岩佐義樹『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』



 岩佐義樹著『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』(ポプラ社/1404円)読了。

 著者は『毎日新聞』のベテラン校閲記者で、同社の「用語委員会用語幹事」も務める人物。
 本書は、著者の豊富な校閲経験をふまえ、ありがちな言葉の間違いを紹介し、正しい日本語を指南していくもの。

 したがって、文章読本を連想させる「すごい文章術」というタイトルには、やや違和感を覚える。
 もっとも、よい文章を書くために必要な知識が多数紹介されているという意味では、文章術の本と言えなくもない。

 私はもう30年もライターをやっているので、日本語についての知識は人並み以上にはあると思う。
 それでも、書いた原稿の言葉の誤りを校閲に指摘されるなどして、「えっ? これって間違いなんだ」と気付いた経験は、けっこうある。゜

 このブログの中にだって、探せば言葉の誤用はあると思う。それくらい、日本語は難しいのだ。

 本書に紹介されている言葉の誤用、不備についても、初めて知ったものがいくつかあった。

 たとえば、「居並ぶ」という言葉の「居」には「座る」という意味があるから、立って並んでいる人について「居並ぶ」と表現してしまったら、誤用になるのだという。うーむ、知らなかった。

 また、「姑息」は「卑怯」という意味に誤用されがちだが、本来は「一時しのぎ」という意味なのだとか。
 これも知らなかった。卑怯という意味で「姑息」を用いたことも、たぶん何度もあると思う。

 これらの知識を得ることができただけでも、本書を読んだ価値があった。
 ライターや編集者なら、一読の価値はある本。著者の文章も平明で柔らかいタッチで、好感がもてる。

池上彰・竹内政明『書く力』



 昨日の新幹線で読んだ2冊目が、池上彰・竹内政明著『書く力――私たちはこうして文章を磨いた』(朝日新書/648円)。Kindle電子書籍で購入。

 竹内政明は『読売新聞』論説委員で、読売の一面コラム「編集手帳」を2001年から担当している人。読売きっての名文家である(朝日新書なのに読売の人を選んでいるのが面白い)。
 一方の池上彰にはあまり名文家という印象はないが、平明で読みやすい、いい文章の書き手だと思う。
 その2人が対談形式で編んだ文章読本である。

 とくに参考になるのは、竹内が書いた「編集手帳」を例として挙げ、「なぜそのような文章にしたのか?」という舞台裏を語らせた部分(たくさんある)。
 文章を輝かせる「部品」(引用句など)の見つけ方・使い方、読者を唸らせる構成の仕方など、上手なコラムの書き方が具体的によくわかる。

 2人とも、奇をてらったことは言っておらず、むしろ「基本のき」、文章術の王道という感じのオーソドックスなアドバイスが多い。そして、そのアドバイスがとても心にしみる。
 たとえば――。

 どうすれば、よい短文が書けるようになるか。
 「削る練習」しかない。毎日、文章を書いては削り、書いては削りを繰り返しているうちに、だんだん「余計な贅肉」が見えてくるはずです。(竹内の発言)



 さらさらとラクをして原稿を書いているようでは、いつまでたっても上達しない。すでに作られた自分の道具箱の中から、選択するという苦労もせずに、言葉を選んで「はい、一丁あがり!」としていても、文章はうまくならない。苦しいかもしれないけど、「よりよい表現はないか」頭を絞ったり、工夫したりしているうちに、少しずつ進歩していくものなんですよね。(池上の発言)



 肝に銘じたい。
 今後、文章につまったときなど、折に触れて読み返す本になりそうだ。

上阪徹『〆切仕事術』



 上阪徹著『〆切仕事術』(左右社/1836円)読了。

 「〆切守り率100%のメソッド大公開」という帯の惹句のとおり、著者は23年間フリーライターをやってきて一度も〆切に遅れたことがないそうだ。
 しかも、コラムとかならともかく、著者のおもな仕事はブックライター、つまり書籍の聞き書き構成で、これまでに100冊近くを手がけてきたという。

 著者の3年前の本『職業、ブックライター。』を当ブログで取り上げたとき、私は次のように書いた。

 副題の「毎月1冊10万字書く」は、私もクリアしている。
 てゆーか、丸1ヶ月あれば1冊の本が書けるのは、ライターとしては平均的能力で、とくにすごいというわけではない。ま、質が問題なわけだから、書く速さだけ比べても意味がないけれど……。
 著者のすごさはむしろ、20年間にわたってブックライターをつづけながら、一度も〆切に遅れたことがない、という点にある。この点は素直に脱帽。



