佐々木馨『日蓮と一遍』

日蓮と一遍―予言と遊行の鎌倉新仏教者 (日本史リブレット 人)日蓮と一遍―予言と遊行の鎌倉新仏教者 (日本史リブレット 人)
(2010/02)
佐々木 馨

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 佐々木馨(かおる)著『日蓮と一遍――予言と遊行の鎌倉新仏教者』(山川出版社/840円)読了。正味100ページに満たないブックレットなので、すぐ読み終わった。

 百花繚乱の鎌倉新仏教のうち、日蓮と一遍(時宗の開祖)に的を絞っている点がユニークだ。
 なぜこの2人が選ばれたかというと、日本中世思想史を専門とする著者(北海道教育大教授)が、「神祇信仰」(「神明擁護」「国土の神聖視」「神孫降臨」の三要素からなる日本的な神信仰)を「中世国家と宗教の相関関係をはかる物差し」としてとらえているから。

 つまり、中世日本の宗教を、①神祇信仰を受容する「体制宗教」、②神祇信仰を排斥する「反体制宗教」、③神祇信仰を超越した「超体制宗教」の三種に大別し、②の代表格として日蓮を、③の代表格として一遍を取り上げたのが本書なのである。

 太平洋戦争当時、「日本は神々によって守護されるとともに天皇の統治する神聖な国である」とする「神国思想」が、我が国を一色に染め上げた。そして、この神国思想の淵源は、鎌倉時代に蒙古襲来という国難を台風によって回避したことにあった。
 したがって、日本の歴史から「国家と宗教」「ナショナリズムと宗教」の問題を考察するには、蒙古襲来当時の宗教状況を振り返ることが不可欠なのである。

 そのような問題意識から鎌倉仏教を眺めたとき、ともに蒙古襲来を体験しながら、その体験を咀嚼する姿勢や国家と向き合う姿勢において対照的な2人――日蓮と一遍に光が当てられるのは、むしろ当然であろう。

 ……と、知ったふうなことを書いているが、私は(日蓮はともかく)一遍についてはまったく知識がなく、本書で初めて知ったことがたくさんあった。
 盆踊りの遠い淵源が、一遍の踊り念仏にあるとは知らなかった。目からウロコ。

 神祇信仰に対するスタンスによって鎌倉新仏教を色分けするという補助線を引くことで、一見混沌としている当時の宗教状況がすっきりと概観でき、勉強になった。

 日蓮にとって、蒙古襲来は自らの宗教的確信を決定づける契機となった。対照的に、一遍はその著作物において、蒙古襲来について一度も言及していないのだという。
 一遍は出家前の若き日には武士であったし、叔父の1人が蒙古襲来時に北部九州の防備にあたるなど、「一族には蒙古襲来がらみの情報には事欠かない状態」であった。

 それなのに、どうして一遍は「蒙古襲来」について、固く口を閉ざすのか。これはある意味、一遍の生涯上の謎である。



 その謎の答えとして、著者は“一遍は蒙古襲来の恐怖から目を背けたのだ”という説を唱えている。

 一遍とその集団には、この娑婆世界が戦争によって地獄と化す現実を正気の状態で直視することはできなかった。戦さという非法の手段によって、人の命が無惨に切り落とされる現実から、一歩でも二歩でも離れたいと念じていた。
(中略)
 一遍とその集団が日本列島の「北」と「南」を遊行から回避したのは、蒙古襲来に対する異常なまでの恐怖感と不安感からであったと考えざるを得ない。(中略)蒙古襲来が引き起こす「恐怖」と「不安」を一時でも忘れるために、没我のまま宗教的エクスタシーに陥り乱舞したのである。私には、そう思えてならない。



 この仮説の当否は私には判断しかねるが、国家と宗教の関係、ひいては宗教者の社会との向き合い方を考えるうえで、本書は示唆に富む内容であった。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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