中上健次『路上のジャズ』


 
 中上健次著『路上のジャズ』(中公文庫/972円)読了。

 故・中上健次の遺した作品から、ジャズがらみのものを集めて一冊に編んだ文庫オリジナル。
 よく知られた「破壊せよ、とアイラーは言った」などのジャズ・エッセイを中心に、ジャズを題材にした小説や詩、ジャズ評論家・小野好恵による中上へのロングインタビューまでを収めている。

 初期の小説(「灰色のコカコーラ」など)や詩は青臭くて鼻白んでしまったが、ジャズ・エッセイは素晴らしい。

 それらのエッセイはみな、中上が18歳で上京してから、新宿のジャズ喫茶に入り浸ってフーテンをしていた約5年間の放蕩の日々が背景になっている。
 つまり、中上にとってジャズは自らの青春と分かち難く結びついた音楽なのであり、青春を語るようにジャズについて綴っているのだ。

 その中には、コルトレーンを論じた「コードとの闘い」に見られるように、ジャズ論として傾聴に値する卓見もある。
 が、全体としては評論色は希薄で、ジャズを詩的な言葉で表現した、他に類を見ない音楽エッセイになっている。たとえば――。

 ジャズはモダンジャズ喫茶で聴くものである、と言えば、いいだろうか? 路上で聴くものだと言おうか? 町中のジャズ。ジャズは野生の物であって、自分の小市民的生活の背景音楽になど似合っていない、と私は、ステレオを買って初めて分かった。
 ジャズは、単に黒人だけのものではなく、飢えた者の音楽であると言おう。(中略)例えば、アルバート・アイラーを聴く。スウィングを無視したそのサックスの音のうねりから、貧しくて腹一杯飯を食うことも出来ずにいる少年が見えると言うと、うがちすぎだろうか?
(中略)
 路上のジャズ、野生のジャズを聴くには、町が要るし、その飢えた心が要る。語るにしてもそうである(「路上のジャズ」)



 興味深いのは、中上の小説作品はジャズからの強い影響を受けている、と自己分析している点。

 私の初期の長い文章や、メタファの多用、「岬」の頃の短い文章、読点の位置、それに、「枯木灘」のフレーズの反復は、ジャズならごく自然のことなのである。今、現在、私が言っている敵としての物語、物語の定型の破壊も、これがジャズの上でならジョン・コルトレーンやアルバート・アイラーのやったフリージャズの運動の延長上として、人は実に素直に理解できると思うのである。ジャズは私の小説や文学論の解析の大きな鍵だ(「新鮮な抒情」)



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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