行い、バブルがはじける前に売り抜けること”を勧めている。

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矢野顕子『荒野の呼び声 -東京録音-』


荒野の呼び声 -東京録音-荒野の呼び声 -東京録音-
(2012/08/08)
矢野顕子

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 矢野顕子の『荒野の呼び声 -東京録音-』(ヤマハミュージック・コミュニケーションズ/3150円)を購入。さっそくヘビロ中。8月に出た最新ライヴ・アルバムである。

 矢野顕子は初期から節目節目にライヴ盤を出してきたが、それぞれが傑作でハズレがない。
 私がとくに好きなのは1979年の傑作『東京は夜の7時』で、いまでもときどき引っぱり出して聴く。バックはYMOの3人をはじめとした腕利きたちで、山下達郎と吉田美奈子がバックコーラスを務めている(!)という、いまでは考えられない豪華メンツのライヴ盤であった。
 また、昨年の上原ひろみとの共演ライヴ『Get Together』もよかった。

 本作は、「矢野顕子の様々なライヴ・スタイルを一枚にまとめたベスト・ライヴ・アルバム。2009年~2010年にBlue Note、NHKホール、鎌倉芸術館にて行ったライヴから選りすぐりの曲を収録」というものなので、タイプとしては『TWILIGHT~the“LIVE”best of Akiko Yano~』に近いか。でも、個人的には『TWILIGHT』よりこっちのほうが気に入った。

 全体に、「やさしくあったかいアッコちゃん」より、「カッコよくてパワフルなオトコ前の矢野顕子」が前面に出ている感じ。ピアノ弾き語りはラストの「椰子の実」だけで、ほかの曲には激しいドラムスやギターがフィーチャーされたものも多いし。
 たとえば、レッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」のカヴァーを演っているのだが(アルバム『akiko』にスタジオ・ヴァージョン所収)、その後半のギターとドラムスの盛り上がりなど、「ほとんどハードロック」である。

 アッコちゃんのピアノの魅力はいまさら言うまでもないわけだが、本作は彼女のヴォーカリストとしての魅力も堪能できるものとなっている。
 とくに、キンクスの「ユー・リアリー・ガット・ミー」やラスカルズの「People Got To Be Free」のカヴァーでのヴォーカルはすこぶるソウルフルで、矢野顕子の一般的イメージを大きく覆すだろう。

 過去のアルバムですでにスタジオ・ヴァージョンが披露されている曲も、アレンジが全面刷新されているものが多く、別の曲として愉しむことができる。

 たとえば、沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」は、元はアルバム『ELEPHANT HOTEL』(1994)で取り上げていたものだが、本作での演奏は途中で渓流の水が迸るような透明感あふれるジャズになっていく。そこが鳥肌モノ。
 カントリー風のアレンジがなされた「気球にのって」は個人的にはイマイチだったが、ほかはだいたいスタジオ・ヴァージョンよりカッコいい。

 唯一スタジオ録音の新曲として収録された「こんなところにいてはいけない」は、コンビで多くの名曲を産み出してきた糸井重里との共同作詞によるもの。
 歌詞から察するに、東日本大震災からの復興の祈りが根底に込められた曲。シンプルでポップ。そして静かな力強さに満ちている。

 
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『間違いだらけの生活保護バッシング』


間違いだらけの生活保護バッシング―Q&Aでわかる 生活保護の誤解と利用者の実像―間違いだらけの生活保護バッシング―Q&Aでわかる 生活保護の誤解と利用者の実像―
(2012/08/21)
生活保護問題対策全国会議

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 生活保護問題対策全国会議編『間違いだらけの生活保護バッシング――Q&Aでわかる 生活保護の誤解と利用者の実像』(明石書店/1050円)読了。

 某お笑い芸人の母親が生活保護を受給していた問題(といっても、不正受給にはあたらないのだが)を発端に、全マスコミをあげて燃え上がった「生活保護バッシング」。それがいかに誤解と偏見に基づいているかを、生活保護の現場を熟知する専門家たち――反貧困運動の活動家、弁護士、社会福祉学の研究者など――が説いた反論の書である。
 章立ては以下のとおり。

第1章 Q&A:生活保護の誤解と利用者の実像
第2章 生活保護利用者の声
第3章 マスコミによる生活保護報道の問題点
第4章 生活保護“緊急”相談ダイヤルの結果報告
第5章 生活保護バッシング、餓死・孤立死事件と生存権裁判
第6章 生活保護をめぐる最近の動きと改革の方向性



