高野文子『ドミトリーともきんす』


ドミトリーともきんすドミトリーともきんす
(2014/09/24)
高野 文子

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 遅ればせながら、高野文子の『ドミトリーともきんす』(中央公論新社/1296円)を読んだ。

 前作『黄色い本』から、じつに12年ぶりの新作コミックス。
 季刊誌『フリースタイル』の「THE BEST MANGA 2015 このマンガを読め!」で第1位に選ばれるなど、各紙誌絶賛の話題作である。

 科学者たちがものした自然科学の名著について、マンガで読書案内をした作品。
 終盤にジョージ・ガモフが「ゲスト」の形で登場する以外は、一昔前の日本の優れた科学者たちが取り上げられる。朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹といった面々である。

 前作『黄色い本』も、自らが高校生時代に『チボー家の人々』を夢中で読んだ体験をベースにした、他に類を見ない「読書マンガ」であった。その意味では、前作の延長線上にあるとも言える。

 絵柄は前作よりもさらにシンプルを極め、もはや「余分な線や点は一つもない」という域に達している。
 シンプルでありながら緻密に計算された絵の素晴らしさを味わうだけでも、一読の価値がある。

 架空の学生寮「ドミトリーともきんす」の2階に、学生時代の科学者たち4人が住んでいる、という設定。主人公の母子と4人の交流という形で、彼らの著作が紹介されていく。

 ただし、いわゆる「科学解説マンガ」ではまったくない。
 最終章で湯川秀樹の「詩と科学」が取り上げられることが象徴するように、科学者の中にある詩心――いわば「理系のロマンティシズム」が抽出されていくマンガなのである。

 高野文子以外には作り得ない世界だと思うし、愉しく読んだが、世のマンガ好きがこぞって絶賛するほどの作品だろうか、という気もする。
 高野文子は、並外れた寡作ゆえに神格化され、過大評価されている面があると思う。ちょうど、つげ義春が作品を描かなくなったことでむしろ神格化されていったように……。

 私は高野作品なら『黄色い本』のほうを買うし、「マンガによる読書案内」としては『草子ブックガイド』(玉川重機)のほうが優れていると思う。
 『ドミトリーともきんす』に向ける注目のせめて10分の1でも、マイナーな傑作『草子ブックガイド』に向けてやってほしいところだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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