「007シリーズ」コンプリート



 『ドクター・ノオ』(1962)から『スペクター』(2015)までの「007シリーズ」全24本と、番外編の『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(1983)、『007/カジノロワイヤル』(1967)の計26本を、ようやく全部観終わった。
 まあ、観たといっても映像配信で観たのだし、コンプリートしたからといって何の役にも立たないわけだが。

 ざっくりとした感想を書いておく。
 第1作から第7作までのショーン・コネリー期は、さすがにいま観ると古臭い。半世紀も前のスパイ映画なのだから当然だが。
 とくに、第1作『ドクター・ノオ』は低予算作品でもあったから、びっくりするくらいショボい仕上がりだ。
 あと、日本を主舞台とした第5作『007は二度死ぬ』(1967)は、ズレまくった日本像が爆笑ものの珍品。

 それでも、第2作『ロシアより愛をこめて』は、シリーズ最高傑作に挙げる人も多いだけあって、たいへん面白かった。脚本のよさ・ボンドガールの魅力・悪役のキャラ立ちと、それぞれの要素がハイレベルな傑作である。



 1作だけで降板してしまったジョージ・レーゼンビー主演の第6作『女王陛下の007』(1969)は、意外によかった。
 スラリとした長身のレーゼンビーはいかにも英国紳士然として魅力的だし(といってもオーストラリア出身だそうだが)、アクション・シーンでのキビキビした身のこなしも素晴らしい。



 第8作『死ぬのは奴らだ』(1973)から第14作の『美しき獲物たち』(1985)まで、7作にわたった最長のロジャー・ムーア期だが、私はこの時期の作品は総じて質が低いと思う。

 『死ぬのは奴らだ』は、ポール・マッカートニー&ウイングスの主題歌しか知らなかったが、初めて観てみたら、なんともひどい代物。
 何より、アメリカの黒人を悪の組織のボスにして、ハーレムやニューオリンズの黒人コミュニティを「悪の巣窟」のように描いている点がひどい。いまなら、ポリティカリー・コレクト的に完全アウトである。
 出てくる黒人たちの描き方も、いかにもステレオタイプで偏見に満ちている(そもそも、冷戦期の007シリーズのソ連の描き方も偏見に満ちているのだが)。

 ロジャー・ムーア期の特徴は笑いの要素が強まったことだが、ちょっとやりすぎ。
 笑いは007シリーズ共通のスパイスではあるが、あくまで「スパイス程度」だからよいのであって、コミカルな要素が強まりすぎると、『オースティン・パワーズ』などのスパイ映画パロディと区別がつかなくなってしまう。

 『スター・ウォーズ』ばりに宇宙を舞台の一つにした第11作『ムーンレイカー』(1979)なんか、もはや完全に「底抜け超大作」と化している。
 第13作『オクトパシー』(1983)も、興行的には大ヒットしたらしいが、映画としての出来は最悪だ。

 ただし、ロジャー・ムーア期でも、第10作『私を愛したスパイ』は素晴らしい。
 ド派手な見せ場の連続。ボンド・ガールはシリーズ屈指にチャーミングだし、悪役(鋼鉄の歯で人を噛み殺す巨漢「ジョーズ」)の造形も質が高く、時間を忘れて見入ってしまった。
 カーリー・サイモンが歌った主題歌「Nobody Does It Better」も、シリーズの全主題歌中で私はいちばん好きだ。



 第14作『美しき獲物たち』も、ロジャー・ムーア期では『私を愛したスパイ』の次によい。息もつかせぬアクションの連打だ。

 ただ、この作品の撮影時57歳になっていたロジャー・ムーアは、見た目がもう「おじいちゃん」で、アクション・シーンの「無理してる」感が痛々しい。アングロ・サクソンにありがちなことだが、50代に入ると一気に容姿が劣化して、年齢以上に老けて見えるのだ。

 第15作『リビング・デイライツ』(1987)と、第16作『消されたライセンス』(1989)の2作だけで終わってしまったティモシー・ダルトン期は、笑いの要素を抑え、シリアス・アクション的傾向を強めた点が好ましい。ダニエル・クレイグ期の作品を先取りしていたようなところもある。

 

 『リビング・デイライツ』も『消されたライセンス』も、大変面白い。ティモシー・ダルトン主演でもっと作ってほしかった。

 第17作『ゴールデンアイ』(1995)から第20作『ダイ・アナザー・デイ』までのピアース・ブロスナン期は、スパイ映画が作りにくいポスト冷戦期の新しい切り口を模索した時期とも言える。『ダイ・アナザー・デイ』では北朝鮮を主舞台の一つにするなど、工夫が感じられた。
 ロジャー・ムーア期の軽快さと、ティモシー・ダルトン期のシリアス路線の中間を行くバランス感覚も好ましかった。

 ただ、消える(=見えなくなる)ボンド・カーとか、人工衛星からのレーザー光で地上のすべてを焼き尽くす敵の秘密兵器とか、スパイ・ガジェットや武器が荒唐無稽になりすぎて、ちょっと興醒め。

 ピアース・ブロスナン期の4作は、どれもそこそこ面白いが、抜きん出た傑作はなかった気がする。

 『トゥモロー・ネバー・ダイ』でのミシェル・ヨーとの二人乗りバイク・スタントとか、『ワールド・イズ・ノット・イナフ』でのソフィー・マルソーの色っぽさとか、見どころはあるものの、作品としての完成度はいま一つ。
 しいて挙げるなら、最初の『ゴールデンアイ』がいちばんまとまっていたか。



 シリアスでスタイリッシュな21世紀のジェームズ・ボンド像を作り上げたダニエル・クレイグ期の4作は、ストーリーに無理やりな展開も散見するものの、エンタメとしての質はどの期よりも高いと思う。


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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