津田信『幻想の英雄』


小野田寛郎―わがルバン島の30年戦争 (人間の記録 (109))小野田寛郎―わがルバン島の30年戦争 (人間の記録 (109))
(1999/12/25)
小野田 寛郎

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 津田信著『幻想の英雄――小野田少尉との三ヵ月』(図書出版社)読了。

 佐村河内守ゴースト事件が発覚したとき、過去にあった類似の事例としてにわかに脚光を浴びた本。

 1974年に小野田寛郎がルバング島から帰還した際、彼に聞き取り取材をして週刊誌連載の手記を代筆(のちに『わがルバング島の三十年戦争』として単行本化)した著者が、3年後にその事実を明かし、英雄視された小野田寛郎の実像を暴いたものなのである。

 なるほど、「ゴーストライターによる告発」という図式は佐村河内事件と共通だ。

 もっとも、芸術作品のゴースト(しかも、関係各社を騙してのゴースト)と非芸術書籍の聞き書きではまるで次元が異なると思うのだが、業界外の人たちにはその違いがわからないようで、「ゴーストライター」というだけでうさん臭いイメージで見られる昨今の風潮には、ライターの一人として閉口している。

 ゴーストライター経験者のブログに、そのへんの違いをうまく説明してくれているエントリが立て続けにアップされたので、貼っておく。

書籍のゴーストライターというエコシステム|佐々木俊尚 blog
ライター神田憲行の日記 : ゴーストライターというお仕事

 それはともかく、この『幻想の英雄』は大変面白かった。

 私は図書館の保存庫から出してきてもらって読んだのだが、津田信の長男である山田順(前に当ブログで取り上げた『出版大崩壊』『出版・新聞 絶望未来』の著者)が自身のサイトで全文を公開しているので、興味のある向きはご一読を。

 津田信と同じようにゴーストライターの仕事もしている身としては、彼の暴露を肯定することはできない。それはライターとしての職業倫理に悖る行為であるはずだ。どんないきさつがあったにせよ、ゴーストライターとして仕事を請け負った以上、黒子としての立場を崩すべきではない。
(というと、「お前は新垣隆さんの勇気ある告発をディスるのか?」と言われそうだが、上に書いたとおり、あれは次元の違う話だと思っている)

 ただ、津田信の本業は小説家であり、しかも作品のほとんどが私小説であったとのことだから、「それならしょうがないか」という気もする。
 家族や親類、友人知人のプライバシーまで容赦なく作品の素材とするのが、私小説書きの性(さが)である。そのことの是非はともあれ、津田が小野田寛郎とすごした日々の真実を書かずにはいられなかったことは理解できる。

 そんな舞台裏のあれこれについてはともかく、本書を虚心坦懐に読むなら、非常に優れたノンフィクションであると思う。津田の作家としての力量がよくわかる。小野田寛郎の人間像が、眼前に立っているかのように鮮やかに浮かぶのだ。

 だがしかし、津田が暴露したその「人間像」は、ルバング島にいた30年の間に罪のない島民を多数殺害(本書に記された本人の言によれば、殺したのは約30人)し、しかも島民へのあからさまな蔑視を隠そうともしない、恐るべきものなのである。
 じつに衝撃的な1冊。ゴーストうんぬんの下世話な興味を差し引いても、一読に値する。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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