上祐史浩『オウム事件 17年目の告白』


オウム事件 17年目の告白オウム事件 17年目の告白
(2012/12/17)
上祐 史浩、有田 芳生 (検証) 他

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 昨日は、福島でまた震災関連取材(日帰り)。

 今日で3月も終わりだが、花粉症とぎっくり腰のダブルパンチで、今月の私の生産性はいつもの月の半分以下であった。フリーランサーの悲しさで、私の体調が悪いと仕事が1ミリも動かなくなるのだ。


 上祐史浩著『オウム事件 17年目の告白』(扶桑社/1680円)読了。
 
 オウムの最高幹部の一人でありながら、サリン事件への直接関与を免れた「ああ言えば上祐」こと上祐史浩(現「ひかりの輪」代表)が、オウム時代を振り返った回想録。

 地下鉄サリン事件当時の、全マスコミがオウム一色に染まった時代を知っている者には、非常に興味深く読める本だ。
 アレフに残った者たちとは違って、麻原彰晃によるマインドコントロールから完全に脱した(と思われる)著者が、そこまでの心の軌跡を綴った「転向」の記録でもある。
 オウムがなぜ道を誤ったのかを、自らの古傷をえぐるような痛切な反省を込めて検証していく著者の姿勢は、誠実なものだ。たんなる自己弁護、自己正当化にはなっていない。

 オウム事件と麻原のパーソナリティを分析した本として読んでも、ヘタな評論家が書いた類書よりよほど鋭い(当事者の一人なのだから当然だが)。
 たとえば、“麻原の終末予言は、じつは大日本帝国が破滅へと向かった道程をそっくりなぞっていた”という指摘には、思わず唸った。

 ただ、後半、自らが立ち上げた「ひかりの輪」の宣伝めいた記述が多いのは興ざめ。
 なるほど、「ひかりの輪」はオウムやアレフのような危険な団体ではないかもしれない。が、著者の言葉をすべて鵜呑みにする気には、私はなれない。

 “タバコより害も中毒性も少ないマリファナが禁じられているのは、ハードドラッグへの水際防止としての意味がある”と聞いたことがある。つまり、マリファナを常用する者はより強い刺激を求めて覚醒剤などに手を染めやすいから、マリファナも禁止せざるを得ないのだ、と。

 その伝でいけば、たとえ「ひかりの輪」が危険なカルトではないとしても、そこを入り口にオウム的カルトへと進む者を出さないために、危険視せざるを得ないのではないか。

■関連エントリ
松本聡香『私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか』レビュー
青木由美子『オウムを生きて』レビュー
藤原新也『黄泉の犬』レビュー
島田裕巳『オウム/なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』レビュー
『A』『A2』レビュー

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ダニエル・ピンク『モチベーション3・0』


モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すかモチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
(2010/07/07)
ダニエル・ピンク

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 ダニエル・ピンク著、大前研一訳『モチベーション3・0――持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(講談社/1890円)読了。

 『フリーエージェント社会の到来』や『ハイ・コンセプト』で知られる米国の作家ダニエル・ピンクが、「内発的動機づけ」をテーマに据えたビジネス書である。

■関連エントリ→ ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト』レビュー

 ビジネス書ではあるが、「ポジティブ心理学」の成果が随所に取り入れられている。「ポジティプ心理学入門」としても読めるし、第一級の自己啓発書としても読める本だ。

 著者は、モチベーションを三種に大別する。
 「モチベーション1・0」は、食欲・性欲などによるプリミティブなモチベーション。「腹が減ったから狩りに出かけよう」などというものだ。
 「モチベーション2・0」は、いわゆる「アメとムチ」によるモチベーション。「達成したら報酬を与えるが、達成しなかったら罰を与える」などという外発的動機付けによって行動に駆り立てること。
 最後の「モチベーション3・0」が、本書のテーマとなる「内発的動機づけ」を指す。すなわち、誰に命じられたからでもなく、お金を得るためでもなく、自分がやりたいと思ったからやる、というものだ。

 20世紀までのあらゆる組織は、「モチベーション2・0」をおもに使って人を動かしてきた。だが、いまやそれは時代遅れだと著者は言う。
 なんとなれば、「アメとムチ」で人を動かすやり方は、誰がやってもよいルーティンワークには有効だが、創造性の必要な作業には無効――むしろ有害(アメとムチを掲げることで、創造性の発揮が阻害されることが研究でわかっている)だからだ。

 そして、21世紀の先進国においては、誰がやってもよい仕事はコンピュータやオフショアリング(海外へのアウトソーシング)にどんどん置き換えられており、「モチベーション2・0」が有効な領域は急速に狭まりつつある。
 だからこそ、これからのあらゆる組織は、「モチベーション3・0」をいかに業務の中に取り入れるかを考えなければいけない……というのが著者の見立てである。

