古川智映子『きっと幸せの朝がくる』



 先週の金曜に、作家の古川智映子さんを取材。
 朝ドラ『あさが来た』の原作(原案)『小説 土佐堀川――広岡浅子の生涯』の作者である古川さんの初エッセイ集『きっと幸せの朝がくる――幸福とは負けないこと』(講談社/1188円)の著者インタビューだ。

 『土佐堀川』執筆の舞台裏や、『あさが来た』放映の波紋についても書かれているが、全体としては自らの来し方を振り返った自伝的エッセイ集である。

 帯に、「私は人生の敗北者になり、福の積み方を知りました」との言葉がある。
 「敗北」とは、30代初頭のころ、大学助教授だった夫が女子学生と不倫関係になり、家を出ていったことを指す。何不自由なく育ち、人もうらやむ暮らしをしてきた古川さんは、そのとき初めて人生のどん底を味わった。

 そこから、教師として働いて暮らしを立て、夫が出ていった家のローンを一人で払う。そのかたわら、「自分の生きる指針」を追い求めて、「一人立つ」生き方をつらぬいた近世・近代日本の女性たちについて調べ始める。

 なんとかして立ち直りたいと思った私は、過去の女性たちから何かを学びたいと考え、女性史関係の本を探しました。



 そのときに出合ったうちの一人が、広岡浅子であった。この運命的な出合いから、古川さんは小説家として立つ決心をする。

 本書は、自伝的エッセイの形を借りた幸福論でもある。
 恵まれた暮らしが幸福なのではなく、どんな逆境に出合ってもそれに負けない強さを持つことこそが幸福なのだと、古川さんは言葉を変えて何度もリフレインしている。ゆえに、副題が「幸福とは負けないこと」なのだ。

 物書きのハシクレとして、随所に示された「作家としての覚悟」にも胸を打たれた。たとえば――。

 本を出してくれる出版社がないときには、生活をきり詰めて貯金をし、自費で出版しました。小説は私にとって損得を超えたものでした。たとえ一生名前が出なくても、売れないもの書きで終わっても、こうした自分の生き方に後悔はしないと決めて続けました。



 本の売れ行き、賞の当落、読者や評論家からの評価……そんなものに一喜一憂して揺れ動いてばかりいるのが小説家というものだろうが、古川さんの心は一点に定まって微塵も揺るがなかった。長い長い雌伏の時代にあっても、いつか花咲く日を確信して、けっしてあきらめなかった。そこがすごい。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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