勝鹿北星が……。



 『週刊文春』5月26日号の、<超人気マンガ「マスターキートン」突如消えた不可解な理由>なる記事を読んで驚いた。
 『MASTERキートン』の原作者・勝鹿北星こと菅伸吉(すが・しんきち)さんが昨年12月に癌で亡くなられたことを、この記事で初めて知ったからである。

 勝鹿北星という、いかにもペンネーム然としたペンネームを使うこの原作者の正体については、長らく謎であった。

 いまはなき月刊『マルコポーロ』が「進め! マンガ青年」というマンガ特集を組んだとき(93年5月号)、「『MASTERキートン』原作者の謎を追う」という記事がもうけられたこともある。
 その記事でも、「すいません。原作者は表に出たくないと強く希望していまして」という担当編集者のコメントが載り、けっきょく「正体」はわからずじまいであった。

 ところが、のちに菅さんが「ラデック・鯨井」名義で原作を書いた『SEED』(『ビジネスジャンプ』連載。画・本庄敬)のコミックスには、ラデック・鯨井のプロフィール欄に、おもな作品の一つとして『MASTERキートン』が堂々と挙げられていた。
 そこで初めてラデック・鯨井=勝鹿北星であることが明かされたわけだが、それがさらに勝鹿北星=菅伸吉(本名)であるとメジャーなメディアで特定されたのは、この『週刊文春』の記事が初めてだろう。

 『SEED』は“エコロジー・マンガ”ともいうべき作品で、私は某誌のエコロジー特集の中で、この作品をめぐって菅さんにインタビューしたことがある。ご自宅におじゃまし、さらには菅さんが『SEED』の主人公さながらに作っていた畑も見せていただいた。

 一期一会の出会いではあったが、取材した相手が亡くなるのはやはり悲しい。『MASTERキートン』は私のお気に入りマンガでもあるし。

 文春の記事では『MASTERキートン』をめぐる印税等のトラブルにも触れられているが、そのへんの真相を私は知らないので、コメントは差し控える。
 ともあれ、優れた劇画原作者であった菅伸吉さんのご冥福をお祈りしたい。
 
 ……と書いたあとに「勝鹿北星 逝去」でググってみたら、すでにマンガ・マニア系のサイトではかなり話題になっていた。 →こことか

 あと、「漫棚通信ブログ版」さん(このブログはマンガ好き必見)のこのエントリは、ネット上の関連情報を手際よくまとめてあってありがたい。

 勝鹿北星についてはこういう「まとめサイト」もある。熱心なファンが多かったのだなあ、と改めて思う。


※追記(5/23)
 関連ブログを読んで気になったのは、『週刊文春』の当該記事について、「勝鹿北星についてはネット上でいいかげんな噂が流れていたが、これでやっと事実がはっきりした」という感想を述べている人が多いこと。

 記事は、『MASTERキートン』のストーリーはじつは担当編集者だった長崎尚志と浦沢直樹がほとんど考えていて、勝鹿北星=菅伸吉は名前だけの原作者であった、としている。

 だが、記事の中身がすべて事実であると、そうかんたんに決めつけていいものだろうか? 菅さんが生きておられたら反論もあっただろうし、雁屋哲(記事には菅さんの親友として登場し、“悪役”イメージを押しつけられている)にだって言い分もあるだろうに。
 ネット上の情報があやふやなのはいうまでもないが、週刊誌の記事だって、無条件に信頼できるようなものではないはずだ。

 ヒントとなる情報を一つ提供しよう。私がインタビューした際、菅さんはこんな発言をされていた。

「私はだいたい単行本9巻くらいまで連載をつづけると飽きてくるタチなんですが(笑)、『MASTERキートン』は人気があったこともあって、18巻までつづけました。で、力を出し尽くして一種の虚脱状態になって、連載を終えたあと、少し仕事を休んだんです」(『リミューズ』2000年4/6月号)

 『週刊文春』の記事を読んだあとでこの発言を読み返すと、いろいろ深読みしたくなる。
 『MASTERキートン』の9巻くらいまでは、菅さんが実際にストーリーを考えていたのではないか。しかし、だんだん浦沢-長崎ラインのカラーのほうが強くなり、菅さんは名ばかりの原作者になってしまった。そのショックゆえの「虚脱状態」だったのでは?
 ま、それはあくまで私の推測だけれど。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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