 ユーモアとウィットに富む文章で、高度なテーマをわかりやすく面白い読み物に仕上げる著者の鮮やかな手腕は、いつもどおり。
 たとえば、「アメとムチ」のやり方が抱える本質的欠陥を、著者は次のように明快に説明する。

 外的な報酬が重要視される環境では、多くの人は報酬が得られる局面までしか働かない。それ以上は働かなくなる。たとえば本を三冊読めば賞品がもらえるのなら、多くの生徒は四冊目の本を手に取りはしないだろう。ましてや、生涯にわたる読書の習慣など身につくはずがない――ちょうど、四半期の業績目標を達成した幹部が、それ以上の利益追求に興味を失い、会社の長期的な健全性についてじっくり考えたりしないように。同様に、金銭を動機づけとする運動や禁煙、服薬などについても、最初はそれなりの成果が表れる。ところが報酬がなくなると、その健康的な行為はそれ以上続かない、と複数の研究から明らかになっている。



 対象読者層としては、経営者や組織のリーダーがまず念頭に置かれているのだろう。が、私のようなフリーランサーにとっても、仕事に対する姿勢の根本的見直しを迫る本である。

 後半の内容は、ポジティブ心理学の重要な研究者の一人、ミハイ・チクセントミハイの「フロー体験」の研究に多くを負っている(本人にも取材している)。
 「ああ、そうか。最近私の仕事には『フロー体験』が足りないのだ」と、読みながらしみじみ思った。

 本書は、“働くことを通じて幸せになるためには、どんな条件が必要なのか”を、さまざまな角度から探った本といえる。また、人間の幸福は目的のために挑戦をつづける過程の中にこそあり、なんの目的も持たずに遊んで暮らすことがじつはまったく幸福ではないと、研究データをふまえて教えてくれる本でもある。
 深みのある、知的興奮すら味わえるビジネス書。日本には、こういう上質なビジネス書があまりにも少ない。

 
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アイン・ソフ『帽子と野原』


帽子と野原帽子と野原
(2002/02/06)
アイン・ソフ

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 日本のプログレ/ジャズ・ロック・グループ、アイン・ソフの『帽子と野原』(キングレコード)を聴いた。彼らが1986年に発表したセカンド・アルバムの復刻盤。

 アルバム・タイトルは、英国カンタベリー系ジャズ・ロックの名バンド「ハットフィールド・アンド・ザ・ノース」に由来する(英題は「HAT AND FIELD」)。
 このタイトルが示すように、思いっきりカンタベリー系の音。ゆったりとして知的で上品で、ほのかなユーモアが漂う。曲構成はけっこう複雑なのに、その複雑さを聴き手にあまり意識させない流麗さがある。

 これみよがしにテクニックをひけらかすところはないが、それでも随所で高い演奏力が発揮されている。ギターとシンセの、静かな火花が散るようなからみあいの美しいこと。

 全曲インストゥルメンタル。全8曲がそれぞれ素晴らしく、静と動、緩急のコントラストが巧みに活かされた全体の構成も絶妙。英国の美しい田園風景が心に広がるような、映像喚起力の強いサウンドだ。


↑個人的にはいちばん気に入った「魔法のじゅうたん」。

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ソニア・リュボミアスキー『幸せがずっと続く12の行動習慣』


幸せがずっと続く12の行動習慣幸せがずっと続く12の行動習慣
(2012/02/16)
ソニア・リュボミアスキー

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 ソニア・リュボミアスキー著、金井真弓訳『幸せがずっと続く12の行動習慣――自分で変えられる40%に集中しよう』(日本実業出版社/1680円)読了。

 タイトルだけ見るとよくあるクッサイ自己啓発書みたいだが、もっとまっとうな本である。心理学の新たな分野である「ポジティブ心理学」の研究者が、過去20年間の研究の蓄積をふまえ、“幸せを感じて生きるためにはどう行動したらよいか?”のノウハウを開陳したものなのだ。

 ポジティブ心理学の提唱者であり、楽観主義の研究で世界的に知られるマーティン・セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するか』を、私は長く愛読してきた。こちらも誤解されやすい書名だが、楽観主義をトレーニングによって習得することでもっと楽しく生きようと説く、まっとうな自己啓発書の名著である。

 ポジティブ心理学と最先端の脳科学が、いま、人間の幸福観を根底から変えつつあると思う。

 副題の「自分で変えられる40%」とは何か?
 著者たちの研究によれば、「幸せというもののなかで、人が行動や考え方を通じて自分で変えられる部分は40%」なのだという。
 それ以外は、遺伝的要因で決まる部分が50%、環境的要因で決まる部分が10%だとか。

 我々は往々にして、「幸せとは、環境を変えることによって得られるもの」だと思い込んでいる。「もっと大きな家に住めれば」「もっと美人になれれば」「もっといい会社に転職できれば」「もっと収入が上がれば」――「その変化によって私は幸福になれるのに……」と思いがちなのだ。

