歪笑小説 (集英社文庫) (2012/01/20) 東野 圭吾 商品詳細を見る |
東野圭吾著『歪笑小説』(集英社文庫/669円)読了。
この人の小説は、3冊くらいしか読んだことのない私。そのうちの1冊『黒笑小説』が面白かったので、続編である本書を買って「積ん読」しておいた。
で、2年ほど経ったいまになって読んでみたら、やっぱり面白かった。
文壇というか「小説業界」を舞台に、それぞれひとクセある編集者・作家たちがくり広げる騒動を描いた、ブラックユーモアに満ちた連作短編集(→ 歪笑小説 - Wikipedia)。
筒井康隆の傑作『大いなる助走』をもう少し薄味にして、短編連作にしたような趣。
東野にしてみれば、長編を書く合間の息抜きに書いたような連作かもしれない。
でも、むしろその肩の力の抜けた感じがいいし、収録作12編にそれぞれ趣向が凝らされていて、すごく面白い。読みやすさも飛び抜けていて、さすがは当代きっての売れっ子作家だと感心。
『黒笑小説』の収録作はどれも笑える内容だったが、本書は連作中の3編ほどが笑い抜きのシリアスなストーリーになっている。「あれっ」と意表をつかれる。ただ、シリアスな3編もそれぞれよくできているし、ほかの作品は相変わらず笑える。
中でも、「小説誌」は群を抜く傑作だと思う。
小説誌の編集部に、編集長の中学生の息子が、友人数人を連れて「職場見学」にやってくる。
彼らの案内をまかされた新米編集者に、中学生たちが鋭すぎる質問を次々と投げかける。それは小説誌という存在そのものの矛盾をグサグサと衝くようなもので、新米編集者はしだいに追いつめられていき……という内容だ。
たとえば、こんな質問が投げかけられる。
「作家は小説誌に下書きを載せているということですね。その下書きで原稿料を貰っている。そう考えていいわけですね」
「小説が完成するのを待ちきれないから、原稿料を払って毎月少しずつ原稿を貰うシステムだというのはわかりました。だけどどうしてそれを掲載しなきゃいけないんですか。お金を払ったら、それを掲載するかどうかは出版社の自由でしょ」
「それを言っちゃあおしまいよ」という感じの業界タブーに触れるストーリーで、そんな小説を東野圭吾が書いていること自体がすごい。
小説好きなら楽しめて、出版業界人なら身につまされること請け合いの連作。
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