吉田豪『人間コク宝サブカル伝』


人間コク宝サブカル伝人間コク宝サブカル伝
(2014/02/19)
吉田 豪

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 吉田豪著『人間コク宝サブカル伝』(コアマガジン/1646円)読了。

 おなじみの、ディープな面々へのディープなインタビュー集。
 「サブカル伝」とタイトルにあるものの、一昨年の『サブカル・スーパースター鬱伝』のように思いっきりサブカル寄りというほどではない。基本的には過去の『人間コク宝』シリーズと同じテイストである。

 インタビューイとして登場するのは、次の面々。

 諫山創・乙武洋匡・枡野浩一・穂積隆信・山本寛・宇川直宏・宮崎吐夢・久田将義・小西克哉・安東弘樹・神足裕司・上杉隆・YOU THE ROCK★・須永辰緒・安岡力也・清水健太郎・岸部四郎・品川ヒロシ



 乙武洋匡・穂積隆信・安岡力也・清水健太郎・岸部四郎あたりは過去の『人間コク宝』と共通の流れで、それ以外が「サブカル伝」に相当する人選ということになろうか。

 サブカル人士に型破りなタイプは少ないから、シリーズの中では本書はわりと薄味な印象である。とくに、諫山創(『進撃の巨人』の作者)・山本寛・宮崎吐夢へのインタビューはじつにつまらない。
 品川ヒロシはイメージどおりのイヤなヤツで、インタビューを読むだけでも不快な気分になってくる。神足裕司のいいかげんさにも呆れ返る。

 意外によかったのが、穂積隆信・小西克哉・安東弘樹(TBSアナウンサー)へのインタビュー。とくに安東へのインタビューは、彼に対するイメージが一変すること請け合いだ。

 でも、一冊通して読むと、けっきょくいちばん内容が濃くて面白いのは、巻末の町山智浩への総括インタビュー(本書のインタビューイ一人ひとりに対する寸評を町山が語るもの)だったりする。

 たとえば、町山は乙武洋匡についてこう言う。

 あの笑顔は何もない人たちの妬みや嫉みに対する攻撃だから。あの笑顔は何も優しさじゃない。攻撃だよ! 何も持たない人は、あの笑顔を見て屈辱的な気持ちになる。「俺は手足があるのに何もできない。だけど彼はこんなに勝利の笑顔を!」って。



 また、次の一節は町山の「師弟論」として興味深く読んだ。

 やっぱり人間、歴史だから。好きな人がいて尊敬して、それこそマッカーサーがシーザーを尊敬して、シーザーが誰を尊敬してとかずっと続いているの。それから断ち切られたら、人間っていうのは誰でも生まれてきたときはたいしたことないけど、誰かを尊敬することで一段上がれるんだよ、その人が上に乗るから。
(中略)
 誰か尊敬する人を見て、その人を真似する。その人みたいになりたいと思うことってホントに大事だと思う。それがいま世の中にないの。



■関連エントリ→ 吉田豪『人間コク宝 まんが道』レビュー

吉成真由美ほか『知の逆転』


知の逆転 (NHK出版新書 395)知の逆転 (NHK出版新書 395)
(2012/12/06)
ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー 他

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 吉成真由美編『知の逆転』(NHK出版新書/903円)読了。

 元NHKテレビ・ディレクターにしてサイエンス・ライター、そしてノーベル賞科学者・利根川進の妻でもある著者が、6人の「知の巨人」にじっくり話を聞いたインタビュー集。

 インタビューイとなるのは、『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンド、言語学者・哲学者のノーム・チョムスキー、脳神経科医・神経学者で『レナードの朝』などの著作でも知られるオリバー・サックス、「人工知能の父」マービン・ミンスキー、「アカマイ・テクノロジーズ」創業者で数学者のトム・レイトン、そして、DNA二重らせん構造の発見者でノーベル生理学・医学賞受賞者のジェームズ・ワトソン。

