中川右介『源静香は野比のび太と結婚するしかなかったのか』


源静香は野比のび太と結婚するしかなかったのか『ドラえもん』の現実(リアル) (PHP新書)源静香は野比のび太と結婚するしかなかったのか『ドラえもん』の現実(リアル) (PHP新書)
(2014/02/15)
中川 右介

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 中川右介『源静香は野比のび太と結婚するしかなかったのか――『ドラえもん』の現実(リアル)』 (PHP新書/821円)読了。

 このところ立て続けに著書を刊行している中川右介は、すでに自分の仕事のスタイルを完全に確立した観がある。当事者・関係者への取材は一切せず、ひたすら膨大な関連資料を渉猟して一つのテーマを追っていくスタイルだ。
 さりとて学術論文ではなく、エッセイと評論の中間のような、分類不可能な独創的スタイルなのである。

 本書もしかり。
 国民マンガ『ドラえもん』全話を熟読し、過去の関連書籍をすべて読破したうえで、独創的な『ドラえもん』論を作り上げている。『ドラえもん』ほどの人気マンガになれば研究本のたぐいも山ほど出ているわけだが、本書のような本はありそうでなかった。

 しいて言えば、一昔前の『磯野家の謎』などのいわゆる「謎本」に、テイストが似ていないことはない。が、「謎本」よりももっとエッセイ寄りで主観的な内容である。

 章立ては次のようになっている。

第1章 しずかちゃんの行動は冷静に考えればよくわからない
第2章 ジャイアンとスネ夫はまるで民主党政権である
第3章 「ドラえもん世代」は存在するのか
第4章 のび太はスクールカーストの日本最初の被害者なのか
第5章 野比家は郊外に住んでいなければならない
第6章 じつはパラレルワールドだった!



 見てのとおり、フェミニズム・政治学・世代論・教育論・郊外論などの学問的装いが全体にまぶしてある。ただし、実際に読んでみれば学問的装いはスパイス程度で、肩の凝らない読み物として楽しめる内容だ。

 私がとくに面白く読んだのは、1章と2章。

 1章は、「しずかちゃん」の存在をフェミニズム的観点から読み解いたうえで、さらにひとひねりして、「フェミニストたちのしずかちゃん批判」を男の視点からナナメに見て面白がるような内容。 
 2章は、のび太・ジャイアン・スネ夫、そしてドラえもんという四者の関係を政治学的観点から読み解いたもの。といっても堅苦しいものではなく、笑える内容だ。とくに、四者の関係を日米関係や民主党政権に次々となぞらえていくあたりのアクロバティックな「文章の芸」は、なかなかのもの。

 しかし、3章~5章は1、2章に比べると出来が悪く、こじつけくささばかりが目につく。

 最後の第6章は、「ドラえもん作品史研究序説」という副題のとおり、藤子・F・不二雄が『ドラえもん』を各学年誌にどのように描き分けていたかをたどったもの。
 労作ではあるが、トリヴィアルにすぎ、読んで面白いものではない。

 全体としては、読んでためになるようなものではないし、再読したいと思える本でもないが、読み捨ての娯楽としては水準以上の本。
 それと、藤子・F・不二雄の作家論としては価値がある。国民的マンガ家でありながら、真正面から作家として論じられることは少なかった人だけに……。

■関連エントリ
中川右介『角川映画 1976‐1986 日本を変えた10年』レビュー
中川右介『昭和45年11月25日』レビュー

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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