 だが、じつはどれほど素晴らしい環境変化であっても、それは幸福感をもたらす要因の10%ほどにすぎないのだ。
 しかも、環境変化による幸福感は持続しない。人の心には「快楽順応(幸福順応)」という仕組みがあって、どんな変化にもすぐに慣れてしまうものだからだ(逆に、高い順応能力があるからこそ人は悲しみから立ち直れるのだが)。
 たとえば、年収が2倍に跳ね上がっても、広くて快適な新居に引っ越しても、そのことによって幸福感が持続する期間は、じつは我々が想像するよりもずっと短い。結婚による幸福感も、おおむね2年しかつづかないという。

 では、幸福感をもっと持続させるためにはどうすればよいのか? そのための方法が、「自分で変えられる40%」に含まれる考え方(認知スタイル)や行動習慣を変えることなのだと、著者は言うのだ。

 著者が「幸せがずっと続く12の行動習慣」として挙げるのは、「感謝の気持ちを表す」「楽観的になる」「他人と比較しない」「(人に)親切にする」「人を許す」「熱中できる活動を増やす」など……。
 一見、どれもありきたりなアドバイスに見える。そのへんの自己啓発書に「1日1回、誰かに『ありがとう』と言いましょう」なんて書いてあったら、私は「ケッ!」と思うだろう。
 しかし、本書に挙げられた「12の行動習慣」は、科学的な実験のくり返しによって見出された、“幸福感を持続・増幅させる秘訣”である。信憑性と説得力が段違いなのだ。

 幸福感に科学のメスを入れ、ダイエットのコツを説くような明快さで“幸福感を高めるコツ”を解説した好著。「ポジティブ心理学入門」のたぐいはたくさんあるが、そのうち最も「実用的」なのは本書だろう。

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ジャコ・パストリアス『ワード・オヴ・マウス・バンド 1983 ジャパン・ツアー・フィーチャリング渡辺香津美』


ワード・オヴ・マウス・バンド 1983 ジャパン・ツアー・フィーチャリング渡辺香津美ワード・オヴ・マウス・バンド 1983 ジャパン・ツアー・フィーチャリング渡辺香津美
(2012/07/25)
ジャコ・パストリアス(b)

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 ジャコ・パストリアスの『ワード・オヴ・マウス・バンド 1983 ジャパン・ツアー・フィーチャリング渡辺香津美』(ワーナー・ミュージック/3150円)を聴いた。

 タイトルどおり、ジャコが「ワード・オヴ・マウス・バンド」を率いて行った1983年のジャパン・ツアーのライヴ盤。2枚組である。
 ギタリストとしてバンドに加わる予定だったマイク・スターンが急遽参加できなくなり、日本の渡辺香津美が代役を務めたもの。渡辺の起用はマイク・スターン自身の推薦によるものだったそうだ。

 もともとは、渡辺が自らの記録用として、ライヴ会場のミキシング・コンソールからカセットテープに録音しておいたもの。つまり、ライヴ盤として発売される予定はなかった音源である。
 それを聴かされた音楽ライターが、「こんな秘蔵音源はどうせだったらアルバム化したほうがいいですよ!」と進言し、約30年の時を経てCD化されたもの(もちろんジャコの著作権管理者の許諾を受けて)なのだ。

 「カセットテープで録った」というと、キング・クリムゾンの『アースバウンド』の劣悪な音質(ただし演奏は素晴らしい)を思い出す向きもあろう。だが、メディアはカセットでも、ミキシング・エンジニアがラインで録ったものだけあって、客席からカセットテレコで録ったという『アースバウンド』よりはるかに音質がよい。しかも、アルバム化にあたっては丹念にミキシング/マスタリングもなされているそうだ。
 もちろん、最初からライヴ盤を作るつもりで録ったものよりは音質が劣るが、普通に聴く分には気にならないレベル。

 内容については、アマゾンのカスタマーレビューで酷評が多かったのであまり期待していなかったのだが、聴いてみたらすごくよかった(アマゾンのレビューって、つくづくあてにならない)。ジャコが亡くなる4年前のライヴということになるが、このころはまだ彼のプレイは快調である。

 ディスク2で、渡辺香津美のギターが暴れまくり、ジャコのベースと激しいインタープレイをくり広げるところが最高。
 とくに、ウェザー・リポート時代の「ティーン・タウン」と「ハヴォナ」の2曲は絶品だ。ウェザー・リポートはギターレスの編成だったから、当時の曲にハードなギターが加わることで、新たな魅力が生み出されているのだ。


↑「ハヴォナ」。渡辺香津美のギターが前に出てくるのは中盤から。

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リッチー・コッツェン『Instrumental Collection』


Instrumental Collection the Shrapnel YearsInstrumental Collection the Shrapnel Years
(2006/06/27)
Richie Kotzen

