石塚真一『BLUE GIANT SUPREME』



 石塚真一『BLUE GIANT SUPREME』(ブルージャイアント シュプリーム)の既刊1~2巻(ビッグコミックススペシャル)を、Kindle電子書籍で購入。

 10巻で一応の完結を見た『BLUE GIANT』の続編・海外編である。

■関連エントリ→ 石塚真一『BLUE GIANT』

 賛否両論の嵐を巻き起こした『BLUE GIANT』のラストがあまりに衝撃的だったので(どんなラストだったかはググられたし)、私もショックを受け、この『BLUE GIANT SUPREME』はしばらく読む気がしなかった。
 が、『ビッグコミック』での連載を立ち読みしてみたら面白かったので、コミックスを買ってみたしだい。

 東京のジャズシーンで一定の評価を得、日本一のジャズクラブ「So Blue」のステージにも立った主人公・宮本大は、バンド「ジャス」を解散し、ヨーロッパに“サックス武者修行”に出る――。
 まずはドイツのミュンヘンとハンブルクを舞台に、「世界一のサックス・プレーヤー」を目指す大の孤軍奮闘が描かれるのが、『BLUE GIANT SUPREME』の序盤の展開だ。

 すでに複数の人が指摘しているように、物語の骨子は、五木寛之の60年代の青春小説『青年は荒野をめざす』を彷彿とさせる。
 『青年は荒野をめざす』に限らず、初期の五木作品には「ジャズ青春小説」と呼びたい作品が多い(「海を見ていたジョニー」「さらばモスクワ愚連隊」など)。私は少年時代にそれらの作品を愛読していたから、この『BLUE GIANT SUPREME』には懐かしさも感じる。

 ただ、五木の「ジャズ青春小説」が、金髪ネーチャンとの激しい恋とか、不良たちとの大立ち回りとかが出てきて通俗的なのに対し、『BLUE GIANT SUPREME』は生真面目で求道的な青春マンガである。

 2巻で登場する女性ベーシスト、ハンナと大がこの先の展開で恋に陥りそうではあるが、ハンナのキャラもすごく地味だし……。
 何より、大が昔の少年マンガの主人公のような“天真爛漫まっすぐキャラ”だから、五木作品みたいな通俗展開にはなりようがない。でも、その生真面目さがとても好ましい。

 2次元の画面でジャズの音を表現するという難しい課題に挑みつつ、青春マンガとしても王道をゆく面白さ。正編『BLUE GIANT』をしのぐ傑作になるかもしれない。

 

崗田屋愉一『大江戸国芳よしづくし』



 崗田屋愉一(おかだや・ゆいち)の『大江戸国芳よしづくし』 (日本文芸社/535円)を、Kindle電子書籍で購入。
 
 浮世絵師・歌川国芳の無名時代を描いたマンガ。

 著者の崗田屋愉一は、2011年に「岡田屋鉄蔵」名義で発表した『ひらひら――国芳一門浮世譚』で注目を浴びたマンガ家(ちなみに女性)。……だそうだが、私はこの人の作品を読むのは初めて。

 浮世絵師を主人公にしたマンガといえば、一ノ関圭の『茶箱広重』『鼻紙写楽』、杉浦日向子の『百日紅』といった大傑作が、すでにある。ゆえに、いまから類似作を描くには、それらの傑作と比較されることでワリを食う覚悟で臨まなければならない。

 私も、心の中で比較しながら読まざるを得なかった。
 崗田屋愉一もきれいでうまい絵を描くが、一ノ関圭の絵の凄みには及ばない(一ノ関は「日本でいちばん絵のうまいマンガ家」の最有力候補だから、比べるのは酷)。

■関連エントリ→ 一ノ関圭『鼻紙写楽』

 また、杉浦日向子作品の心地よい力の抜け具合、余白の絶妙な使い方に比べ、崗田屋は1ページの中に情報量を詰め込みすぎ(文字が多すぎるし、コマ割りもやや細かすぎ)で、読んでいてちょっと暑苦しい。
 