 100冊近く本を書いて一度も〆切に遅れたことがないというのは、ライターとしては奇跡に近いが、出版業界外の人にはすごさがわかりにくいかもしれない。
 「なんで? 〆切に遅れないなんて、社会人としてあたりまえのことじゃん」と思う向きもあろう。
 たとえば製造業の場合、納期に遅れるのは許されないことで、やらかしてしまったらヘタすりゃ損害賠償ものなわけだし……。

 しかし、物書き稼業だけはそうではないのだ。少なくとも、これまでの時代は。

 だが、本も雑誌も売れなくなり、物書き業界が「椅子取りゲーム」的状況になっているいまは、〆切を守れないルーズなライターから先に切り捨てられていく時代なのである(他人事ではない)。

 本書は、著者がどのようにして「〆切守り率100%」を死守してきたかを明かしたもの。私も、「ぜひとも学ばせていただきたい!」との思いで拝読した。
 物書きにしか参考にならない本ではなく、〆切のあるすべての仕事に役立つ内容だが、第一義的には「ライターのための〆切仕事術」の本なのである。

 面白いのは、昨年来ベストセラーになっている『〆切本』と、本書が同じ版元から出ていること。著者もそのことに言及しているが、2つの企画が重なったのは「本当に偶然」だとか。

■関連エントリ→ 『〆切本』

 後半の第3章と終章は凡庸な内容で、「前半で書きたいことは書き尽くしちゃったのかな」という印象だ。
 ただ、前半には傾聴すべきアドバイスが多い。

 ほんとうにそのとおりだと思ったのは、次の言葉。

 若い書き手の方などに講演するときによくする話があります。原稿を書く仕事というのは、二◯◯点満点である、と。
 何かといえば、原稿のクオリティ一◯◯点、〆切を守ること一◯◯点です。
 先にも書いたように、〆切を守らない人も多い業界ですから、〆切を守るだけで、これだけの価値があるぞ、ということをまず伝えたいわけですが、それだけではありません。
(中略)
 二◯◯点のうち、原稿のクオリティ一◯◯点を取るのは、極めて難しいのです。ところが、もう一◯◯点の〆切はどうか。
 ただ期日通りにきっちり仕上げるだけ、なのです。それだけで一◯◯点が取れてしまう。とても簡単ではないか、ということです。

 

 巻末に掲げられた「〆切を守るための10箇条」(本書の要点を箇条書きにしたもの)を、拡大コピーしてデスクの前に貼っておくことにする。

中川淳一郎『仕事に能力は関係ない。』



 中川淳一郎著『仕事に能力は関係ない。――27歳無職からの大逆転仕事術』(KADOKAWA/1350円)読了。

 タイトルだけ見ると、よくあるビジネス書のようだ(極端なタイトルをアイキャッチにしているあたりも)。
 が、実際にはビジネス書ではない。ネットに強いライター・編集者として知られる著者が、27歳で博報堂を辞めて無職となり、ライターを始めた駆け出し時代の思い出を綴ったエッセイなのだ。

 ゆえに、しいて分類すれば「ライター入門」ということになるが、個人的な思い出がメインだから、普遍的なライター入門としてはあまり役に立たない。

 では、エッセイとして面白いかといえば、それもビミョー。私は中川淳一郎の本をわりとたくさん読んでいるが、その中でもかなり内容の薄い部類だ。

 そもそも、「27歳無職からの大逆転仕事術」といったって、博報堂出身というキャリアは駆け出しライターとしては相当なアドバンテージであって、「大逆転」でもなんでもないと思う。

 ただ、駆け出し時代の著者が出合ったトラブルの数々を綴った部分は、かなり面白い。

 時節柄とくに目を引いたのは、『テレビブロス』誌で「SMAP解散シミュレーション」(2001年に稲垣吾郎が道交法違反で逮捕されたときの企画)という特集記事を作っていたら、会社上層部の横ヤリで企画自体がつぶされたという話。
 ジャニーズ事務所から圧力があったわけではなく、版元の自主規制でやめたというあたり、「いかにも」である。