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 リッチー・コッツェンの『Instrumental Collection the Shrapnel Years』を、輸入盤で購入。
 
 コッツェンが「テクニカル系ギタリストの登竜門」とも言われる「シュラプネル・レコーズ」で発表したアルバムから、インスト曲のみを集めた変則的ベスト。

 1989年にシュラプネルからデビュー・アルバムを出したとき、彼はまだ19歳の若さであった。
 私がコッツェンの作品を聴き始めたのはわりと最近なので、活動初期に属するシュラプネル時代のアルバムは聴いたことがなかった。なので、そのころの曲がまとめて聴けるこのアルバムはちょうどいいと思ったしだい。

 ギターはバカテクだし、デヴィッド・カヴァーデイルを甘くしたようなヴォーカルは渋いし、美形だし、ひととおりの楽器をこなすマルチ・インストゥルメンタリストだし、作曲能力も高いし……と、ロック・アーティストとしての基礎体力がメチャクチャ高いコッツェン。
 にもかかわらず、絵に描いたような「器用貧乏」というか、いまいちスターになりきれない。近年は新作を発表しても日本盤すら出ないありさまだ。すごくいいんだけどなあ。

 本アルバムはインスト曲のみを集めたものなので、彼のヴォーカリストとしての魅力は味わえないが、その分ギタリストとしての魅力が炸裂している。難易度の高いフレーズをガンガン弾きまくりなのである。

 すさまじい速弾きが随所で聴ける。前半に集中している「もろメタル」な初期の曲より、ハイパー・フュージョン的、曲によってはジェフ・ベック的な後半の曲のほうが、私は好みだな。

 ともあれ、どの曲もカッコよく、気分を引き締めてなおかつアッパーにしたいときにピッタリの「激辛BGM」となるアルバム。


↑初期の曲のイメージを代表する「Acid Lips」。


↑95年のアルバム「Inner Galactic Fusion Experience」所収の「Pulse」。

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木谷哲夫『成功はすべてコンセプトから始まる』


成功はすべてコンセプトから始まる成功はすべてコンセプトから始まる
(2012/09/14)
木谷 哲夫

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 木谷哲夫著『成功はすべてコンセプトから始まる――「思い」を「できる」に変える仕事術』(ダイヤモンド社/1575円)読了。

 ちきりんがブログで紹介していたのを見て、興味を抱いて手をのばしてみた。1時間もあればサラッと読める軽い本だ。
 著者はマッキンゼーOBで、現在は京都大学教授として起業家教育に当たっている人。

 中心となる主張は、先行する類書であるダニエル・ピンクの『ハイ・コンセプト』と共通している。

■関連エントリ→ ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト』レビュー 

 新規事業や新商品開発などを成功させるために最も重要なのは魅力的なコンセプトを立案することであり、自社の強みを活かすことはもう重要ではない、という。
 なぜなら、そのコンセプトを実現するために必要な「強み」は、それをもっている他社などにアウトソーシングすればよい時代だから、と。

 そして、ビジネスにおける魅力的なコンセプトとはいかなるもので、コンセプト立案能力はどう磨けばよいのか、企業の中でコンセプトを形にしていくために大切なことは何か……などを、著者はさまざまな具体例を挙げて説明していく。

 基本的には経営者や企業の部門リーダー向けの本なので、私にはあまり関係ない内容だった。
 それでも、話のネタになりそうな一節がけっこうあったし、「アイデア本」として読める部分も多く、一読の価値はあった。ビジネス書としての出来も平均点以上だと思う。

 以下、私が付箋を打った箇所を引用。

 スティーブ・ジョブズもまた、「クリエイティビティとは組み合わせにすぎない」と言っています。



 ほとんどの人は興味も関心もないが、一部の人は熱狂的に支持してくれる。そういう商品やサービスが最強なのです。なぜなら、それが「対象顧客セグメント」の発見と、「提供価値」の特定につながるからです。



 新しく世の中に生まれた顧客の「かたまり」を、人より先に発見することができれば大ブレークにつながります。DeNAは、おそらく世界で初めて、モバイルで普通にインターネットを楽しむ顧客という新大陸を発見したのだと思います。



 宮本武蔵は『五輪書』の中で「自分の強みをつくるな」と書いています。強みにこだわっていると、戦略の選択肢が減るからです。



 
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船橋洋一『カウントダウン・メルトダウン』


カウントダウン・メルトダウン 上カウントダウン・メルトダウン 上
(2013/01/27)
船橋 洋一

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 船橋洋一著『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋/上下各1680円)読了。書評用読書。

 日本を代表するジャーナリストの著者が、福島第一原発事故の最も過酷な時期――発災からの約20日間に照準を絞り、その舞台裏を描き尽くしたノンフィクション。計1000ページ近い大著だ。

