ブラン・ニュー・オリンズ (2005/04/27) アン・サリー 商品詳細を見る |
私のひいきのシンガー、アン・サリーのニュー・アルバム『ブラン・ニュー・オリンズ』(ビデオアーツ・ミュージック/2940円)が、今日アマゾンから届いた。
いやー、素晴らしい仕上がりである。アン・サリーのアルバムでいちばんよいのではないか。
このアルバムは、タイトルのとおり、ジャズ発祥の地である米ニューオリンズで制作されたものだ。
ただし、アン・サリーはレコーディングのために渡米したわけではない。心臓内科医でもある彼女はかの地に3年にわたって医学留学したのだが、研究の合間に現地のミュージシャンと交流するうち、「彼らと私のうたがこの地で融合したら、どんなに楽しいだろうか」という思いが大きくなっていったのだという。
「ジャズの聖地」の息吹をたっぷりつめこんだ、珠玉のジャズ・ヴォーカル・アルバムなのである。
以前、私はアン・サリーの歌声について、「ジャズの上澄みをすくったようなジャズ・ヴォーカル」と評したことがある。
ハイトーンの澄んだ声で素直に歌う、クールで理知的なヴォーカル。しばしばノラ・ジョーンズが引き合いに出されるが、私にとってはアン・サリーのヴォーカルのほうがずっと魅力的だ。
その魅力は、このアルバムでも変わらない。いや、むしろこれまで以上に輝いている。
『day dream』などの過去のアルバムは、ボサノヴァっぽいギターを核にした上品なサウンドであった。それはそれでよかったのだが、ヴォーカルとバックの演奏の質があまりにもぴったり合いすぎていて、その分だけヴォーカルの印象が弱くなるうらみもあった。セピアカラーの背景の上にセピアで描いた人物像のように。
それに対し、今回の新作では、ヴォーカルとバックの演奏がよい意味でぶつかり合い、静かな火花を散らしている。
ニューオリンズの腕利きミュージシャンたちの演奏は、さすがにすこぶるファンキーである。泥臭くてレイジーで粘っこく、原色を思わせる熱さに満ちているのだ。その上にアン・サリーのヴォーカルが載ることで鮮やかなコントラストが生まれ、彼女の持ち味である透明感・清涼感がいっそう際立っている。
「ベイズン・ストリート・ブルース」「ハニーサックル・ローズ」「君ほほえめば」「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」といったスタンダード・ナンバーを多く取り上げているのだが、いずれも、アン・サリーならではの味わい――すなわち、アメリカのジャズ・シンガー(黒人も白人も)には出せない味――を醸し出すことに成功している。
日本語の曲が2曲入っている。西岡恭蔵の「アフリカの月」と、サトウハチロー・服部良一の「胸の振子」。2曲とも、不思議な和洋折衷感覚に満ちていて絶品だ。
私がいちばん気に入ったのは、「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」。アン・サリー自身の手になるライナーノーツに、「私の今までのCDには入れたことの無かったタイプのR&B曲です。(中略)いつもより熱く(?)歌ってみました」とあるとおり、いつになく官能的な熱唱。それでいて、やはりいつも通りの透明感があるのだ。
なお、この新作は「初回限定生産盤」で、その枚数を売り切ったら販売を終了するという。何枚限定なのかわからないが(※)、買おうと思う方はお早めに。
※以前、今井美樹のアルバムで「10万枚限定発売」というのがあって、「じゅ、10万枚? それって『限定発売』といえるのか?」と驚いたことがある。それどころか、サザンのCDで「25万枚限定発売」(!)というのもあったらしい。ううむ…。今回のアン・サリーは1万枚くらいだろうか。
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