 私はジャレド・ダイアモンドへのインタビューが読みたくて手を伸ばしたのだが、ほかの5人へのインタビューもそれぞれ面白かった。

 各人の主たる業績の話も出てくるし、代表的著作の手際よい紹介集としても読めるが、それがメインではない。メインテーマは、“現代を代表する6人の賢者に、世界のこれからについての展望を聞く”ということ。

 メモしておきたいような一節が、随所にちりばめられている。
 たとえば、ワトソンの「ガンはもう対処できる寸前まできている」という発言。

 われわれはいよいよ、子どもがたとえば白血病にかかったとき、「ああ、なんてひどいことになるんだろう」と思うのではなく、その子が六週間薬を飲むことですっかり治ってしまう、というような世界に入ろうとしている。



 まあ、こういう明るい話ばかりではなく、未来について不安をかき立てる暗い展望も出てくるのだが……。

 私がいちばん面白く読んだのは、マービン・ミンスキーへのインタビュー。
 たとえば、著者の“原発事故に際して、原発内に送り込んで作業をさせるロボットは、なぜいまだに実現していないのか?”という問題提起に対する答えが、大変興味深かった。

 問題は、研究者が、ロボットに人間の真似をさせることに血道をあげているということ、つまり単に「それらしく見える」だけの表面的な真似をさせることに夢中になっている、というところにあります。
 たとえば、ソニーの可愛らしい犬ロボットは、サッカーができるわけです。それはたしかに何かを蹴ることができるけれども、ドアを開けることも、ましてや何かを修理することもできない。ですからロボット工学に関しては、三◯年前にその進歩はほとんど止まってしまって、その後はもっぱらエンターテインメントに走ってしまったように見受けられます。
(中略)
 なぜ、ドアを開けるというような、もっと現実的な問題解決型のロボットを作ろうとしないのか、全く理解に苦しみます。



 著者の質問は総じて大局的すぎ(「教育の未来についてどう思いますか?」みたいな)、各インタビューイの専門分野に切り込んでいく深い掘り下げには欠ける。その点、立花隆が著者の夫・利根川進に綿密なロング・インタビューをした『精神と物質』のような知的興奮を期待すると、やや肩透かしを食うだろう。

 それでも、“超一流の学者たちがいまの世界をどう見ているか?”が6人分まとめてわかる本であり、一読の価値はあった。

 なお、『知の逆転』というタイトルには、“それまでの常識を覆した学者たち”という意味が込められているのだそうだ。
 うーん、わかりにくい。言われなければそんな意味だとはとても思えない。本書の感想を書いたブログを検索してみたら、「タイトルの意味がわからない」という言葉が頻出していた(笑)。

吉田豪『サブカル・スーパースター鬱伝』


サブカル・スーパースター鬱伝サブカル・スーパースター鬱伝
(2012/07/21)
吉田 豪

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 吉田豪著『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店/1680円)読了。

 プロインタビュアーの著者が、「サブカル男は40歳を超えると鬱になる」というテーマに沿って、11人の「サブカル者」に話を聞いたインタビュー集。『クイック・ジャパン』誌上で「不惑のサブカルロード」と題して連載されたものの単行本化だ。
 最後の香山リカへのインタビューだけが語り下ろし。精神科医にして筋金入りのサブカル者である彼女に、ほかの10人へのインタビューを総括してもらう内容である。

 インタビューイとして自らの鬱体験を語る10人は、リリー・フランキー、大槻ケンヂ、みうらじゅん、松尾スズキ、川勝正幸(故人)、杉作J太郎、菊地成孔、ECD、枡野浩一、唐沢俊一というラインナップ。
 
 テーマがテーマだけに、吉田のほかのインタビュー集――『人間コク宝』シリーズなど――のような突き抜けた面白さはない(いつもの「ダハハハハ!」もやや少なめ)。むしろ身につまされる部分が多い。私自身が40代の物書きで、広義の同業者も多く登場するから、なおさらだ。

