廣末登『組長の娘』



 昨夜は、カメラマン・編集者との小規模な忘年会。
 で、今夜は地元の仲間たちと、我が家から徒歩3分の居酒屋で忘年会。
 今年の忘年会はこれで終わりだ。


 廣末登(ひろすえ・のぼる)著『組長の娘――ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫/529円)を読了。

 犯罪社会学を専門とする研究者の著者が、「社会病理集団離脱実態の研究」のためのフィールドワークとして行った聞き取り調査を元に、「組長の娘」のライフヒストリーをまとめた本。

 ヒロイン・中川茂代の半生がじつにいきいきと綴られており、その語り口が非常に魅力的だ。学術研究の一環として作られた本ではあるが、単純に聞き書きノンフィクションとして楽しめる。

 聞き書きノンフィクションの傑作といえば、竹中労の『鞍馬天狗のおじさんは――聞書アラカン一代』がまず思い浮かぶ。これは、同書に匹敵する熱量を持った書である。
 ヒロインの語りが、河内弁の乾いたユーモアと小気味よいリズムの中に写し取られており、読み出したら止まらない面白さだ。

 例として、ケンカと薬物に明け暮れた少女時代の思い出を綴った章の一節を引こう。

 

 いきなし茶色の物体でガーンいうて顔殴られてんねん、歯折れたわ。よう見たらレンガやで、レンガ。無茶苦茶やわ。うち、顔面お岩さんで家帰るわな、前で水撒いとるお母ちゃんに当然発見されるねん。第一声、「茂代、あんた勝ったんか、負けたんか」言いよる。普通やったら「茂代ちゃん、あなたどうしたのその顔、お医者さんいきましょうねえ、まあ、可哀そうに」くらい言うのがお母様や。うちのお母ちゃんの場合は、「負けたわ」いうとな、「もう一遍行って来い! このヘタレが」言いよるねん。



 ……こんな感じで、刑務所生活などがいきいきと振り返られており、読み物として上出来。

鈴木大介『老人喰い』



 鈴木大介著『老人喰い――高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/864円)読了。

 鈴木大介は、ほかの誰も手をつけない分野で、社会的意義の高いルポを書きつづけている。
 それでもいまだ賞に縁がなく「無冠」であるのは、取材テーマが「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」というキワドイものであるためだろうか。

 本書は、いわゆる「オレオレ詐欺」の現場を、当事者たちへのディープな取材から活写したもの。

 鈴木の『家のない少年たち』(『モーニング』連載中の劇画『ギャングース』の原案に当たる)をレビューしたとき、私は、「『犯罪を礼賛する気はさらさらない』と著者は『まえがき』で言うのだが、それでも犯罪をどこか肯定的に描いている印象を随所で受ける」と書いた。
 本書にも、同様の危うさを感じた。オレオレ詐欺の加害者たちを、“老人ばかりが豊かで、若者たちが貧しい格差社会への反逆者”として捉えているからだ。

 ただし、そういう危うさを差し引いてみれば、鈴木にしか書けないド迫力の犯罪ルポではある。

 オレオレ詐欺グループが、ヘタな中小企業など足元にも及ばないほど、高度に合理化・組織化されている様子に唖然とする。
 「オレオレ詐欺なんて、ダマされるヤツが馬鹿なんだ」というのは、高度化した現在のオレオレ詐欺には当てはまらない言葉だ。いまは、カネをもっている高齢者にあらかじめ狙いを定め、相手の個人情報を調べ上げて臨むやり方が増えているのだという。

 逮捕されるリスクが大きいのは、実際にカネを受け取る役の人間のみ。詐欺の主体である「店舗」で働く「プレイヤー」たちは、二重三重の安全装置に保護されて、ほとんど逮捕に至らないという。

 その「プレイヤー」たちを新たに育成する「研修」の場で、「講師」役は次のように嘯く。

「日本の老人は、世界中で最も金持ちで、最もケチな人種だ。若い人間が食えなくてヒイヒイ言ってる中で、金もってふんぞり返ってるこいつらから、たった200万程度を奪うことに、俺は一切の罪悪感を感じない。むしろ俺はこの仕事を誇りに思ってるよ」



 ……このような洗脳教育を経て、なんの罪悪感も感じず詐欺に手を染める「プレイヤー」が育成されていくのである。

■関連エントリ
鈴木大介『最貧困女子』
鈴木大介『家のない少年たち』
鈴木大介『出会い系のシングルマザーたち』
鈴木大介『家のない少女たち』

トキタセイジ『「闇金ウシジマくん」モデルが語る 路地裏拝金エレジー』


『闇金ウシジマくん』モデルが語る 路地裏拝金エレジー『闇金ウシジマくん』モデルが語る 路地裏拝金エレジー
(2014/10/24)
トキタ セイジ

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 マンガ家の青木俊直がツイッターで“連載”している「年末進子ちゃん」がカワイイ。年末進行真っ只中のささくれだった心が癒やされる。




 トキタセイジ著『「闇金ウシジマくん」モデルが語る路地裏拝金エレジー』(蒼竜社/1118円)読了。

 『闇金ウシジマくん』は緻密な取材に基いて練り上げられたフィクションだが、本書の著者はその取材対象の1人。しかも、実際に闇金を営み、主人公・丑嶋馨のモデルとなった人物なのだという。