 日米の要人300名余に対する取材をふまえ、「戦後最大の危機」の全貌が、鮮烈な臨場感をもって多面的に再現されている。デイヴィッド・ハルバースタムの諸作を彷彿とさせる、重厚な力作である。

 福島第一原発事故については、すでにノンフィクションや当事者の回顧録が多数出版されているが、本書はその決定版といえる。今後長きにわたって、事故を振り返る際の基本文献となるに違いない。

 積み重ねられていく事実の背後に浮かび上がるのは、原発事故があぶり出した日本の組織社会の病弊そのものだ。日本の官僚組織(本書ではおもに経産省と文科省)が、平時はともあれ、非常時にはいかに役立たずであるかが如実に示されている。
 東電も、私企業でありながら官庁以上に官僚的な組織であり、そのダメさかげんが執拗にリフレインされて描かれる。
 読者の大半が思うことだろうが、中央官庁よりも自衛隊のほうが、組織としてよほどまともである。

 ただし、東電にも、福島第一原発の吉田昌郎所長(当時)のように勇敢で優れたリーダーはいた。民主党政権の中にも、本気で闘った人物はいた。著者は、事故対応の当事者たちの言動を、中立的視点から是々非々で評価していく。
 当時の首相・菅直人に対しては、そのリーダーシップの欠如などについて率直な批判がなされるが、それでも評価すべき点は虚心に評価している。

 その意味で本書は、リーダー論・組織論・日本社会論としても読みごたえがある。

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木村草太『キヨミズ准教授の法学入門』


キヨミズ准教授の法学入門 (星海社新書)キヨミズ准教授の法学入門 (星海社新書)
(2012/11/22)
木村 草太

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 ぎっくり腰の痛みがようやく収まり、仕事が“平常営業”に戻った。まだくしゃみをするときにちょっと緊張するけど……。

 木村草太著『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書/882円)読了。

 1980年生まれの若き憲法学者(首都大学東京准教授)が書いた、「日本一敷居の低い法学入門」(カバーそでの惹句より)。仕事の資料として読んだものだが、勉強になったし、面白く読めた。

 カバーと本文のイラストは、マンガ家の石黒正数が担当。
 「港湾大学」の准教授が、町で偶然出会った高校2年の男子生徒に、法学の基礎をレクチャーしていくという物語仕立てになっている。というより、「ラノベ仕立て」といったほうがよいか。こんな趣向の法学入門が書けるのは、若いこの著者だからこそだろう。

 もっとも、「ラノベとして読んでもストーリーが面白い」というところまではいかない(あたりまえだ)。それでも、“ラノベ仕立てにすることによって、法学入門を面白く読めるようにする”という企図は十分に達成されている。

 序盤の「法的思考とは何か?」という話は、「法的三段論法」「法命題」「裸の価値判断」などという堅苦しい語が頻出して、なかなか本の中に入り込めない。
 が、話が具体的になってくる第3章あたりから、俄然面白くなってくる。

 法学を学ぶことは、法曹界に進む者以外にとっても大きな意味があると説明したくだりに、なるほどと膝を打った。たとえば――。

「あと、法律っていうのは、これまで生じた様々な社会問題への対応マニュアルなんですね。その勉強をしておくと、社会では、これまでにどんな問題が起きてきたのか、そこではどんな価値や利益が問題になって、解決のためにはどういう道筋を通るのが有効か、っていうのが分かってくるんですね」



 入門書ではあるが、わりと高度な内容までがつめ込まれている。たとえば、法科大学院で古代ローマ法や近代西洋法典編纂史が必修となっている意義について、歴史を遡って簡潔に説明されている。
 法曹界に進みたいと考えている若者にとってのみならず、一般人にとっても有益な法学入門なのだ。

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立花隆・須田慎太郎『エーゲ』


エーゲ―永遠回帰の海エーゲ―永遠回帰の海
(2005/10)
立花 隆、須田 慎太郎 他

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 立花隆・須田慎太郎著『エーゲ――永遠回帰の海』(書籍情報社/1575円)読了。

 ぎっくり腰で何もできなかった間、手を伸ばせる範囲にある本をパラパラ読み返しては時間をつぶしていたのだが、そうやって再読した本の一つに立花隆の『ぼくの血となり肉となった五◯◯冊そして血にも肉にもならなかった一◯◯冊』があった(→当ブログのレビュー)。

 同書の中で立花がこの『エーゲ』について、「ぼくが書いた沢山の本の中でも、内容的に三本指に入る本だと思う」と自画自賛していたのが目についた。それで読んでみたしだい。

 1982年、立花が写真家の須田慎太郎とともに、40日間かけてエーゲ海の回り(ギリシア、トルコ)をぐるりと旅したときの旅行記である。
 いまなはき月刊『プレイボーイ』に連載されたものの、未完に終わっていた作品。それから20年以上を経た2005年に、ようやく完成・刊行された。

