ロックの邦題傑作選

ブロウ・バイ・ブロウ(紙ジャケット仕様)ブロウ・バイ・ブロウ(紙ジャケット仕様)
(2005/01/19)
ジェフ・ベック

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 ロックのアルバムに限らず、映画や小説でもそうだが、やはり昔のほうが味のあるいい邦題が多かった。だいたい、最近の邦題は原題の英語をカタカナに置き換えただけのものが多くて、味もそっけもない。

 たとえば、アラニス・モリセットのセカンド・アルバムの邦題は『サポーズド・フォーマー・インファチュエイション・ジャンキー』。もう、原題そのまんまである。このタイトルだけ見て意味のわかる人が、いったい日本人にどれだけいただろう?

 また、ミシェル・ンデゲオチェロの4thアルバムの邦題は、『クッキー:ジ・アンスロポロジカル・ミックステープ』。これも原題をカタカナに置き換えただけ。
 ただでさえアーティスト名が覚えにくいのに、こんな覚えにくい邦題をつけられた日には、売れるアルバムも売れないというものだ。



 そこへいくと、1970年代までの邦題はよかった。
 たとえば、ユーライア・ヒープの『LOOK AT YOURSELF』の邦題は、『対自核』。原題は「己を見つめよ」の意だから、そこから「自分の核と向き合う」というニュアンスをこめて「対自核」なる言葉を作ったのだろう。「何がなんでも日本語にするぞ」という執念のようなものが感じられる。



 ちなみに、『対自核』とタメを張る謎めいた邦題は、ピンク・フロイドの『原子心母』。しかしこちらは原題も『ATOM HEART MOTHER』で、意味不明。これもいまなら、『アトム・ハート・マザー』が邦題になったことだろう。

 やっぱ、プログレは言葉へのこだわりも強いジャンルだけあって、邦題にもいいものが多い。
 キング・クリムゾンの名作『太陽と戦慄』は、原題「Larks’ Tongues in Aspic」。原題のニュアンスは邦題にまったく反映されていないが、あのアルバムのタイトル・ナンバーにはたしかに「太陽と戦慄」という邦題が似つかわしい。名邦題の一つだろう。

 ロッド・スチュワートの『FOOTLOOSE&FANCYFREE』の邦題は『明日へのキックオフ』。同じくロッドの『BLONDES HAVE MORE FUN』の邦題は、『スーパースターはブロンドがお好き』。
 どちらもいいねえ。「オレのつけた邦題でこのアルバムを売ってやるぜ!」という意気込みが感じられる。



 で、私が邦題ベストワンを選ぶとしたら?

 ジェフ・ベックの名盤『BLOW BY BLOW』。このアルバムはいまでは『ブロウ・バイ・ブロウ』というタイトルで売られているけれど、発売当初の邦題は『ギター殺人者の凱旋』だった(!)。
 スゴイ。このぶっ飛んだ言語感覚にはもう脱帽するしかない。

 ちなみに、ワースト邦題は?

 アルバムではないのだが、AC/DCのアルバムに入っていた「死ぬまで飲もうぜ」という曲。
 AC/DCの2代目ヴォーカリスト、ボン・スコットは酒の飲みっくらをやって急性アルコール中毒で死んだのだが、そのあと、新しいヴォーカリストを入れて出された追悼アルバム『バック・イン・ブラック』の中の1曲。

 アルバムの帯には「悲しみを乗り越えて」云々という惹句があり、中身は重々しい鐘の音で始まる。そのくせ、収録曲の1曲は「死ぬまで飲もうぜ」。シャレにならねーよ、人の死にざまを冗談のネタにすんなよ、と思ったものだ。

 アメリカのシンガー、グレン・キャンベルのヒット曲「哀愁の南」は、原題「southern nights」。曲調もおよそ「哀愁」という感じではない楽しげなものなのに、なぜ「哀愁」?
 山本さゆりがラジオ番組(たしか「軽音楽をあなたに」)でこの曲をかけたとき、「これは、すごくみっともない邦題のつけ方だと思います」と吐き捨てるように言ったのを覚えている(笑)。

 そういえば、エルトン・ジョンの初期のヒット曲「土曜の夜は僕の生きがい」は、のちに『ファンダンゴ』という映画の主題歌になったことで「土曜の夜はファンダンゴ」という邦題に変えられてしまった(笑)。

 邦題も、ときに出世魚みたいに変わるのである。

 もう一つ例を挙げる。
 ポール・マッカートニーの「Maybe I'm Amazed」という曲は、ポールのファースト・ソロアルバム所収時には「恋することのもどかしさ」という邦題だった。
 しかし、のちにポール・マッカートニー&ウイングスのライヴ・アルバムからライヴ・バージョンでシングルカットされた際には、「ハートのささやき」という邦題に変わった。
 そして、現在では「メイビー・アイム・アメイズド」というカタカナ表記のほうで知られている。つまり3種類の邦題をもつ曲なわけで、出世魚顔負けである。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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