対論集 発火点 (2009/09/12) 桐野 夏生 商品詳細を見る |
季節柄、「喪中につき年末年始のご挨拶ご遠慮申し上げます」のハガキが続々と届く。その中で、驚いたものが2通。
1つはうれしい驚きで、昔お世話になった元・編集者が、定年退職後にドイツの女性と再婚してドイツに移住するという知らせ。
もう一つは悲しい驚き。以前よく一緒に仕事をした女性フォトグラファーのご両親からのもので、彼女がこの夏に亡くなったという知らせだったのである。
ここ数年、うつ病で療養しているという話は聞いていたが、私とは同年代でもあったのでショック。折を見てお線香を上げに行こうと思う。
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桐野夏生著『対論集 発火点』(文藝春秋/1400円)読了。
人気作家キリノが、おもに同業者と編んだ対談集。佐藤優、斎藤環(精神科医)、西川美和(映画監督)、原武史(歴史家)の4人を除けば、残り8人は全員小説家。それも、林真理子、重松清、柳美里など、いずれ劣らぬ人気作家ばかりが並んでいる。
『対論集 発火点』というタイトルを見れば、火花散る激しいやりとりを誰もが想像するだろう。だが、実際に読んでみればいささかタイトル負けで、対論どころか「なあなあ」のぬるい対談が目立つ。
とはいえ、けっしてつまらなくはなく、桐野作品の愛読者なら楽しめる対談集である。
桐野は作家デビュー前にライターをしていたことがあるそうで、そのせいか、対談にもしっかりと準備をして臨んでいることがわかる。相手の著作などをくまなく読み、質問も練り上げている印象なのだ。こうした誠実さは好ましい。
ただ、対談の出来不出来はかなり激しい。
松浦理英子、皆川博子、坂東眞砂子、西川美和との対談は、桐野流創作術の肝(そして、相手の創作術の肝も)が明かされている感じの濃密な内容。とくに、西川との対談はたいへんよい。桐野はインタビュアーとしても有能で、西川からよい言葉をたくさん引き出している。
また、斎藤環、佐藤優との対談も、知的興奮に満ちた読ませる内容になっている。
原武史との対談は、面白くはあるのだが、ほとんど原の独演に近く、対談の妙味はあまり感じられない。
いちばんひどいのが小池真理子との対談で、「アタシはこういう男が好み」「アタシってこういう女なの」という話を互いにくり返しているだけ。2人が酒席で雑談しているような内容で、活字にして公開する価値なし。
林真理子との対談は、互いを「おきれいですね」とヨイショするところから始まる不気味な内容。言葉はていねいだし、話も一見盛り上がっているのだが、どことなくささくれ立っている。
たぶん、この2人は互いのことが嫌いなのだと思う(笑)。その思いが行間ににじみ出ているのだ。
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