西村賢太『蠕動で渉れ、汚泥の川を』



 西村賢太著『蠕動で渉れ、汚泥の川を』(集英社/1728円)読了。
 2年前の初長編『疒(やまいだれ)の歌』につづく第2長編だ。

■関連エントリ→ 西村賢太『疒の歌』

 『疒の歌』では北町貫多(≒西村賢太)が19歳であったのに対し、本作は17歳の貫多を描いている。港湾人足をやめ、初めて飲食店で働いた日々が素材である。

 ここ何冊かの短編集が低調であったのとは対照的に、本作には一気読みさせる面白さがある。
 ただ、『疒の歌』が賢太の作品では異例に青春小説然としていたのに対し、本作はユーモア小説という趣だ。『疒の歌』にあった哀切さは希薄で、むしろ笑いの要素のほうが強いのだ。貫多の言動やモノローグが、随所で笑いを誘う。

 勤め人としての資質が決定的に欠落している貫多が、当初はうまくやっていたものの、しだいに人間関係に亀裂が入り、最後は勤め先と決裂する……という骨子は、『疒の歌』とまったく同一である。
 10代の貫多は、そのような失敗を何度もくり返していたわけだ。

 本作は、決裂に至る展開に緻密な計算と工夫がある。事実がかなり潤色されているのだろうが、ミステリのどんでん返しのように読者の意表をつく展開なのだ。また、勤め先の飲食店主とその妻など、登場人物の造形も丁寧である。

 その点では、『疒の歌』からの技巧面での進歩が感じられる。
 ただ、好みの問題だが、私は『疒の歌』のほうがずっと好きだな。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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