大崎善生『赦す人――団鬼六伝』



 大崎善生著『赦(ゆる)す人――団鬼六伝』(新潮文庫/853円)読了。
 晩年の団鬼六と関係者に、2年にわたる取材を行って書き上げた評伝である。

 団鬼六の波乱万丈の生涯については、生前の団自身が、エッセイや小説などの形でくり返し綴ってきた。私もそれらを読んできたから、「前に読んだことがある」というエピソードがかなり多く含まれている。
 とはいえ、本書にも指摘があるように、団の自伝的著作にはかなり脚色もあるようだから、客観的視点からの評伝にはそれなりの意義もあろう。

 大崎自身が将棋の世界に深く足を踏み入れた人だから、将棋界と切っても切れない団鬼六の生涯を描くには適任と言える。じっさい、大崎自身も面識のあった小池重明(真剣師)と団のかかわりを描いた章など、この著者ならではの深みがある。

 また、著者自身が小説とノンフィクションの両分野で活躍してきた人だから、小説家・団鬼六の内面に踏み込んだ推察・分析には、目を瞠る鋭さがある。
 たとえば、純文学から出発し、SM小説の世界に転じ、晩年に再び純文学的な作品に回帰した……などという転機に際して団が何を考えていたかが、心の奥まで見通すように明快に分析されているのだ。

 ただ、そうした美点とは裏腹に、細部の刈り込みと書き込みが足りない気もする。
 第1に、団や周辺の人々が綴った著作からの引用に、安易に頼りすぎている。
 第2に、著者の「自分語り」が多すぎる(著者の学生時代や作家デビュー以前の思い出など、団鬼六と関係のない記述がけっこうあって、読んでいてウザい)。
 2年もかけて取材したのなら、もっと緊密な内容にできたはずだと思う。

 と、ケチをつけてしまったが、あっという間に読み通してしまう面白い本であることは確か。ただ、その面白さはかなりの部分まで、団の生涯それ自体の面白さによるのだが……。

 本書を読んで改めて思うのは、団鬼六が作家としてまぎれもない天才であったということ。たとえば、団が著者と、デビュー当時を振り返って次のようなやりとりをかわす場面がある。

「私はね、書いた原稿はただの一枚も無駄にしたことがありまへん。すべて金になっています。最初に書いた小説がいきなり佳作に入りまして。その次も次点。それらを集めて短編集を作りまして……。だから無駄は一切なしや」
「習作のようなものは?」
「ありまへん。一枚も」
「下書きとか?」
「はあ。なんでそんなことせなあかんのや」と鬼六は豪快に笑う。



■関連エントリ
団鬼六『死んでたまるか』
団鬼六『牛丼屋にて』ほか
団鬼六『悦楽王』
団鬼六『往きて還らず』

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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