 幸い私は鬱体験がなく、眠れなくて困ったこともない(いつなんどき、どこででも熟睡できるw)。しかし、今後ならないとは当然かぎらない。その意味で、鬱になった場合の抜け出し方のコツを知っておくためにも有益な本であった。

 すべてのインタビューに共通する印象は、「みんなサービス精神旺盛だなあ」というもの。つらい鬱体験を語るというのに、インタビューが面白くなるようにがんばってサービスしている感じなのである。こんなに「気ィ遣いィ」だから鬱になってしまうのではないか。

 まあ、サブカルにかぎらず、40代の男性自由業者が鬱になりやすいというのはよくわかる。
 ただでさえ「中年クライシス」に陥りやすい時期なのに、40代に入ると原稿依頼が急に減ったりするのもありがちだし、体力・気力も落ち、いろんな病気にもかかりやすくなってくるし……。
 くわえて、サブカル・ジャンルで生きている人には、やはり繊細で傷つきやすいタイプが多いのだろう。

 あとがき代わりの著者インタビューには、次のような一節がある。

――こうやってまとめて読むと、「サブカル」っていうジャンルの斜陽についても感じざるを得ないというか……。
吉田 もはや「サブカル」を名乗ることになんのメリットもないですからね。



 出版界全体が斜陽であるうえ、サブカル界隈はとくに斜陽度合いがハンパない(たとえば、本書で枡野浩一は「いまバイトもしようと思ってますね」とマジメに語っている)から、未来が見えず、鬱傾向にいっそう拍車がかかるわけだ。
 もっとも、リリー・フランキーのように超売れっ子になってから鬱になったケースもあるから、一概に斜陽が原因とも言いきれないのだが……。

木村俊介『物語論』


物語論 (講談社現代新書)物語論 (講談社現代新書)
(2011/11/18)
木村 俊介

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 昨日、一昨日と大震災関連取材で福島へ――。
 3・11以来、福島に行くのは4度目。今回は3組の被災者の方々にお話をうかがい、合間に飯舘村などを見て回る。「ホットスポット」として知られる飯舘は、しんと静まりかえった無人の村となっていた。

 行き帰りの新幹線で、木村俊介著『物語論』(講談社現代新書/861円)を読了。
 タイトルだけ見ると文芸評論のようだが、そうではなく、ジャンルを超えた広義のアーティスト17人へのインタビュー集である。

 著者は1977年生まれの(私から見ると)若いライター。ただし、プロフィール欄の肩書きはライターではなく「インタビュアー」となっている。「プロ・インタビュアー」を名乗っているのは吉田豪だが、この著者もインタビュー仕事にアイデンティティーを見出しているらしい。池谷裕二・糸井重里の『海馬』や、『ピーコ伝』などを構成した人なのだな。

 インタビューイとして登場するのは、村上春樹、島田雅彦、伊坂幸太郎、重松清、弘兼憲史、橋本治、かわぐちかいじ、荒木飛呂彦、桜庭一樹、是枝裕和、諏訪内晶子、根岸孝旨、渋谷陽一などなど……。

 小説家・マンガ家・映画監督あたりまではまあいいとしても、演奏家や音楽プロデューサー、現代美術家、編集者、ウェブ・デザイナーまでを「物語論」という枠組みでくくるのは無理やりすぎ。どうせなら、小説家へのインタビューだけ集めて1冊にすればよかったのに。

 インタビューは玉石混淆。というか、私自身が興味がない人へのインタビューは、当然ながら総じて面白く感じられない。伊坂幸太郎へのインタビューが突出して長いのだが、私がこの人に興味ない(作品を読んだことがない)せいか、ひたすら冗長に思えた。
 逆に、根岸孝旨へのインタビューは、Coccoとの共同作業について語ったくだりが個人的にたいへん興味深かった。

 意外にも、いちばん面白く読めたのはかわぐちかいじへのインタビュー。かわぐち個人の方法論を語ったものであると同時に、マンガという表現の特質を鮮やかに抽出した秀逸なマンガ論にもなっている。

