堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)
(2008/01)
堤 未果

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 堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書/735円)読了。
 新鋭ジャーナリストによる話題のベストセラー(28万部売れたという)。評判どおりの力作であった。

 日本より一歩先に、超・格差社会へと変貌したアメリカ。その中にあって最貧困層に追いやられた人々の苦衷をつぶさにリポートした一冊だ。

 「米国のサブプライムローン問題が」うんぬんと、我々は日常会話の中でも「わかったような顔」をして口にしている。だが、「では、実際にどういう人たちがサブプライムローンを組み、その後どんな状況に追いやられているのか?」は、(私も含め)多くの日本人にはわかっていない。
 断片的なテレビニュースなどでは見えてこない最貧困層の暮らしぶりを著者は伝え、同時にその層を生む構造にも迫っていく。地を這うような虫瞰と、国全体を見渡す鳥瞰――2つの視点をバランスよく具えた好ルポルタージュである。

 当初、「ルポにしてはデータや図表に頼りすぎではないか」という印象を受けたのだが、読んでいるうちに気にならなくなった。考えてみれば、ルポだからといってデータや図表を駆使してはいけないということはない。

 いわゆる「ニュー・ジャーナリズム」全盛期に本を読み始めた私には、ルポ、ノンフィクションというと「取材相手の息づかいまでがヴィヴィッドに伝わる」みたいな小説風の書き方をよしとする偏りがある。
 だが、新世代の書き手である著者に、もはや「ニュー・ジャーナリズム信仰」などないのだろう。ゆえに、「取材相手の息づかい」にあたるものはバッサリ削ぎ落とされており、その代わりにデータによる淡々とした事実の提示がなされるのだ。

 衝撃的なエピソードが次々と登場する。中でもインパクトが大きいのは、第4章「出口をふさがれる若者たち」と、第5章「世界中のワーキングプアが支える『民営化された戦争』」。そこには、生活苦に追いつめられてイラク戦争に駆り出されていった人々の悲劇が描かれている。

 強い印象を受けた一節を引く。「世界個人情報機関」で働く女性のコメントである。

「もはや徴兵制など必要ないのです」
「政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから。ある者は兵士として、またある者は戦争請負会社の派遣社員として、巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを支えてくれるのです」(177P)



 この本を読むと、「日本は、格差社会化が進んでいるとはいえ、まだアメリカよりはるかにましだなあ」と思えてくる。かつての憧れの国の内実が、ここまで無惨なものになっていたとは……。
 もちろん、ここに描かれているのは明日の日本の姿かもしれない。著者も、エピローグでそのように警鐘を鳴らしている。

 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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