 美しいカラー写真と文章が、ほぼ半々の構成。オールカラーでこの値段は格安だと思う。

 ミーハーな観光旅行の対極にある、立花隆らしい深みのある思索に満ちた旅行記。おもに古代遺跡を見て回る旅で、さまざまな遺跡を見ながら、立花が歴史・文明・宗教・哲学に思いを馳せていく。
 文章にも力がこもっていて、「立花は田中角栄などに深くかかわるより、ホントはこういう仕事だけやっていたかったのだろうな」と思わせる。もっとも、本書は彼の本の中でいちばん売れなかった部類らしいけど。

 文章量も少ないし、立花の著作でベスト3に入るほどの作品かというと首をかしげるが、読みごたえある好著であるのはたしか。
 「最初の哲学者」ターレス(「万物の源は水である」と言った人)を生んだ都市国家ミレトスの遺跡を訪ね、そこから哲学の根源や歴史のもつ意味について思索を広げていく終章が、最も面白い。

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町山智浩『教科書に載ってないUSA語録』


教科書に載ってないUSA語録教科書に載ってないUSA語録
(2012/10/06)
町山 智浩

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 先週末、人生初のぎっくり腰になってしまった。
 花粉症のくしゃみをした瞬間、「ピキーン!」と腰にきたのである。いわゆる「魔女の一撃」が……。
 「くしゃみがきっかけでぎっくり腰になる」というのは話には聞いていたが、まさか自分がなるとは思わなかった。
 
 ネットで調べると、「だいたい2、3日で痛みがおさまる」と書いてあるサイトが多いのだが、私はかれこれ6日目なのにまだ痛い。
 発症直後、事態を甘く見て駅前まで郵便を出しに行った(その日出さないといけない郵便物があった)のがまずかったのかもしれない。一晩寝て起きたら痛みが悪化していたのだ。それからは一歩も家の外に出ていない。

 で、いまはようやく、「腰痛用サポーター」を腰に巻きつけて、室内ならそろりそろりと歩ける状態。
 痛みがひどいときは椅子に座ることもできなかったので、その間仕事にならず、まいった。花粉症のくしゃみをするたびにズキーンとくるし……。

 思い返してみれば、このところずっと体に妙な違和感があった。くしゃみでギクッときたのは「引き金要因」にすぎず、根本原因は疲れが蓄積されていたことにあるのだろう。

 痛みは体の信号であるから、「いま抱えている仕事が落ち着いたら、少しまとまった休息をとろう」と真剣に思う。


 町山智浩著『教科書に載ってないUSA語録』(文藝春秋/1050円)読了。
 
 『週刊文春』にいまも連載中の、アメリカの時事ネタを綴るコラム「言霊USA」の単行本化。
 政治・経済ネタ、芸能ネタ、専門の映画ネタなど、多彩な話題を取り上げるコラムらしいコラムだ。毎回一つの言葉にスポットを当て、そこから話を広げていくスタイルなので、米語スラングの勉強にもなる。
 マンガ家の澤井健が担当しているイラスト(てゆーか、カートゥーン=1コママンガ)も、じつによい。人物の似顔絵がバツグンのうまさだし。

 町山の『〈映画の見方〉が変わる本』や『トラウマ映画館』が再読三読に堪える深みのある本なのに対し、本書は元が週刊誌コラムだけに軽い内容で、一回読めばもういいかな、という感じ。

 それでも、何本かのコラムは強く心に残った。
 たとえば、「9・11」から10年を経たころ、米メディアで盛んに投げかけられていたという一つの問いかけ――「けっきょく、アメリカは対テロ戦争に勝ったの? 負けたの?」についてのコラム。

 米国海軍大学で軍事戦略を教えているマイケル・ヴラホスという教授は、こう言ったという。

「敗北感があれば負けだ。これは感情的判断。もうひとつは客観的判断。戦争前に比べて状況が悪くなっていれば負けだ。この両方において、アメリカは負けたのだ」



 また、アカデミー賞を選ぶ「アカデミー会員」の偏り(会員の94%が白人で、77%が男性、平均年齢は62歳)が賞自体の偏向につながっていると指摘したコラムには、さすがの深みがある。

 あえてアメリカン・ペーパーバックを模したチープな装丁にし、400ページ超のボリュームなのに低価格にしてある点も好ましい。一気に読めて、しかも満腹感が味わえるコラム集だ。

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ミスター・シリウス『ダージ』


ダージ(紙ジャケット仕様)ダージ(紙ジャケット仕様)
(2011/10/05)
ミスター・シリウス

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 日本のプログレ・バンド、ミスター・シリウスの1990年のアルバム『ダージ』の紙ジャケ版(キングレコード/2500円)を購入。ヘビロ中。ちなみに、「ダージ(DIRGE)」とは「挽歌・葬送歌」の意。