 だが、そのように先行作品と比べさえしなければ、これはこれで素晴らしいマンガである。

 物語のタテ軸は、浮世絵が好きでたまらない富裕な商人・遠州屋佐吉(実在の人物)と国芳が出会い、それを機に国芳が才能を開花させ、世に認められていくプロセス。
 そこに、殺人や役人の汚職などの事件がからんでヨコ軸となり、ダイナミックにストーリーが展開していく。

 市川団十郎(七代目)や遠山の金さん、鼠小僧次郎吉などというおなじみのキャラが重要な役どころで登場するなど、読者を飽きさせない工夫も随所にある。
 私のように浮世絵について門外漢でも、十分に楽しめる大人のエンタテインメントだ。

岩明均・室井大資『レイリ』



 原作・岩明均、漫画・室井大資の『レイリ』(少年チャンピオン・コミックス エクストラ)を、既刊1~3巻を買って一気読み。
 『寄生獣』『ヒストリエ』の岩明均が初めて原作に回り、『秋津』や『イヌジニン ―犬神人―』 の室井大資に作画をまかせた戦国活劇である。

 いやー、これはメチャメチャ面白い。

 主人公・レイリ(零里)は、百姓の娘でありながら、「長篠の戦い」(1575年)の落ち武者狩りの巻き添えで両親と弟を惨殺されてしまう。
 そのとき自らも殺されかけるが、敗走中だった武将・岡部丹波守元信(今川家家臣を経て、甲斐武田家家臣)に救われ、彼に育てられる。

 戦に出て、恩人「丹波さま」のために戦い、家族を惨殺した敵方(織田・徳川連合軍)の武士を一人でも多く殺したい。そして、最後は討ち死にして家族の元に行きたい。一日も早く……。そんな狂おしい思いを胸に、剣術の稽古に明け暮れるレイリ。
 4年後――。天賦の才が開花し、15歳のレイリは雑兵たちが誰もかなわないほどの腕になっていた。

 だが、レイリの顔が武田勝頼の嫡男・信勝(当時13歳)に瓜二つであったことから、彼女は男のなりをして信勝の影武者となることを命じられる。

 ……という感じのストーリー。

 滅法強い美少女剣士を主人公に据えている点は、小山ゆうの『あずみ』を彷彿とさせる。
 『あずみ』は長期連載の過程で似たような話のくり返しになり、だんだんテンションが下がっていった。対照的に、『レイリ』のストーリーは緊密で、遠からぬクライマックスに向けて少しずつ盛り上がっていく感じがたまらない。

 また、とっくに誰かが指摘しているだろうが、レイリと信勝の関係は、『キングダム』(原泰久)における信と政(のちの秦の始皇帝)の関係とオーバーラップする。
 「『キングダム』と『あずみ』を足して2で割ったようなマンガが作れないかなァ」というのが、最初の着想だったのかもしれない。もちろん、岩明均のオリジナリティで染め上げられているので、パクリ感は微塵もないが……。

 岩明も『寄生獣』のころと比べたら絵がうまくなったが、それでも絵の魅力で売るタイプのマンガ家ではないから、原作に徹したことは正解だと思う。
 とくに、随所で展開されるスピード感みなぎる戦闘シーンは、岩明の絵柄では迫力不足だったろう。

 「死にたがりの美少女剣士」という主人公造型のキャラ立ち感がハンパない。印象的な場面もたくさんある。岩明のストーリーテリングはさすがだ。

 私たちは、現在のストーリーのわずか3年後に甲斐武田家が滅亡し、最後の当主となった信勝が16歳で自害して果てることを知っている。
 そのとき、レイリはどう死ぬのか? あるいはどう生きるのか? これから目が離せないマンガである。

卯月妙子『実録企画モノ』『新家族計画』



 卯月妙子の旧作『実録企画モノ』『新家族計画』(Vol.1&2)がKindle Unlimitedに入っていたので、読んでみた。

 卯月の4年前の話題作『人間仮免中』を読んだとき、「この旧作も読みたい」と思ったものの、当時は紙の本しかなく、しかも中古で高値を呼んでいたため手が出なかった作品。いつの間にか電子書籍化されていた。