 ただし、著者が取材を受けたのは10年前の連載開始時のこと。つまり、『闇金ウシジマくん』全体が著者の体験を基にしているわけではなく、丑嶋馨というキャラクターと基本的な作品世界を造型するにあたってモデルとなった、という位置づけだ。

 本書は、すでに闇金から足を洗っているという著者が、現役時代のエピソードの数々を語り下ろしたもの。文章にまとめたのはライターだろう。

 内容は当然、『ウシジマくん』のストーリーそのものではない。が、「あの話の原型となったのはこのエピソードなのだろうな」と思わせる話は随所に登場する。とくに、連載初期の雰囲気と相通ずるものがある。

 ただ、『ウシジマくん』を読むほど面白いかというと、それほどでもない。
 先行する類書に、当ブログでも取り上げた『闇金裏物語』(金原猛)があるが、あれのほうがまだ面白かった気がする。

 本書のライターは、文章をそつなくまとめてはいるのだが、紋切り型の表現のオンパレードで、クサイし、浅い。
 『闇金ウシジマくん』には、ときに社会学的、ときに哲学的な深みがあるが、本書にはそんな深みは絶無なのだ。

■関連エントリ→ 難波功士『社会学ウシジマくん』レビュー

なべおさみ『やくざと芸能と』


やくざと芸能と 私の愛した日本人やくざと芸能と 私の愛した日本人
(2014/05/09)
なべおさみ

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 なべおさみ著『やくざと芸能と――私の愛した日本人』(イースト・プレス/1836円)読了。

 ベテラン俳優/コメディアンの自伝エッセイ。タイトルにあるとおり、若き日からのヤクザたちとのつきあいがかなりの紙数で書かれている。
 渋谷の不良少年時代、伝説のヤクザ・花形敬(安藤組)と出会い、「お前はヤクザには向いていないから大学に行け」と言われて明治大学に進んだ、というエピソードなどである。

 ほかにも、田岡一雄、菅谷政雄、司忍、波谷守之といった有名ヤクザが登場する。
 いまはどんな大物芸能人もヤクザとの交友をひた隠しにする時代なのに、この本の赤裸々さはスゴイ。

 芸能関係の話では、なべおさみ自身が付き人をしていた水原弘や勝新太郎、そしてその2人と親しかった石原裕次郎、美空ひばりのエピソードが面白い。

 水原と勝新は、競うように夜ごと豪遊し、金を湯水のように使う。水原が1ヶ月かけて京都で映画の撮影をしたとき、ギャラが80万円なのに飲み屋のツケは120万円にのぼったという。いまなら1000万円くらい使った感覚だろうか。

 政治家がらみの話もたくさん登場する。実質的には『やくざと芸能と政治家』という感じの内容なのだ。
 中でも出色なのが、鈴木宗男の選挙応援に駆り出されたときのエピソード。

 なべおさみは応援のため道内を車で奔走するのだが、その車に白い綿パンをたくさん積み込んでいた。応援のたびに新しい綿パンに履き替え、有権者たちの前で土下座して頼み込むと、白い綿パンがドロドロに汚れ、強烈な印象を与えるのだという。
 宗男は自らもすぐにそれを取り入れ、白い綿パンでの土下座をくり返して支持者を増やしていくのだった。

 ただ、面白いエピソードは多いものの、文章が非常に読みにくい。説明不足で、読者が推察して足りない言葉を脳内補完しなければ理解できない部分が多すぎる。
 プロのライターをゴーストにしていたらこんな文章にはならないはずで、きっと本人が書いたのだと思う。

盛力健児『鎮魂――さらば、愛しの山口組』


鎮魂 〜さらば、愛しの山口組鎮魂 〜さらば、愛しの山口組
(2013/08/30)
盛力 健児

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 盛力(せいりき)健児著『鎮魂――さらば、愛しの山口組』(宝島社/1500円)読了。

 山口組に50年にわたって身を置いた元幹部の著者が、自らの極道人生を語り下ろしたノンフィクション。面白くて一気読み。

 著者は、昭和42年に起きた山口組三代目・田岡一雄暗殺未遂事件(ベラミ事件)の「報復」に動き、そのために懲役16年の実刑判決を受けて長期服役。
 だが、平成8(1996)年に出所したとき、バブル時代をくぐり抜けた山口組は、任侠道を忘れたカネまみれの巨大組織に変質していた。

 組の功労者にもかかわらず、著者は五代目に冷遇される。さらに、現・六代目の時代に組内抗争の巻き添えとなって理不尽な除名処分を受け、山口組を去る。

 ……まるで、『仁義なき戦い』と『アウトレイジ』をミックスしたような内容の本である。暴力と権謀術数渦巻くヤクザ社会のリアルが、印象的なエピソードの積み重ねで活写されていく。

 『噂の眞相』時代から腕利きとして知られたジャーナリスト・西岡研介が、インタビューと構成を担当。著者の関西弁の語りをそのまま活かした「聞き書き」のスタイルが成功しており、小気味よいリズムでグイグイ読ませる。

 宅見(勝)若頭射殺事件の絵図を描いたのが五代目組長の渡辺芳則であり、渡辺はその決定的証拠をつかんだ六代目・司忍の「クーデター」によって引退に追い込まれた……という真相がつぶさに明かされる7~8章は、じつに衝撃的。まさに『アウトレイジ』の世界だ。




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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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