浅田次郎『君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい』


君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい
(2011/12)
浅田 次郎

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 浅田次郎著『君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい』(文藝春秋/1470円)読了。

 過去20年の間に書かれた、単行本未収録のエッセイをおもに集めたもの。ゆえに「落ち穂拾い」的印象もあって内容は玉石混交だが、よいエッセイも多い。

 私が浅田のエッセイ集で好きなのは、『勇気凛凛ルリの色』シリーズ(よいのは2巻まで。3巻以後は小説で売れっ子になりすぎたせいか、ガクッと質が落ちる)と『極道放浪記――殺(と)られてたまるか!』シリーズ。
 その2つが基本的にユーモア・エッセイであったのに対し、本書は真面目なエッセイばかりで、笑いの要素はごく少ない。

 タイトルは、浅田が小学生時代に担任教師に言われたという言葉。このタイトルが示すように、小説家としての自分を見つめ直し、振り返るエッセイが多い。また、自作解題的なエッセイもいくつかある。
 作家・浅田次郎その人に関心のある人、もしくは作家志望の人は読むとよいと思う。逆に、浅田のファンではなくたんに「よいエッセイ集が読みたい」と思う読者には、やや物足りない内容かも。

 浅田次郎は天才型の作家ではなく、努力の人、克己の人である。少年時代に作家を志し、営々と文学修行をつづけるも、中年期まで芽が出なかった。作品が初めて商業誌に載ったのは35歳のとき、初の単行本を上梓したのは39歳のときだ。
 本書の各編からは、そこまでの雌伏の日々と、現在もつづけている努力が垣間見える。

 一見して多趣味であり、さまざまの経験をしてきたようでありながら、作家としてデビューするまでの四十年間を顧みれば、読むことと書くことのほかには何もなかった。むろんそれから今日も同様である。このさきもずっと、私から小説を奪ったならば、たぶん骨のかけらも残らない(「『鉄道員』縁起」)



 そして、小説家という仕事の内実が、エッセイの形式で絶妙に表現された一冊でもある。たとえば――。

 この稼業は農耕に似ている。良い種子を手に入れ、選別し、蒔き育て、たゆまずに肥料をやったり雑草をむしったりして、何ヶ月も何年も先の収穫をめざす。その間には日照りも嵐もあるが、意志を失わず、努力を怠ってはならない。実によく似ている。
 似て非なる点といえば、耕作面積も労働力も同じであるにかかわらず、毎年の収穫量が定まらぬことであろう(「豊作」)



 ただ、浅田のもう一つの面である馬券師としての顔があらわれた競馬エッセイも多く、競馬に興味のない私はナナメに読み飛ばしてしまったが……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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