『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』



 『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』を映像配信で観た。『さよなら渓谷』『ゲルマニウムの夜』などで知られる大森立嗣監督の、2010年作品。

 安藤サクラがヒロインであるということのみで手を伸ばしたものだが、けっこうよかった。
 2010年代の日本ならではの、ヒリヒリと痛い青春映画である。

 ともに児童養護施設育ちで、過酷な肉体労働(解体業のハツリ)に従事している2人の若者と、彼らに街でナンパされてホイホイついてくる頭の弱い女の子の逃避行(職場でのイジメに耐え切れず、会社の軽トラックを盗んで逃げ出す)を描いたロードムービー。



 明示されてはいないものの、安藤サクラ演ずるヒロイン・カヨちゃんは明らかに軽度知的障害である。
 いっぽう、ケンタとジュンも、劣悪な生育環境のせいで知的能力は小学生程度(ジュンは小学校低学年程度)にとどまっていることが、セリフなどから見てとれる。

 そのような、およそ青春映画の主人公らしからぬ面々なのだが、貧困問題と格差拡大が深刻化し、閉塞感に満ちたいまの日本の青春映画には、むしろふさわしい。

 一般にロードムービーは、たとえ絶望的な逃避行を描いても、流れていく風景が観る者に開放感を感じさせるものだ(例:『テルマ&ルイーズ』)。
 ところが、本作には開放感が微塵もない。ビックリするほど閉塞感に満ちたロードムービーになっているのだ。しかし、その閉塞感こそが、他の類似作にない「味」である。

 ラストの展開にもうひとひねり欲しかったところだが、その瑕疵を除けばなかなかの秀作だと思う。

 主演の3人が甲乙つけがたい熱演。
 とくに安藤サクラは、フェリー二の『道』のヒロイン、ジェルソミーナのような「無知ゆえのイノセンス」を感じさせて秀逸。
 途中、ケンタとジュンがカヨを高速のサービスエリアに「捨てていく」場面があるのだが、それは『道』で旅芸人ザンパノがジェルソミーナを捨てていく場面を彷彿とさせる(たぶん、監督・脚本の大森立嗣は『道』を意識している)。

 ケンタ役の松田翔太にも感心した。チャラいだけのイケメンだとばかり思っていたので、こんなに繊細な演技ができるとは思わなかったのだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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