奥野修司『魂でもいいから、そばにいて』



 昨夜は私用で大田区蒲田へ――。

 行き帰りの電車で、奥野修司著『魂でもいいから、そばにいて――3・11後の霊体験を聞く』(新潮社/1512円)を読了。

 副題のとおり、東日本大震災の被災者たちの「霊体験」を取材した連作ノンフィクションである。
 著者は、『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で大宅賞も受賞したベテラン・ノンフィクション作家。

 被災地では、亡くなったはずの人が現れる幽霊話が後を絶たない。私も現地で耳にしたし、被災地の霊体験に的を絞った類書も、すでにいくつか出ている。

 本書は、概要だけを聞くとキワモノ本に思えるかもしれないが、真摯なノンフィクションである。
 「霊体験本」というより、被災者の話に耳を傾けるうち、その人が語る霊の話(津波で亡くなった家族が、霊として現れる話)を中心にせざるを得なくなった……という趣。

 また、怪談・怖い話のたぐいでもない。
 序章で紹介される一般的な話の中には怪談めいたものもあるが、本文で紹介される霊体験は、いずれも取材対象者が愛する人の霊であり、彼らにとって怖い存在ではないからだ。むしろ彼らはみな、愛する人とまた「会える」ことを喜んでいる。

 これは、霊が科学的にあり得るか否かを問う本ではない。著者もそういう次元で書いてはいない。
 亡き家族が彼らの前に、まるで生きているかのようにいきいきと現れたこと――それは客観的事実ではないとしても、彼らにとってはまぎれもない真実なのである。

 16編の体験が収められている。
 わりと玉石混交で、サラッと読み流してしまったものもあるが、いくつかの体験は強烈な印象を残す。

 とりわけ、冒頭に収められた、妻と幼い長女を亡くした亀井繁さんの体験は、哀切な「愛の物語」として感動的だ。
 ひとり遺された夫が生きる希望を見失ったとき、妻と娘は夫を励ますかのように、霊として現れるのである(序章と1章がKindleの「無料お試し版」で読めるので、読んでみてください)。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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