黒川祥子『誕生日を知らない女の子』


誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち
(2013/11/26)
黒川 祥子

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 黒川祥子著『誕生日を知らない女の子/虐待――その後の子どもたち』(集英社/1728円)読了。第11回(2013年)開高健ノンフィクション賞受賞作。

 児童虐待は、虐待が行われている家庭から子どもを救い出したときに問題が終わるのではない。
 救出された子どもたちは、その後も虐待の後遺症にさいなまれる。深刻な虐待は、脳の健全な発育すら阻んでしまうことがあるという。適切なケアによって「生きる力」を取り戻させなければ、子どもたちは普通に生きていくことができない。彼らは心に深い傷を負った「サバイバー」なのだ。

 本書は、被虐待児童たちの「その後」を追ったノンフィクションである。
 全5章のうち4章では、ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)に預けられて暮らす子どもに、1人ずつ光が当てられる。
 そして最後の第5章では、被虐待児童であった40代の女性が、自分の子どもを虐待してしまう「虐待の連鎖」から抜け出ようと、懸命に闘う姿が描かれる。

 ファミリーホーム制度というものを、本書で初めて知った。これは通常の児童養護施設とは違い、養育者自身の家庭に要保護児童5~6人を受け入れ、育てていくものだ。2009年から始まった制度だという。
 「里親」が個人による養護であるのに対し、ファミリーホームは「事業」であり、3人以上で養育にあたる。たとえば、養育者夫婦に補助者1人、などというパターンである。

 普通の家庭が養育場所となるため、被虐待児童に家庭と家族のぬくもりを経験させやすい。養育者は、「先生」ではなく親代わりとなって児童を育てるのだ。

「いつ、お母さんにぶたれるかわからないから、いつもお腹に力を入れていたんだよ」



 これは被虐待児童の言葉。
 家庭がそのようなサバイバルの場であった子どもたちは、多くの場合「愛着障害」と呼ばれる問題を抱えている。ファミリーホームは、その問題を粘り強く解きほぐしていく「育ち直し」の場なのだ。

 各ファミリーホームの養育者が被虐待児童に深く寄り添う様子、そして児童が少しずつ蘇生していく様子が感動的だ。

 第4章で描かれるのは、ファミリーホームでの懸命な養育にもかかわらず、児童がけっきょく問題ある実母のもとに戻ってしまうケース。
 自分を虐待し、捨てた母親でさえ、子どもは憎むどころか強く慕い、母の愛を渇望しつづける。その章の次の一節に、胸を衝かれる思いがした。

 一般に、「親の、子への愛は無償だ」と言われるが、虐待を見ていく限り、それは逆だとしか思えない。子の、親への愛こそが無償なのだ。



 そういえば、児童虐待の問題を描いた下田治美の名作『愛を乞うひと』には、「愛乞食」という言葉が出てきた。
 自分を虐待する母親の愛を、それでも渇望せずにはいられない――子どものそのような心のありようを、「愛乞食」と表現したのだ(『愛を乞うひと』というタイトルも、そこに由来する)。
 本書に登場する子どもたちの多くにも、「愛乞食」の趣がある。切ない話だ。
 
 丹念な取材で対象児童や養育者の心に深く分け入った、ノンフィクションの力作。

■関連エントリ
森田ゆり『子どもへの性的虐待』レビュー
杉山春『ルポ 虐待――大阪二児置き去り死事件』レビュー
大久保真紀『児童養護施設の子どもたち』レビュー

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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