神山典士『ゴーストライター論』



 神山典士(こうやま・のりお)著『ゴーストライター論』(平凡社新書/799円)読了。
 
 佐村河内守のゴーストライター騒動に火をつけたライターでもある著者が、作曲ではなく書籍のゴーストライターについてまとめた本。
 じつは著者自身が書籍のゴーストライター経験も豊富な人であり、佐村河内騒動に際しては知人から、「ゴーストライターがゴーストライティングの批判をしている」と揶揄されたという。

 だが、出版社から依頼を受けて執筆する一般書のゴーストと、関係者も欺いた芸術作品のゴーストは次元の違う話であり、著者が佐村河内を批判する本(『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』)を書いたことは、矛盾でもなんでもない。

 本書も「佐村河内事件の一連の報道のスピンアウト企画として生まれてきた」(あとがき)ものだが、事件うんぬんを抜きにして、ゴーストライター論として読み応えがある。

 本書に最も近い類書は、当ブログでも取り上げた『ビジネス書の9割はゴーストライター』(吉田典史)であろう。本書にも、同書についての言及がある。
 吉田の本はゴーストライターのマイナス面に強く光が当てられていたのに対し、本書は逆にゴーストライターのプラス面――仕事のやりがい・意義・醍醐味に光が当てられている。

 「ゴーストライターが文章を書いているなんて、読者に対する詐欺行為だ!」と思っている向き、ゴーストライターにマイナスイメージしかない向きには、ぜひ本書を読んでほしい。印象が一変するはずだ。

 それに、ゴーストライターにかぎらず、人物ノンフィクションについての著者の方法論を開陳した「ライター入門」としても読める内容である。

 ゴースト本の名作『成りあがり』(矢沢永吉の話を糸井重里がまとめた)を生んだ編集者にインタビューするなど、取材部分にもかなり厚みがある。「論」というより、ゴーストライターの舞台裏をさまざまな角度から探ったノンフィクションという趣。

 著者は、「ゴーストライター」という呼称そのものがネガティブでよくないとして、「チームライティング」という新しい呼称を提唱している。(名義上の)著者・ライター・編集者の三者が「チーム」となって本を作り上げていくやり方、という意味だ。
 上阪徹は同様の理由から、「ブックライター」(「書籍の聞き書きライター」の意)という呼称を提唱している。私も、「ゴーストライターではなく、『文章化のアウトソーシング』と呼べばいいのだ」と書いたことがある。

 呼び名はどうあれ、今後もゴーストライターの需要は減ることはないだろうから、ライター及びライター志望者なら読んで損はない本だ。

 複数の弁護士に取材したゴースト仕事の著作権についての考察も、興味深い。たとえゴースト仕事であっても、原稿の著作権は第一義的にはライターにあると考えられるという(!)。

 法律的に言えば、ゴーストライティングの現場で発生する著作権は、まず原稿を書いたライターにあり、それを何らかの契約によって著者に移すという流れになる。



 ゴースト本を多く手がけてきた者として、勇気づけられた。「私(名義上の著者)の話を文章にしただけなんだから、ライターに著作権なんて……」と軽んじられた経験も、まあ、皆無ではないからだ。

 もう一つ勇気づけられたのは、著者が一貫して“ゴーストライターは高いスキルを要求される仕事だ”と強調している点。
 たとえば、ゴースト経験も豊富なベテランライター・永江朗の、次のようなコメントが紹介されている。

「ある大学で教えていたときに、『ライターになりたいのでゴーストライターの仕事でも紹介していただけませんか』とやってきた学生がいて、怒ってしまいました。『ゴーストライターでも』とは何か、と。著者から魅力的な言葉を聞き出してそれを読める文章にすることを舐めてはいけない。それには高度なスキルが必要なんだと諭しました」



 このコメントには快哉を叫んだ。「ゴーストライターなんて、どうせろくに仕事のない三流ライターがやってるに違いない。一流なら署名原稿だけで食っていけるはずだから」というネガティブ・イメージがあって、常々反発を覚えていたからだ。 

 まあたしかに、署名原稿だけで食っているライター(そういう人は普通「ライター」ではなく「作家」と呼ばれるが)に比べたら「三流」かもしれないが、ゴーストライターのスキルもそう馬鹿にしたものではないのだ。

■関連エントリ→ ゴーストライターの仕事について


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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