 Kindle Unlimitedは、講談社など大手版元とのトラブルもあり、点数も減って、世間的には「もう終わった(失速した)サービス」みたいな印象になっている。だが、私はいまでも「月額980円なら十分お得」だと思う。
 じっさい、今日読んだ卯月妙子作品3冊だけでも、私にとっては「もう今月分の元が取れた」という感じだし。

 ただ、3ヶ月間Kindle Unlimitedを利用してみて思うのは、使いこなすにはコツがいるということ。
 大量のクダラナイ本(シロウトの自費出版本とか、安手のエロ本とか)で点数を嵩上げしているサービスであるため、価値のある本にたどりつくには、ユーザー側がかなり意識的に探して、読む本を厳選しないといけないのだ。そうしないと、価値の低い本を「タダだから」とダラダラ読んでしまい、時間を浪費してしまう。

 さて、初めて読んでみた卯月妙子の旧作だが、いずれも『人間仮免中』同様、卯月自身の壮絶な半生を題材にしたものである。ただし、『実録企画モノ』はノンフィクションのコミックエッセイであるのに対し、『新家族計画』は一応フィクションの体裁をとっている。

 『人間仮免中』は感動作であったが、こちらの『実録企画モノ』『新家族計画』はコミカルなテイストが強い。借金と精神障害を抱えながら子どもを育てるため、特殊性風俗や特殊AVの世界で働くデスペレートな生活が描かれているのだが、それが乾いた笑いにくるまれているのだ。

 なにしろ、『実録企画モノ』のラストでは卯月の前夫の飛び降り自殺が描かれるにもかかわらず、その部分さえ少しも悲しくない描き方なのだから……。
 その点で、自らのホームレス生活やアル中を笑いに昇華した、吾妻ひでおの『失踪日記』と同系列のマンガといえる。

 ただ、マンガとしての構成がグダグダで全体的に雑然としており、素材の面白さがあまり活かされていない。大傑作『失踪日記』に遠く及ばないのはもちろん、自作の『人間仮免中』よりもつまらない。
 
 それでも、人の生き方の正しさや幸・不幸を決めつけがちな我々の価値観・倫理観を、したたかに揺さぶる衝撃作ではある。「こういう生き方もアリだよ」と……。

オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』



 オジロマコトの『猫のお寺の知恩さん』(ビッグコミックス)の1巻を電子書籍で購入。
 『ビッグコミックスピリッツ』で最近気に入っている作品。

 『闇金ウシジマくん』がもうすぐ連載終了してしまうので、「終わったらもう『スピリッツ』読むのやめようかなァ」とも思ったのだが、とりあえずこの『猫のお寺の知恩さん』がある限りは読みつづけよう。→作品詳細(第1話試し読みあり)

 『富士山さんは思春期』がとてもよかったオジロマコトだが、本作も彼女(女性だということを最近知った)の美点が存分に発揮されている。美点とは何かといえば、健康的なエロティシズムである。

 この『猫のお寺の知恩さん』は、県外の高校に進学することになった主人公の男の子・源が、高校のある町で遠戚が営む古寺に下宿する物語。寺には、3歳年上で幼なじみの「知恩ねーちゃん」がいた。
 遠い親戚(血はつながっていない)とはいえ、若い娘と一つ屋根の下に暮らすことになった思春期の源は、何かとドキドキして……というストーリー。
 往年の大ヒット作『翔んだカップル』以来、時折現れる「一つ屋根の下」系ラブコメという感じだ。

 もっとも、いまのところはラブコメというより「ほのぼの癒し系田舎暮らしストーリー」なのだが、ヒロイン・知恩さんの描き方が素晴らしくエロい! とくにエッチなシーンがあるわけではないのだが、エプロンにジーパンの後ろ姿や、うなじのアップを描いただけでエロい! 

 エロティシズムとは本来このようにほのかに薫るものであって、そのものずばりの性描写などより、本作のフェチ的描写のほうがよっぽどエロティックである。

 もっとも、オジロマコトは過去に成人マンガも手がけているようだが、本作のような健康的エロのほうが彼女の本領が発揮されていると思う。

 知恩さんがフツーに服を着たうしろ姿を描いただけでエロいのはすごい。
 私にとっては、星里もちるの『本気のしるし』以来十数年ぶりに、「二次元のヒロインが生身の女性よりエロく見えた」マンガ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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