横井孝治『親ケア奮闘記』


親ケア奮闘記―がんばれ、母さん。たのむよ、父さん。親ケア奮闘記―がんばれ、母さん。たのむよ、父さん。
(2013/11)
横井 孝治

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※以下の文章はWEB第三文明に書き下ろしたものです。許諾を得て転載しています。



書評/横井孝治著『親ケア奮闘記』

エッセイの形を借りた“親介護入門”

 著者は「介護アドバイザー」で、親を介護する人のための情報サイト「親ケア.com」の運営者でもある。
 著者が介護の世界で働く契機となったのは、34歳の夏から両親の介護を経験したことであったという。本書は、その介護経験を振り返ったもの。発端となった母親の異変から、母が病院から退院して再び父との2人暮らしに戻り、介護に一区切りがつくまでの顛末が綴られている。

 もとは「親ケア.com」にウェブ連載されたものだが、書籍化にあたって再編集がなされている。
 「介護保険サービス一覧」「要介護認定の流れ」など、介護をめぐるさまざまな情報も随所に織り込まれている。具体的な「使える介護術」も満載だ。そのため、たんなる体験記であるにとどまらず、読者が親の介護をするときのための実用書――いわばエッセイの形式を借りた“親介護入門”としても役立つ本になっている。

 かくいう評者も、80歳を越えた老母をもつ身である。ゆえに、本書の内容はどこをとっても他人事ではなく、ごく近い将来の親介護の「心の準備」をする思いで読み進めた。

「きれいごと」を排したリアルな介護体験記

 本書には「いわゆる『きれいごと』は、一つも入っていません」と、「はじめに」で著者は言う。この言葉には2つの意味が込められているだろう。

 第1に、自らが親介護の中でくり返してきた失敗を、少しも包み隠そうとしていない点である。
 著者は、介護が始まった時点では「介護についての知識や心構えのカケラもなかった」という。無知ゆえにさまざまな失敗を重ねてきたことを、著者は本書で微に入り細を穿って振り返っている。
 いまは「介護アドバイザー」を務めている著者にとって、それは恥ずかしい告白でもあったろう。それでも、「私のような失敗をする方を少しでも減らしたい」との思いから、あえて赤裸々に失敗の数々を紹介しているのだ。

 第2に、介護の過酷な現実から目をそらした理想論・精神論が、少しも入っていないということ。
 著者はこれまで、介護の世界の「偉い先生方」による、「要介護者の心に寄り添い、最大限に傾聴する介護を行わなければいけない」「高齢者を住み慣れたところから引っ越しさせるのは、老化を進めるだけだ」といったたぐいの発言に、強い違和感を覚えてきたという。
 介護において、「傾聴」が大切であることも、住み慣れた場所からの転居を避けるべきであることも、当然だ。しかしそうは言っても、老親の理不尽な態度や発言につい言葉を荒らげてしまうこともある。転居せざるを得ないこともある。
 著者は、つねにそのような現実に目を向けて筆を進めている。現実を無視した「きれいごと」は一つも書かれていないのだ。

 自らの過去を飾ろうとする自己正当化が微塵もないことと、理想論・精神論に陥っていないこと――2つの意味で「きれいごと」を排したからこそ、本書はすこぶるリアルな介護体験記となっている。

涙と笑いのヒューマン・ドラマ

「もしかして自分がやっているのは介護なのか? 介護って、寝たきりの人のおむつを替えたり、車いすを押してどこかに連れて行ったり、お風呂に入れてあげたりすることじゃないのか?」


 ――著者がそのように独りごちる場面がある。たしかに、老人介護の一般的イメージはそのようなものだろう。

 だが、著者の両親は介護か始まった時点で寝たきりでもなく、車いすも必要なく、食事も入浴も自分でできる。にもかかわらず、母親が精神に変調をきたし、幻聴などの症状を見せ始めた(統合失調症だと思われる)ことから、離れて暮らす著者が遠距離介護をする日々が突然始まるのだ。

 紆余曲折を経て母親をメンタル・クリニックに入院させたものの、こんどは一人暮らしとなった父に異変が現れる。昭和ヒトケタ生まれの男性にはありがちなことだが、父親は家事というものがまったくできない。それゆえ、一人暮らしとなった途端、生活に支障をきたすのである。
 実家に戻った著者が、脱水症状を起こして倒れていた父親を発見し、病院に運ぶ。そのとき、医師は次のように言う。

「年をとってから急に独りになると、体調がうまく管理できなくなって、調子が悪くなるというのはよくあることなんだ」


 かくして、著者が両親のケアに奮闘する日々が始まる。親が寝たきりになったり、認知症になったりするばかりが介護の始まりではないのだ。本書は、老人介護の多様なありようを知るうえでも有益である。

 また、本書の大きな美点の一つとして、全編にあたたかいユーモアがちりばめられていることが挙げられる。帯に「泣き笑いの介護体験記!」との惹句があるとおり、笑える場面が随所にあるのだ。
 とくに、父親の言動にはいわゆる「天然ボケ」の趣があり、そのキャラクター自体が笑いを誘う。ユーモアで内容の深刻さがシュガーコーティングされているから、読後感は爽やかだ。

 涙と笑いのヒューマン・ドラマを味わううち、親介護についての知識が一通り得られる良書。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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