 このうち、全18問のQ&Aからなる第1章が本書の肝といえる。生活保護に対する誤解と偏見を代表する問いに答えていくなかで、生活保護制度の現状や問題点が鮮やかに浮かび上がる。この章自体が簡潔な生活保護入門になっているのだ。
 生活保護バッシングに共鳴し、「ナマポ受給者なんか、みんな怠け者で恥知らずのクズ。受給者はどんどん減らせ。支給額も下げろ」と思っている人は、この章だけでも読むとよいと思う。

 執筆者たちの反論はいずれも実証的データに基づく冷静なもので、説得的だ。ここでは一例として、「はじめに」の一節を引いておく。

 「不正受給」は、金額ベースで受給者全体の0・4%弱という数字で推移しているのに対して、生活保護の捕捉率(利用資格のある人のうち現に利用している人の割合)は2~3割にとどまっています。客観的なデータを見ると、むしろ、日本では必要な人に保護が行きわたっていないこと(漏給)の方が大きな問題なのですが、そのことはほとんど知られていません。生活保護利用者が増えたといっても日本での利用率は人口の1・6%に過ぎず、先進諸国(ドイツ9・7%、イギリス9・3%、フランス5・7%)に比べると異常と言ってもよい低さです。これは、日本では生活保護を使うことが「恥」であるという意識が強く、「できる限り使いたくない制度」になってしまっていることによります。2012年に入ってから全国で餓死や孤立死が相次いでいますが、餓死するほど困窮しても生活保護を使おうと思えないことのほうが大きな問題ではないでしょうか。



 飛躍したことを言うようだが、私にはマスコミによる「生活保護バッシング」が、現在の煽動的な反中国報道と二重写しになって見える。
 ごく一部の不正受給者の存在をもって、生保受給者全体を蔑視し、叩くこと。ごく一部の中国人が反日デモで暴徒化したことをもって、13億人の中国人全体を憎悪し、敵視すること――2つは相似形だと思うのだ。

 本書の内容でとくに目からウロコだったのは、「生活保護支給額を下げろ!」という声がかりに実現したなら、それが非受給者の生活をも圧迫することになる、という事実。
 生活保護費は「ナショナル・ミニマム」(政府が国民に保障する生活の最低限度水準)だから、それが低下すれば連動して最低賃金も引き下げられる。そのことで「労働のコストは全般的に現在より低く見積もられ、あらゆる層で収入が低減する」という。それ以外にも、課税最低基準や生活扶助制度の適用基準にも影響があらわれ、生活が苦しい層はますます苦しくなる、という。
 つまり、支給額引き下げは誰の得にもならないばかりか(いや、政府や推進した政治家の得にはなるか)、多くの人にとって損なのだ。

 そのほかにも、生活保護についての目新しい知見がちりばめられた良書。120ページに満たない薄い本なので、サッと読めるのもいい。

■関連エントリ→ 本田良一『ルポ 生活保護』レビュー

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『私のこだわり人物伝』(ガンディー/松下幸之助)


私のこだわり人物伝 (2008年12月-2009年1月) (NHK知るを楽しむ (火))私のこだわり人物伝 (2008年12月-2009年1月) (NHK知るを楽しむ (火))
(2008/11)
日本放送協会、日本放送出版協会 他

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 今日は、都内某所で取材。ゴーストの仕事なので、お相手はナイショ。
 行き帰りの電車で、『私のこだわり人物伝  ガンディー/松下幸之助編』(日本放送出版協会)のテキストを読了。

 「こだわり人物伝」は、NHK教育テレビでやっている教養番組。最初は「知るを楽しむ」内の1カテゴリーだった。
 私は、この手のNHKの教養番組のテキストをよく読む。元になっている番組を観なくても、テキストだけ読んでも面白くてためになるから。以前やっていた同種の番組「NHK人間講座」「NHK人間大学」のテキストも、よく買って読んだ。

 この手の番組では、講師となった人が番組内容をベースにしてのちに著書を出すことが多いのだが、その著書よりも番組テキストのほうがずっと割安だし、たいていは内容もあまり変わらない。要は、番組テキストでありながら独立した教養書としても読め、お値打ちなのだ。

 今日読んだテキストは2008年12月/2009年1月の同番組をまとめたもの。中島岳志さんを講師としたガンディー編が読みたくて買ったのだが、カップリングされている松下幸之助編(講師/北康利)もたいへん面白く、けっきょく全部読んだ。
 どちらも、平明な人物入門でありながら対象の「核」に肉薄しており、見事な評伝にもなっている。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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