西村賢太『東京者がたり』



 西村賢太著『東京者がたり』(講談社/1728円)読了。

 「東京物語」ならぬ「東京者がたり」。「東京者」としての強い自負をもつ西村賢太が、これまでの半生で関わりのあった東京の町や場所を題材に綴った連作随筆だ。

 鶯谷や後楽園球場など、過去の小説や随筆にもしばしば登場した町・場所が、たくさん出てくる。
 「神楽坂の銭湯」という一編もあり、これは名短編「腋臭風呂」(『二度はゆけぬ町の地図』所収)の舞台となった、あの銭湯のことである。
 最終回で取り上げられているのが、「芝公園」。賢太の「師」藤澤淸造が昭和7年に凍死を遂げた現場であり、彼にとっては特別な場所なのだ。

 かと思えば、下北沢や白金台のように、賢太が嫌ってやまない地をわざわざ一回を割いて取り上げていたりする。
 『苦役列車』でも下北沢に集うサブカル人士が痛烈にディスられていたが、本書でも下北沢が「まったくもって、人も街も安雑貨だ」などとこきおろされている。このへん、いかにも賢太らしい。

 賢太ファンなら、そこそこ楽しめる本である。私は彼の私小説の中でも10代のころを扱った作品がとくに好きだが、本書にも10代のころの思い出が数多く登場するので、その点も好ましい。

 だが、随筆集として質が高いかといえば、微妙なところ。

 本書の類似作として、小田嶋隆の初期作品『山手線膝栗毛』(1993年)が挙げられるだろう。
 これは、やはり生粋の東京人であるオダジマが、山手線の駅を一駅ずつ取り上げ、その地にまつわる思い出などを綴った連作エッセイ。質の高いユーモア・エッセイ集であるとともに、東京論としても秀逸な一冊であった。

 『山手線膝栗毛』と比べてしまうと、この『東京者がたり』は、やはり私小説書きの余技という感じがしてしまう。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
27位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
21位
アクセスランキングを見る>>