中川雅之『ニッポンの貧困』



 一昨日は、立教大学経済学部の郭洋春教授を取材。テーマは軽減税率。

 昨日は、来日中の「Gaviワクチンアライアンス」理事長・オコンジョさんを取材。
 「Gaviワクチンアライアンス」は、途上国の貧しい子どもたちへのワクチン接種普及を推進する同盟(アライアンス)。オコンジョさんは、元ナイジェリア財務大臣/前世界銀行副総裁でもある。
 
 このところ取材がバタバタつづいていたが、これで一区切り。来週はアウトプット――つまり原稿書きに専念する予定。


 中川雅之著『ニッポンの貧困――必要なのは「慈善」より「投資」』(日経BP社/1512円)読了。

 本書は、『日経ビジネス』の貧困問題特集をベースにしたもの。「日経がついに貧困問題を取り上げたか」と話題を読んだ特集だ。著者は、1982年生まれのまだ若い日経記者。

 全体に日経ならではの視点が感じられ、その点が類書との差別化にうまくつながっている。
 「貧困問題」本は、「こんなにも貧しくてカワイソウな人たちがたくさんいるんですよ~。やっぱ日本の政治が悪いですよね~」で終わってしまう例が少なくない。「では、どうすればいいのか?」には目が向けられず、ジャーナリスティックな視点に欠ける感傷的な本が多いのだ。

 対して、本書の著者の視点は一貫してジャーナリスティックで冷静であり、貧困対策の側面に強く目が向けられている。
 それも、「貧困対策を進めるべき理由を、倫理や善意ではなく、できる限り経済合理性に求めよう、というのが本書の大きな試みだった」(「おわりに」)とあるとおり、貧困対策を有効で不可欠な社会的投資として捉える視点が全編に通底しており、その点が大きな特長になっている。

 たとえば、第3章「女性と家族を巡る軋み」には、次のような一節がある。

 子供が親にとっての宝であることは間違いない。だが同時に子供には、貴重な社会資源という側面もある。女性の貧困が男性の貧困よりも深刻な問題として認識されるのは、男女の賃金的な不平等があるためだけではない。女性のほうが現実的に育児を引き受けることが多く、そこから派生する貧困が子供時代に連鎖する可能性が高いからだ。親のためではなく、子供のために必要な施策を実行できなければ、この国はより多くの子供の貧困を生み続けることになる。



 貧困対策を「未来への投資」と捉える視点を打ち出した本としては、当ブログでも取り上げた阿部彩の『子どもの貧困Ⅱ――解決策を考える』が、すでにある。本書でも、そのテーマにストレートに迫った第5章「『貧困投資』はペイする」には、阿部彩(現・首都大学東京教授)へのインタビューが収録されている。

 この第5章は本書の白眉であり、最も読み応えがある。その中から、印象的な一節を引く。

 貧困状態の人ほど健康を害し、容体が深刻化するリスクが高いことから、貧困対策には医療費の抑制効果も期待できる。犯罪などのリスク軽減や、そこから波及する刑務所の運営コストの低減などを期待する声も大きい。



 貧困問題が「貧困層のみの問題」ではなく、社会全体の大きなリスクであることを改めて認識させ、解決策を提示する良書。

 なお、本書の一部は「日経ビジネスオンライン」で読める。
 「大学にさえ行けばいいなんて、イリュージョン」という発言がネットで「炎上」した日本学生支援機構理事長へのインタビューも読める。私は本書でこのインタビューの全文を初めて読み、むしろこの理事長に好感を抱いた。非常に率直にホンネを語ってはいるが、言っていることは至極まっとうだと思う。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
26位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
21位
アクセスランキングを見る>>