小谷野敦『日本売春史』


日本売春史―遊行女婦からソープランドまで (新潮選書)日本売春史―遊行女婦からソープランドまで (新潮選書)
(2007/09)
小谷野 敦

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 小谷野敦著『日本売春史――遊行女婦からソープランドまで』 (新潮選書/1188円)読了。

 先日読んだ『日本人のための世界史入門』が面白かったので、小谷野の「歴史もの」の旧著に手を伸ばしてみたしだい。
 本書はわりと下世話な興味で読んでみたのだが、予想したよりもずっとアカデミックで真面目な本だった。

 カバーに書かれた惹句をそのまま引用する。

「娼婦の起源は巫女」「遊女は聖なる存在だった」「遊廓は日本が誇る文化だった」など、これまでの売春論は、その是非を問わず、飛躍と偽善にみちた幻想の産物ばかりである。また、現代にも存在する売春から目を背け、過去の売春ばかりを過剰に賛美するのはなぜか? 古代から現代までの史料を丁寧に検証、世の妄説を糾し、日本の性の精神史を俯瞰する力作評論。



 この惹句のとおり、本書のメインテーマは、網野善彦、佐伯順子らによってなされてきた「聖なる遊女」論を論破することにある。
 その本筋部分も面白いのだが、私はむしろ脱線部分――随所にちりばめられた売春史をめぐる広範な雑学――のほうを愉しく読んだ。
 たとえば――。

 森鴎外は、最初の妻を離縁してから十一年間独身だったが、その間に妾を囲っていたし、娼婦はともかく藝妓遊びは一通りしたようだ。ただし夏目漱石は、今のところ、娼婦買いはもちろん、妻以外の女と性関係をもった形跡がなく、それが今日、漱石が国民作家とされる所以でもある。



 ところで、本書で槍玉にあげられている「聖なる娼婦幻想」は、私自身の中にもある。
 それは、本書にも言及のある(※)『罪と罰』のソーニャ(=清らかな心をもつ娼婦)のイメージの影響かもしれないし、昔読みかじった網野善彦の本の影響かもしれない。

※「ドストエフスキーの『罪と罰』の娼婦ソーニャは聖女ふうに描かれているが、これは下層民に同情を寄せる近代ロマン主義や社会主義、さらにディケンズの影響であろう」という言及。

 が、私自身の精神史を振り返ってみると、もっと俗な小説の影響のほうが大きい気がする。それは昭和の大ベストセラー、五木寛之の『青春の門』だ。

 これは「黒歴史」に属するのかもしれないが、私は中学生くらいのころ、『青春の門』を夢中になって読んだことがある。
 で、薄幸なヒロイン・織江が「夜の蝶」に身をやつしつつも主人公・信介を一途に想いつづける様子とか、重要なキャラクターとして登場するインテリ娼婦カオルの存在に、ガキながらも強い印象を受けたのだ。

 本書には言及がないが、『青春の門』が日本のある世代の「聖なる娼婦」幻想に与えた影響は、かなり大きいと思う。
 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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