高木壮太『新 荒唐無稽音楽事典』



 一年ぶりくらいに風邪を引いて、昨日一日ボーっと寝て過ごす。
 年明けからずっと忙しかったので、“体内サーモスタット”が働いたのであろう。
 「ルル」を飲んで一日布団の中にいたら、熱も下がり、今朝にはかなりスッキリしていた。


 昨日寝ていた間に、平山夢明著『いま、殺(や)りにゆきます RE-DUX(リダックス)』(光文社文庫/555円)と、高木壮太著『新 荒唐無稽音楽事典』(平凡社/1404円)を読了。

 『いま、殺りにゆきます』は、平山夢明の旧作。ストーカーなどに襲われた、おもに女性たちの恐怖体験を描いた短編を31編集めたものである。
  「恐怖実話集」と銘打たれているが、「どこまで実話なのかね?」と眉ツバで読みたくなる話ばかり。

 面白いものもあるが、全体にワンパターン(狂気の男が女性の部屋に侵入する話が多い)で、イマイチ。平山夢明は、『ダイナー』以降の近作のほうが優れていると思う。

 『新 荒唐無稽音楽事典』は、先週出たばかりの本。アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の流れを汲む「パロディ事典」である。
 音楽にまつわるあらゆる単語・アーティスト名などの「事典」の体裁を取りながら、その内容はブラックユーモアとアイロニーに満ちており、一つとして真面目な定義や解説はない。

 著者の高木壮太自身がミュージシャンであり、ロックを中心に、あらゆるジャンルの音楽に造詣が深い。その造詣が、どの項目にもにじみ出ている。
 当然、本書を面白がるには、読者にもある程度の音楽知識が要求される。とはいえ、楽典的素養が必要というわけではない。ロックやジャズなどをかなりの年数聴き込んできた人なら、十分笑える本だ。

 たとえば、ジェフ・ベックについての項目は、次のような内容になっている。

 トーキング・モジュレーターの使いすぎで脳が壊れたために、一つのバンドで2枚以上アルバムが出せなくなった英国を代表するギター・ヒーロー。



 この記述で笑うためには、ジェフ・ベックのバンド遍歴や、トーキング・モジュレーター(いまは「トークボックス」という)の何たるかを知らなければならない。このように、一つひとつの項目で読者の音楽知識が試される、ハイブロウな笑いの書なのである。

 また、笑いにくるまれてはいるが、「一つの音楽批評として卓見だ」と感じさせる項目も多い。
 たとえば、「ブルーズロック」という項目は、次のようになっている。

 長髪の白人の若者が、黒人ブルーズのフィーリングを上手く表現できないので癇癪をおこし、髪を伸ばしてサイケデリックな服を着てやけくそになって大音量でブルーズをカバーした。そうしたら、それがなかなか良かった。何事も結果オーライである。



 高木壮太は「ツイッター界の鬼才」などと呼ばれている。たしかに、彼のツイッターは面白いと私も思う。
 「ツイッターから登場した文筆家」として、男は高木壮太、女は深爪が双璧であろう。

■関連エントリ→ 深爪『深爪式』

 なお、本書が『新 荒唐無稽音楽事典』というタイトルになっているのは、「焚書舎」なる版元から2014年に刊行された『荒唐無稽音楽事典』を、加筆修正したリニューアル版だから。
 音楽でいえば、インディーズで出した初期アルバムを、メジャーレーベルからリイシューするようなものである。

 じつは、私は旧版の『荒唐無稽音楽事典』を買おうと思っていたのだが、「ディスクユニオン」で現物を見たら、文庫本よりさらに小さいサイズでペラペラの「小冊子」的体裁で、「こんなチャチな本に1000円も出す価値はないなァ」と思い、購入を見合わせた経緯がある。

 今回の新版は、さすがに名門・平凡社の本だけあって、装丁やレイアウトなども立派なものだ。旧版を買わなくてよかった。
 
  
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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