石井光太『世界「比較貧困学」入門』


世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)
(2014/04/16)
石井 光太

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 昨日は都内某所で打ち合わせ。
 行き帰りの電車で、石井光太著『世界「比較貧困学」入門――日本はほんとうに恵まれているか』(PHP新書/842円)を読了。

 『絶対貧困』などの入門書や、『レンタルチャイルド』などのノンフィクションで、途上国の最貧困の実態を追ってきた石井光太。彼が初めて日本の貧困問題に本格的に取り組んだ本だ。

 そのために選んだ切り口は、じつに石井光太らしいもの。最貧国における絶対的貧困と、日本の相対的貧困を比較対照することで、両者のどこが違い、どこが変わらないのかを浮き彫りにした本なのだ。

 日本はいまや国民の6人の1人が「貧困層」であり、先進国でも指折りの「貧困国」になっている。
 しかし、そう言われても多くの人はピンとこないだろう。ストリートチルドレンがいるわけではないし、道を歩いていて物乞いが群がってくるわけでもないし……。
 
 だが、「日本は貧困国だ」という場合の「貧困」と、ストリートチルドレンを生むような途上国の貧困では、そもそも貧困の概念が違う。
 前者は「相対的貧困」(所得が全人口の中央値の半分未満である人)の話であり、後者は「絶対的貧困」(1日1・25ドル以下のぎりぎりの暮らしをしている人)の話なのだ。

■参考→ 絶対的貧困と相対的貧困 : CSR勉強会

 日本で「相対的貧困」に陥っている人(単身者の場合で、おおむね年収150万円以下)は約2000万人で、国民の約16%にのぼる。これが日本の「貧困層」であり、「相対的貧困層」の厚みにおいて、世界ワースト3位(1位イスラエル、2位米国)にランクされる。ただし、日本には絶対的貧困層はほとんどいない。
 
 では、日本の貧困問題は、途上国の絶対的貧困に比べれば「まだまし」なのか? 本書を読むと、必ずしもそうとは言えないことがよくわかる。

 各章は、「住居」「教育」「労働」「食事」「結婚」「病と死」などのテーマに分けられている。それぞれのテーマごとに、途上国の「絶対的貧困」と、日本の「相対的貧困」が比較されていくのだ。

 より深刻で、命の危険にも直結しやすいのは、絶対的貧困のほうである。
 しかし途上国の場合、貧困層が一つのエリアに固まって住むのが特徴だから、そこには相互扶助コミュニティがまだ息づいている。また、周囲みんなが同じように貧乏だから、貧困からくる屈辱感はあまり感じずに済む。

 それに対して、日本の「相対的貧困」では、最低水準の住居や衣食は福祉によって確保されているものの、昔ながらの“長屋の助け合い”的コミュニティはほぼ崩壊しており、孤独の深刻化が貧困をいっそう悲惨なものにしている。

 日本の貧困の悲劇は、良くも悪くも人間どうしのつながりが切れ、制度に依存しているところから発生している。国全体が貧困から脱することができたはずなのに、皮肉にもそれがさらなる格差を生み、切り捨てられてしまった人間どうしのつながりが低所得者に苦痛を及ぼしているのだ。学歴格差、孤独死、希望のない仕事、独身者の増加、経済的理由による中絶……こうしたことは、まさにそのことを示しているといえるだろう。(「おわりに」)



 途上国の「絶対的貧困」と比較することで日本の貧困問題の特徴を浮き彫りにした、ありそうでなかった本。

■関連エントリ
石井光太『絶対貧困』レビュー
石井光太『レンタルチャイルド』レビュー
石井光太『ルポ 餓死現場で生きる』レビュー

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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