 私はけっしてマニアックな聴き手ではないけれど、プログレは好きだし、日本のプログレ・バンドもいろいろ聴いてきた(四人囃子やケンソー、美狂乱はわりと好きで、ノヴェラや新月はピンとこなかった)。

 だが、このミスター・シリウスは聴いたことがなかった。
 先日読んだ『証言! 日本のロック70’s』の中で、難波弘之がこのバンドを大絶賛していたので、興味を抱いてYouTubeで検索してみた。

 難波は、同書でこう言っている。

 もう一つ、僕の好きな日本のプログレ・バンドに心斎橋の傘屋の若旦那がやっているミスター・シリウスってのがいて、今は活動休止していますが、この二つのバンド(もう一つはケンソー/引用者補足)の音楽的なクオリティと、志の高さ、精神性と演奏技術、作曲能力のすばらしさは、どんなプロのバンドが対抗しようと思っても、とてもかなわないほどですね。まさに究極のアマチュアリズムです。



 で、何曲か聴いてたちまちノックアウトされてしまい、すぐにこのアルバムをアマゾンに注文したしだい。


↑アルバム中最もキャッチーな「スーパー・ジョーカー」。

 アルバム全編を通して聴くと、難波の言うとおり、日本のプログレ・バンドの最高峰といってよいクオリティであった。イエスやジェネシスの黄金期のアルパムと比べても、少しも引けを取らない。世界レベルの傑作である。

 シンフォニック・ロックの流麗・荘厳な美しさと、アメリカン・ハード・プログレに近いダイナミズムが絶妙に共存している。
 緻密なアレンジ、演奏も素晴らしいし、大木理紗のヴォーカルも、アニー・ハズラムあたりと比べても遜色ない美しさと力強さ。ドラマティックな曲構成に酔ううち、約50分のトータルプレイングタイムがあっという間にすぎる。

 いやー、こんなにすごい日本のバンドを知らなかったとは不覚。ほかのアルバムも聴いてみよう。

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裴英洙『トリアージ仕事術』


10の仕事を1の力でミスなく回す トリアージ仕事術10の仕事を1の力でミスなく回す トリアージ仕事術
(2012/11/30)
裴 英洙

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 裴英洙(はい・えいしゅ)著『トリアージ仕事術――10の仕事を1の力でミスなく回す』(ダイヤモンド社/1575円)読了。

 著者は外科医から病理専門医(病理診断を専門とする医師。担当医だけでは判断しにくい難しい事例について、なんの病気か、手術が必要か否かなどの判断を下す役割だという)に転じ、現在は医療機関再生専門のコンサルタント会社も経営している人。
 つまり、「医師と経営者とコンサルタント」の三足のわらじを履き、“毎日がマルチタスクであたりまえ”の超多忙な日々を送っている人物なのだ。
 
 そういう人が書く仕事術の本なら読んでみたいと思い、手にとってみた。
 「トリアージ」とは、一分一秒を争う救命医療の現場で、治療の優先度を決定すること。人命にかかわる決定を瞬時にしなければならない医療現場で培われた、するべきことの優先順位を的確に判断するノウハウ――それを「トリアージ仕事術」と名付け、あらゆる仕事に応用してみようというのが、本書の企画意図なのである。
 まさに「ありそうでなかった」好企画であり、すごくいい本になりそうだ。

 ……と思って読んだのだが、残念ながら企画倒れ。ほかの「仕事術」本となんら変わらない凡庸な内容になってしまっている。
 
 本書でくどくどと説明されている「仕事の優先順位をつける」やり方は、日々マルチタスクで仕事をしている人なら、誰もが無意識に行なっているあたりまえのことばかり。わざわざ著者に教えてもらうまでもない。

 私は少し前にも、本書の類書――医師で神戸大教授の岩田健太郎が書いた時間管理術の本『1秒もムダに生きない』を読んで、ガッカリしたことがある。
 けっきょく、第一線の多忙な医師だからといって、特別すごい仕事術を用いているわけではないのだな。

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西村しのぶ『メディックス』


メディックス (IKKI COMICS)メディックス (IKKI COMICS)
(2006/06/30)
西村 しのぶ

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 西村しのぶの『メディックス』(小学館/900円)を読んだ。

 1990年代初頭の『ビッグコミックスピリッツ』に不定期連載されるも未完に終わり、2006年にこの単行本が出るまで「幻の作品」となっていたもの。

 神戸の医大を舞台に、医学生たちの青春を描いた作品。私は初読だが、たいへん面白かった。

 医学生の勉強ぶり、暮らしぶりが、綿密な取材に基いてリアルに描かれている。解剖実習のあとはホルマリンの匂いが洗ってもなかなか取れないとか、外からではわからないディテールがいちいち興味深い。
 それでいて、堅苦しいお勉強マンガにはなっていない。主人公たちの恋愛模様が巧みに織り込まれ、オシャレな青春マンガとしても十分に楽しめるのだ。

