昨年末に旧作が紙ジャケで復刻され、ブリティッシュ・ポップ好きの間で話題になっている通好みなバンド、サッド・カフェ。そのファースト『悲しき酒場の唄』(1977)とセカンド『殺怒珈琲II』(1978)をカップリングした2in1のCDを、輸入盤で購入。
色っぽいジャケット(※)で人気のファーストは紙ジャケで手に入れたかったところだが、輸入盤のほうがずっと安いので。
※ドレッサーの前に座る半裸のねーちゃんの背後に部屋を出ていく男。そして鏡にはルージュで「Fanx Ta-Ra」(マンチェスター方言で「サンキュー、グッバイ」の意らしい)と書かれている、というもの。その「Fanx Ta-Ra」がアルバム・タイトルになっている。
サッド・カフェは、プログレの「マンダラ・バンド」を母体に生まれた英国のバンド。そのサウンドは表面的にはキャッチーなブリティッシュ・ポップではあるものの、前身がプログレ・バンドであるだけに一筋縄でいかないひねりと陰影がくわわっている。
なにしろ、「10ccとイエスの融合」と評されたり、「イエスとザ・フーとアヴェレージ・ホワイト・バンドの出合い」と評されたりしたバンドなのだから、それだけでもジャンルの枠を飛び越えた特異な音楽性が察せられるだろう。
このファーストとセカンドだけ聴いても、王道ブリティッシュ・ポップがあるかと思えば甘~いAOR風の曲があったりする。ポール・ヤング(「エブリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」の人とは同名異人)のヴォーカルはミック・ジャガーを甘くしたような感じ。それでいてバックの演奏にはプログレっぽさやソウルっぽさ、ジャズっぽさもあり、ときにはハード・ロック的アプローチもあったりする。
要するに、あまりにもいろんな音楽要素が詰め込まれていて、的が絞れていない奇妙なバンドなのである。
私のようにひねた聴き手には、そのおもちゃ箱のようにカラフルなゴチャゴチャ具合がたまらない魅力なのだが、売れなかった最大の原因もそこにあるのだろう。レコード会社にしてみたら、「どの層に向けて売ったらいいのかわからない」バンドだったに違いない。
ちょっとひねくれたブリティッシュ・ロック/ポップが好みの人なら、きっと気に入ると思う。
- 関連記事
-
- デヴィッド・シルヴィアン『ブリリアント・トゥリーズ』ほか
- トラフィック『ゴールド』
- サッド・カフェ『悲しき酒場の唄』ほか
- バッド・カンパニー『アンソロジー』
- ピーター・ガブリエル『スクラッチ・マイ・バック』