森功『許永中 日本の闇を背負い続けた男』

許永中 日本の闇を背負い続けた男許永中 日本の闇を背負い続けた男
(2008/12/11)
森 功

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 森功著『許永中 日本の闇を背負い続けた男』(講談社/1890円)読了。

 日本の闇社会と政財界を結ぶフィクサーとして暗躍してきた、「裏経済界の帝王」許永中。その生い立ちから現在までを追った、骨太のノンフィクション。丹念な取材がなされた力作で、360ページを一気に読ませる。

 大阪府北区中津の「すり鉢の底のようなスラム街」(許自身による表現)の貧家に、在日韓国人二世として生まれた許永中。学生時代から愚連隊のリーダーとしてのし歩いていた彼は、ヤクザなどと結びついた闇社会で財を成していく。
 財力と人脈力、ある種のカリスマ性によって、許はやがて、政財界の名だたる人々とも太いパイプを築くに至る。

 そしてその果てに、「3000億円が闇に消えた」といわれる戦後最大の経済事件「イトマン事件」があった。
 著者は、そこまでの道のりを丹念にたどる。とくに、許が主役となった「イトマン事件」については、かなりの紙数を割いて真相に迫っている。

 中身の濃い作品だが、多くの出来事を盛り込みすぎの観もある。
 竹下登、亀井静香から映画監督の大林宣彦(氏は、許らが起こした事件に巻き込まれた側)に至るまで、政財界その他の著名人が次々と登場するのだが、「顔だけ見せてすぐ引っ込む」みたいな描き方をされたケースが多くて、大半の登場人物はあまり印象に残らないのだ。取り上げるエピソードと人物をもう少し絞って、一つひとつをもっとじっくり掘り下げるべきだったと思う。

 ただ、闇社会と政財界のパイプ役をつとめてきた許の歩みの背後に、高度成長からバブル崩壊に至る日本社会の歩みが二重映しとなる読後感は、なかなかのもの。書名のとおり、許は「日本の闇を背負い続けた男」だったのである。

 世の中には、魅力的な悪人もいれば魅力のない善人もいる。いまも塀の中にいる許永中は、自らも認めるとおり悪党には違いないが、しかしなかなか捨てがたい魅力の持ち主でもある。

 というのも、彼は骨の髄まで冷酷ではなく、弱者に対するやさしさも人間的なあたたかさももっているからだ。それは、少年期の貧苦と在日としての被差別体験の反映でもあろう。

 むろん、本書にはぞっとするような暴力的エピソードも少なくない。だが、読み終えて心に残るのは、悪人・許永中がふとした瞬間に見せるピュアな部分のほうなのである。

 たとえば、彼の実姉は戦時中に空襲で瀕死の大やけどを負い、いまなおその後遺症に苦しみつづけているのだが、許は少年時代からその姉をやさしくいたわり、守りつづけてきた。
 その姉は、著者からの取材に際して、許の思い出を次のように語る。

「私はこんな身体ですから、家族にはずいぶん迷惑をかけたんです。でも、あの子はいつも優しかった。夜になると、あの子が布団を敷いてくれました。そうして布団に寝かせてくれるんです。夜中には『姉ちゃん、寒うないか』と、はだけた布団を直してくれる。私は、毎日、毎日そうやって暮らしてきました」



 なお、著者は雑誌に発表した取材記事をめぐって許と決裂し、いまでは絶縁状態なのだそうだ。しかし、本書の中に許への悪意は感じられない。むろん、その悪行については客観的に記述しているが、著者が許に向ける視線は終始同情的であたたかいものだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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