八木澤高明『娼婦たちから見た日本』


娼婦たちから見た日本娼婦たちから見た日本
(2014/07/11)
八木澤 高明

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 八木澤高明著『娼婦たちから見た日本』(角川書店/1831円)読了。

 元『FRIDAY』の専属カメラマンで、現在はフリーの物書き兼カメラマンの著者による、娼婦たちのルポルタージュ。カバー写真も著者の撮影によるものだ。

 タイトルの印象だと、日本で働く外国人娼婦たちのみが取材対象のように思える。だが実際には、日本人娼婦も登場するし、「からゆきさん」(異国で働いた日本人娼婦)の歴史をたどった章もある。
 ただ、外国人娼婦たちにいちばんのウエートが置かれていることはたしか。

 著者は、横浜黄金町、渡鹿野島、沖縄、タイ、フィリピン、マレーシア、チリと、娼婦たちを訪ね歩き、その話に耳を傾ける。

 10年越しの取材の集大成として書かれた本であり、取材の厚みが素晴らしい。
 本書の各章(国・地域ごとに章が分けてある)はそれぞれ、優に1冊の本になり得る内容であり、それがぎゅっと1章に凝縮されているのだ。

 好ましいのは、著者の目線がつねに娼婦たちと同じ高さに置かれている点。つまり、自分を一段高みにおいて、上から娼婦たちを哀れむ感じが皆無なのだ。

 著者は、かつてバンコクでタイ人娼婦と同棲した経験を持っている。
 また、長くネパールに暮らし、現地の女性と結婚していた時期には、義兄と義姉をエイズで喪った(義兄が出稼ぎ先のインドで買春した際、娼婦からエイズ感染した)という。そのような体験が、娼婦たちと同じ目線の根底にあるのだろう。

 行政が売春街をなくそうとするときに、「浄化」という言葉がしばしば使われる。著者は、この言葉への強い違和感を表明する。

 穢れた場所を浄めるという意味であるが、この言葉を人が人に対して使うと、背筋に寒気を感じるのはなぜか。民族浄化、売春街の浄化、その言葉からは、人を人と扱わない傲慢さを感じる。人間の生に対する温かな眼差しが欠けていないだろうか。私は違和感を覚えずにはいられないのだ。



 著者が娼婦たちを描く視点には、「人間の生に対する温かな眼差し」がつねにある。

 しみじみと心に残る場面も多い。
 たとえば、渡鹿野島のタイ人娼婦の部屋に置かれた小さな仏像に、水とごはんの供物が捧げられていた、という場面。著者は、かつて同棲していたタイ人娼婦に「何で寺に足を運ぶの?」と聞いたときのことを思い出す。彼女はこう答えたという。

「徳を積むんです。今、私は悪い仕事をしているでしょう。だからお寺に行ったり、毎日祈らないといけないんです。何であなたは祈らないの?」



 ただ、著者の文章はしばしば感傷過多で、クサイ表現に鼻白んでしまう箇所も多い。たとえば――。

 横浜大空襲で街は焼け、人々が命を落とし、その上に家が建ち、屍を糧としたかのように女たちの花が咲いた街、黄金町。



 白壁にところどころ黒いシミが滲み出ている。そのシミは風雨だけでなく、この旅館で過ごした娼婦や男たちの体液や血や汗、情念といったものが現れたように思えてならなかった。



 朝風が、今では失われたこの島に伝わる娼婦と船乗りの別れの歌を奏でた気がした。



 ……このような、「ヘソが茶ぁ沸かすわ!」と言いたくなるキザでクサイ文章が随所にあって、興醒め。
 ただ、そうした小瑕はあっても、全体として見れば力作にして好著だ。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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