立花隆『死はこわくない』



 取材つづきでバタバタしている。
 先週木曜はガンの闘病体験の取材。金曜は作家の葉室麟さんを取材。昨日は雪が降るなか、埼玉県の所沢市まで行って、幼き日をフィリピン・ダバオの日本人居留地で過ごした方の、戦争体験の取材。

 その間に原稿の〆切も順次やってくるわけだが、いまのようにアウトプットよりインプットのほうが多い時期は、うかがったお話が頭の中にぎっしり詰まっている感じで、なんとなく気持ちが落ち着かない(文章にまとめることで“吐き出す”とスッキリする)。


 立花隆著『死はこわくない』(文藝春秋/1080円)を読了。

 立花には『臨死体験』や『脳死』という著作もあり、元々死についての関心が深い。その彼が、ガンと心臓病の手術を乗り越え、自らの死も強く意識するなかで考えたことなど、死にまつわるあれこれを語ったもの。
 本書はロング・インタビュー(立花の弟子筋に当たるサイエンスジャーナリスト・緑慎也がインタビュアー)、講演録、対談といった「語り」が中心で、立花自らが文章を書いたのはエッセイ1編と「あとがき」のみなのである。

 出てくる話の重複もあるし、立花隆にしては安直なつくりの本だ。
 大病も経た75歳の彼には、かつてのような重厚な著作をものす力がもう残っていないのかもしれない。

 ただし、本書は『臨死体験』などのエッセンスを凝縮した本として読むこともできる。ゆえに、『臨死体験』を未読の人にとってはそれなりに面白いだろう。

 また、第三章「脳についてわかったすごいこと」は、2014年放映のNHKスペシャル「臨死体験 死ぬとき心はどうなるのか」を立花と一緒に作ったディレクター・岡田朋敏との対談であり、最先端の科学が死や「意識」というものをどうとらえているかを垣間見ることができる。

 面白かったのは、死の間際にネズミの脳の中で、セロトニンという幸福感を感じさせる神経伝達物質が大量に放出される現象が確認されたことです。人間の臨死体験でも「幸福感に包まれる」という報告が多くされており、彼女の研究結果は、臨死体験が「脳内現象」であるという説を支持する有力な実証研究となりそうですね(岡田の発言)



 生物はより複雑なものになる過程において、その複雑性がある限度を越すと「意識」が生まれる(立花の発言)



 ……と、そのような示唆に富むトピックも多い。

 なお、『死はこわくない』というタイトルは、立花隆が取材を通じて「死後の世界はない」と確信し、(大病と高齢により)死が近づいていることを意識するようにもなって、「『死は怖くない』という心境に達した」ことをふまえたものだ。

 ふつうは、宗教などを通じて「死後の世界の存在を確信する」からこそ、死が怖くなくなるものだろう(宗教誕生の大きな要因は死の恐怖だといわれる)。その逆に、“死後の世界がないと確信したからこそ、死が怖くなくなった”というのは、いかにも立花隆らしい。

 ただ、私は本書を読んで、「立花の死生観は意外に薄っぺらい」と感じてしまった。死を表面的な現象のみで捉えているというか。
 そもそも、“臨死体験はたんなる脳内現象”というのはその通りかもしれないが、だからといって、それは死後の世界の不存在証明にはならないだろう。

 また、今後、脳科学などの進歩によって死というものの“正体”が明らかになったとしても、そのことと死の恐怖を乗り越えることは別の話なのではないか。

 たとえば、人間の恋愛感情も、脳内現象として捉えればたんなるドーパミン(など)の過剰分泌にすぎないかもしれない。恋愛感情のメカニズムは、今後事細かに解明されていくであろう。しかし、それが解明されたからといって、人間が片恋や失恋の苦しみから解放されるわけではないのだ。

 “私は死の正体を科学的に見切った。だから、死はもう怖くない”(と、立花が明言しているわけではないが、そういう含みが感じられる)というのは、ある種の増上慢ではないか。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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