 その他、印象に残った言葉を3つほどピックアップ。

 そもそも小説を書くということは、過去を参照して独自の現状分析を加味しながら、五年後や十年後の世界を提示することに近いんですよ(島田雅彦)



 僕は「持って行き場のない思いの、その持って行き場のなさ」を書きたいのかもしれません。持って行き場を置いてしまうと、それこそ解決させるための、許してもらう一瞬のための物語になってしまう(重松清)



 批評を正当な理解だなんて思ってしまったら芸術は終わりなんじゃないのかな。ですから私は、理解されかけたと思ったら、もっと煙に巻く構造を持った作品を手がけています。「理解される」とは「底が見える」でもありますので。
 芸術は「ここには何かがありそう」というその何かをできるだけ遠くまでつなげて味わうもので、完全に説明できてはミもフタもないでしょう?(杉本博司)



梅棹忠夫・小山修三『梅棹忠夫語る』


梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ)梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ)
(2010/09/16)
小山 修三

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 梅棹(うめさお)忠夫・小山修三著『梅棹忠夫語る』(日経プレミアシリーズ/893円)読了。

 今年の夏に90歳で大往生した「知の巨人」梅棹が、その最晩年に自らの来し方を振り返って語った談話集。
 語り下ろしの自伝(ただしダイジェスト版)としても読めるし、風変わりな「梅棹忠夫入門」としても読める。
 カバーの惹句や聞き手の小山修三による「あとがき」には「若い世代へのメッセージ」うんぬんという言葉があるが、そういう感じはあまりしない。

 梅棹の著作というと、私は『知的生産の技術』と『文明の生態史観』しか読んだことがない。なのに「影響を受けた」などと言ったら怒られそうだが、それでも、私は『知的生産の技術』にかなり影響されたという自覚がある。
 私にかぎったことではなく、現在の「知的生産の技術」に梅棹が与えた潜在的影響は甚大・広範なものであるはずだ。たとえば、山根一眞の『スーパー書斎の仕事術』も、野口悠紀雄の『「超」整理法』も、梅棹という先駆者がいなかったら生まれ得なかったはずだ。

 梅棹は、1986年に突然失明するという悲劇に見舞われた人である。そのためであろう、彼はパソコンやインターネットの世界にほとんど触れることなく世を去った。本書にも、「ITは信用しない。自分がやっていないから」という項目がある。
 これは、非常に惜しいことだ。梅棹がITの世界を知ったなら、先駆者ならではの慧眼で、その本質を見事に論じたに違いないのだ。

 ただし本書は、「知的生産の技術」の先駆者としての梅棹よりも、型破りな学者としての梅棹のほうが前面に出ている本だ。関西弁の小気味よいリズムに乗って、日本のアカデミズムの「ここが変だよ」という点をズバズバとついていくところが痛快である。たとえば――。

 どこかでだれかが書いていたんだけど、「梅棹忠夫の言ってることは、単なる思いつきにすぎない」って。それはわたしに言わせたら「思いつきこそ独創や。思いつきがないものは、要するに本の引用、ひとのまねということやないか」ということ。それを思いつきにすぎないとは、何事か。
(中略)
 学問とは、ひとの本を読んで引用することだと思っている人が多い。
 それで、これは昔の京大の教授だけど、講義のなかで、わたしを直接名指しで、「あいつらは足で学問しよる。学問は頭でするもんや」って言った人がいた。頭でするもんやということは、ひとの本を読めということやな。「あいつらは誰も引用していない。こんなのはだめだ」と。そういう言い方を講義のときにしたという話を聞いたことがある。



 その他、「博士号は足の裏についた飯粒や。取らな気持ち悪いし、取っても食えん」などというユーモアに満ちた名言も多く、楽しい。インタビューというより対談に近いスタイルなので、あっという間に読める。それでいて、深みもある本だ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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