 セリフのうまさはさすがで、印象に残るセリフが随所にちりばめられている。

 もう20年以上前に描かれた作品だから、時代風俗に古さを感じる部分もあるが(物語の中では携帯電話が普及し始めで、インターネットもまだない)、普遍的な青春ストーリーになっているから気にならない。

 面白いし、いくらでも広げられそうな物語なのに、わずか10話で中断されてしまったのは不思議だ。
 主人公たちは医者になるどころか、まだその入り口に立ったくらいの段階。「彼らが立派な医者になるまでの物語を読んでみたい」という思いにかられる。

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池谷裕二・中村うさぎ『脳はこんなに悩ましい』


脳はこんなに悩ましい脳はこんなに悩ましい
(2012/12/21)
池谷 裕二、中村 うさぎ 他

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 一昨日と昨日は、都内某所で来日中のキルギス中国人文経済大学のオムケエワ学長を取材。
 キルギス共和国の方を取材したのはこれで2度目だが、顔が日本人に似ている方が多くて、親しみを覚える。一度行ってみたいものだ。
 取材陣全員にまでお土産をいただき、恐縮。私はキルギスの男性がかぶるあったかい帽子をいただいた。


 池谷裕二・中村うさぎ著『脳はこんなに悩ましい』(新潮社/1365円)読了。

 「はじめに」に、こんな一節がある。

 どうしてこの二人が対談本を?
 なぜなら私、池谷裕二が中村うさぎさんを尊敬しているからです。



 中村うさぎは呉智英に頭のよさを絶賛され、佐藤優や池谷裕二に尊敬され……。「ジジイ転がし」ならぬ「インテリ転がし」ですなあ。

 「オトナのための脳科学」というタイトルで連載された対談の単行本化。
 連載タイトルが示すように、セックスがらみの話題も多い対談だが、まったく下品ではない。優雅に軽やかに、“脳科学から見た性”が論じられている。たとえば、こんな感じ――。

池谷 ヒトの特徴として、動物的な性欲だけでなく、恋愛感情や、ロマンスへの憧れという欲望もありますよね。こうした欲望は、繁殖力に直結しない欲望ですから、生物学的に見たら装飾感情、ただの「飾り」です。現代ではその副次的欲望が肥大化しています。本態性の「性欲」と、副次的欲望の「愛」とでは、脳の活動パターンが違います。
中村 ってことは、本当に愛してくれているのか、体だけが目的なのか、脳を調べればわかるってことか(笑)
池谷 あはは、そうかも。ただ、セックス中の映像は取得できませんね。だって、MRI装置の中でじっとしている必要がありますから。



 ただし、セックスについてばかりが語られるわけではなく、多岐にわたる話題が俎上に載る。

 中村うさぎは脳科学についてもくわしく、その知識はシロウトレベルを超えているが(って、シロウトの私が言うのも気が引けるけどw)、知識量よりも、池谷さんに対するレスポンスのうまさに目を瞠る。相手の言わんとすることを的確に把握し、絶妙な反応で対談をドライヴさせていくのだ。
 ラリーの応酬を思わせる快テンポのやりとりが最初から最後までつづき、対談の妙味が堪能できる。このへんが中村の「頭のよさ」なのだろう。佐藤優と中村の対談集『聖書を語る』を読んだときにも、同じことを感じた。

 ついでに言うと、私が芸能人の中で「この人は頭がいいな」と思うのは女優のミムラである。
 少し前、「満天☆青空レストラン」というテレビ番組を食事しながらなんとなく観ていたところ、ちょうどミムラがゲストで出ていた。その中で農家の方と彼女がやりとりする場面を見ただけで、並外れた頭のよさが伝わってきた。朴訥で言葉少ない相手の言わんとすることを、言外のニュアンスまで的確につかんで瞬時にレスポンスしていたのである。
 会ったことはないが、ミムラは接する人の感情を把握する達人ではないかと思う。
 本書における中村うさぎにも、同様の頭のよさを感じる。

 軽快な会話を楽しむうち脳科学の最前線に触れられる、知的興奮に満ちた一級の対談集。池谷さんの数ある著作の中でも、面白さでは上位に入ると思う。

 思わず人に話したくなるようなトピックや卓見がいっぱいだ。

 たとえば、「私は、松尾芭蕉も共感覚者だったと、考えているんです」という指摘(池谷さん)。「石山の 石より白し 秋の風」という句のように、「平凡な連想では成立しない感覚が結びついている」例が多いからだ、と。

 また、「人類のIQは一定ではなくて、過去十年ごとに二~三%ずつ上がっているのです。世界レベルで見られる傾向です」なんて話も目からウロコ。栄養状態の向上や、日々メディアから大量の情報を浴びる生活で脳の情報処理能力が上がっていることが要因ではないか、という。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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